天正遣欧使節の冒険と、俵屋宗達とカラヴァッジョの奇跡

『風神雷神 Juppiter, Aeolus』上・下|原田マハ・著

風神雷神 Juppiter, Aeolus 上原田マハさんの長編小説、『風神雷神 Juppiter, Aeolus(ユピテル・アイオロス)』上・下(PHP研究所)を紹介します。

本書は、生没年不詳で江戸初期に活躍し、琳派の祖といわれる絵師俵屋宗達の前半生を描いた、歴史ミステリーです。

20XX年秋、京都国立博物館研究員の望月彩のもとに、マカオ博物館の学芸員、レイモンド・ウォンと名乗る男が現れた。彼に導かれ、マカオを訪れた彩が目にしたものは、「風神雷神」が描かれた西洋絵画、天正遣欧使節団の一員・原マルティノの署名が残る古文書、そしてその中に書かれた「俵…屋…宗…達」の四文字だった――。
(カバー帯の紹介文より)

博物館研究員で、俵屋宗達の研究者でもある彩のもとに、マカオ博物館のレイモンドに誘われて、マカオを訪れるところから物語が始まります。そこで、彩は、驚くほど精巧でち密に描かれたカラヴァッジョ風の西洋画の「風神(ユピテル)、雷神(アイオロス)」を目にします。

そして、絵とともに、天正遣欧少年使節の一人、原マルティノのラテン語の署名が入った古文書を見せられます。本文は日本語で書かれていて、「俵屋宗達」の文字が記載されている箇所がありました。

――行こう。
 かの地へ行こう。
 もう一度、あの絵師にまみえるのだ――。
 
(『風神雷神 Juppiter, Aeolus』上巻 P.59より)

彩が目にした古文書の世界に、物語は移ります。

天正八年(1580)の肥前・有馬のセミナリオで、十二歳の原マルティノは、天正遣欧使節となる、一歳年下の中浦ジュリアン、大友宗麟の遠縁にあたる少年伊東マンショ、有馬の領主有馬晴信の従兄弟に当たる千々石ミゲルら、キリストの教えを学んでいました。

ある日、このセミナリオに野々村伊三郎宗達と名乗る、十四歳の少年がやってきます。宗達は天下人の織田信長から賜った名前だといいます。

織田信長と宗達の対峙、そして当代一の絵師狩野永徳と宗達の共同での創作シーンが前半の山場です。安土桃山時代の美術界にトリップできます。

そして、宗達はある使命を帯びて、天正遣欧使節に同行することになります。

物語の後半では、虚実を巧みに織り交ぜながら、天正遣欧少年使節のローマを目指した冒険の旅と、目的地ローマで体験した奇跡がドラマティックに描かれています。

過酷な旅の中で、時には争い時には助け合い、宗達と四人の少年使節たちとの友情が育まれていきます。少年たちが個性豊かに躍動する青春小説であり、歴史アート小説として日本・桃山×イタリア・ルネッサンスの世界にどっぷりに浸れます。

美術館の学芸員が歴史的文化財の謎を読み解くという物語構成は、梓澤要さんの『百枚の定家』が思い出されて、知的好奇心が刺激されます(絶版のようなので、ぜひ復刊してほしい作品のひとつです)。

また、天正遣欧少年使節を題材にした時代小説では、村木嵐さんの『マルガリータ』もおすすめです。

●目次
風神雷神 Juppiter, Aeolus(上)
プロローグ
第一章
第二章

風神雷神 Juppiter, Aeolus(下)
第二章 承前
第三章
第四章
エピローグ

●書誌データ
風神雷神 Juppiter, Aeolus(上・下)
著者:原田マハ
出版社:PHP研究所
2019年11月12日第1版第1刷発行

装幀:重実生哉
装画:風神雷神図屏風(部分、俵屋宗達筆、建仁寺蔵、画像提供・京都国立博物館)

(上)363ページ、(下)314ページ

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『風神雷神 Juppiter, Aeolus』 上(原田マハ・PHP研究所)
『風神雷神 Juppiter, Aeolus』 下(原田マハ・PHP研究所)
『百枚の定家(上〉』(梓澤要・幻冬舎文庫)
『マルガリータ』(村木嵐・文春文庫)

原田マハ|時代小説リスト
原田マハ|はらだまは|作家 1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。美術館勤務を経て、フリーのキュレーター、ライターとして活躍。 2012年、『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞受...