『おてんば剣法ごめんあそばせ1 深川の鬼娘』 『能登情話 小料理のどか屋 人情帖44』 『抜け荷の海 剣客旗本と半玉同心捕物暦6』
2025年6月下旬に刊行された、二見時代小説文庫の新刊3冊をご紹介いたします。
おてんば剣法ごめんあそばせ1 深川の鬼娘
カバーイラスト:安里英晴
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
伊丹完(いたみ・かん)さんによる『深川の鬼娘』は、剣術が得意なおてんば娘と、踊りが上手な優しい兄の双子の兄妹が活躍する新シリーズです。
あらすじ
深川の道具屋の娘・お光は男まさりのおてんば娘、双子の兄・清太郎はおとなしく引っ込み思案。悩んだ父親は、お光に踊りを、清太郎には剣術を習わせましたが、気がつけば二人はすっかり入れ替わっていました。剣に秀でたお光は、大名家に奥女中として仕え、姫君に剣術を指南することになります。そして、姫君に市内を持たせようとするのですが……。ある夜、お光は屋敷に忍び込んだ盗人を見事に捕らえ――。
(『おてんば剣法ごめんあそばせ1 深川の鬼娘』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
小栗藩のはみ出し藩士たちが町人に成りすまし、老中を務める藩主の密命で江戸に巣くう悪を懲らしめた「大江戸秘密指令」シリーズで好評を博した著者による、新たなシリーズが幕を開けました。
深川佐賀町の道具屋・田島屋清兵衛は、男手ひとつで双子の兄妹・清太郎とお光を育ててきました。双子の出産は、多産の獣を連想させるとして世間から忌避されがちでしたが、清兵衛は二人を分け隔てなく愛情深く育てました。
ところが、清太郎はおとなしく引っ込み思案に育ち、お光は男勝りのおてんば娘として、大柄な男の子たちを子分のように従え、“深川の鬼娘”と呼ばれるほどの存在に。一方、清太郎は女子とばかり遊ぶようになっていました。
将来を案じた清兵衛は、お光に踊りを、清太郎に剣術を習わせます。二人は父の勧めでそれぞれの稽古に通い始めましたが、半年以上が過ぎたある日、清兵衛は二人が入れ替わっていたことに気づきます。清太郎の代わりにお光が剣術に励み、お光の代わりに清太郎が踊りの稽古に通っていたのです。
双子の入れ替わりという古典的な題材は、映画でもたびたび扱われ、そこで起こる悲喜劇が作品の魅力となっています。映画マニアでもある著者の視点が活きた、痛快でテンポの良い物語が楽しめる、新シリーズの第1作です。
今回取り上げた本
目次
第一章 深川の鬼娘
第二章 夢睡流剣術指南
第三章 屋敷奉公
第四章 女武者
2025年7月25日 初版発行
本文280ページ
文庫書き下ろし

能登情話 小料理のどか屋 人情帖44
カバーイラスト:宇野信哉
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
倉阪鬼一郎(くらさか・きいちろう)さんの『能登情話』は、横山町の旅籠付き小料理屋「のどか屋」を舞台にした、人情料理シリーズの第44作です。
あらすじ
のどか屋の万吉とおひなは、そろって寺子屋に通うようになり、母猫のこゆきは出産を控えています。穏やかな新年を迎え、なじみとなった越中富山の薬売り衆も訪れます。そんななか、万年同心・万年平之助がもたらしたのは、「般若の千吉」と名乗る盗賊が江戸に流れ込んだという知らせでした。「親子の十手」にかけても、捕縛の役に立ちたいと願う千吉。のどか屋の面々にも緊張が走ります。
(『能登情話 小料理のどか屋 人情帖44』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
宇野信哉さんによる表紙装画を眺めていると、能登輪島の白米千枚田(しろよね・せんまいだ)が思い浮かびます。

本作では、富山の薬売り衆を率いるかしら・孫助が、正月の江戸を訪れ、定宿とするのどか屋に逗留するところから物語が始まります。一行には、能登出身の見習いである仁作の姿もあり、彼にとっては今回が初めての江戸です。
薬売り衆は、寒鮃の昆布締めや寒鰤の照り焼きでもてなされ、食後には仁作が父の形見である花札を取り出し、のどか屋の子どもたちも加わって賑やかに遊び始めます。
時代小説で花札の遊びがしっかりと描かれるのは珍しく、役の作り方などルールも簡潔に説明されており、久しぶりに遊んでみたくなるような描写が印象的です。
和気あいあいとした雰囲気が広がるのどか屋に、万年同心が現れ、「般若の千吉」と名乗る凶悪な盗賊が江戸に現れたことを告げます。同じ名を持つのどか屋の二代目・千吉は、この知らせに強い憤りを覚え……。
本シリーズは、美味しい料理に加え、客との心温まる交流、そして捕物の醍醐味が三位一体となった魅力が光ります。元大和梨川藩の侍であるのどか屋のあるじ・時吉の立ち回り、息子の千吉、女房・おちよの勘の冴えによって、これまでも幾度となく悪を退けてきました。今回は、どのような活躍が見られるのでしょうか。
今回取り上げた本
目次
第一章 おせち盛り合わせ
第二章 煮奴と豆腐飯
第三章 細工寿司と牡蠣飯
第四章 牡蠣飯とほうとう鍋
第五章 千吉対千吉
第六章 千人の千吉
第七章 それぞれの豆腐飯
第八章 稲荷寿司のつくり方
第九章 鰹茶漬けとはさみ揚げ
第十章 能登はやさしや
終章 おひな寿司とねこ日和
2025年7月25日 初版発行
本文253ページ
文庫書き下ろし

抜け荷の海 剣客旗本と半玉同心捕物暦6
カバーイラスト:安里英晴
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)
早見俊(はやみ・しゅん)さんの『抜け荷の海』は、剣術道場の師範代をつとめる名門旗本と、武芸が苦手な“半玉”同心が活躍する捕物シリーズの第6弾です。
あらすじ
網野藩・福浦家に伝わる雪舟作「天橋立図」の真贋をめぐり、父を殺された姉弟が仇敵を追います。ようやく探し当てた相手は「一日だけ待ってほしい」と言い残し姿を消しましたが、その一日が流れを大きく変えていきます。「天橋立図」は、思いもよらぬ場所に隠されているらしく、その背後には福浦党と抜け荷の疑惑が。御庭番や市井の者を次々と闇に葬る黒幕の正体とは……?
(『抜け荷の海 剣客旗本と半玉同心捕物暦6』のカバー裏面の紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
文庫書き下ろし時代小説の名手による、人気シリーズ第6弾です。 本作では、丹後国・網野藩福浦家をめぐって発生する三つの事件――藩士の父を殺された姉弟の仇討ち、福浦家の家宝・雪舟作「天橋立図」の真贋をめぐる騒動と盗難、そして抜け荷の疑惑が絡み合い、物語は大きく展開していきます。
半玉同心・香取民部は、ひょんなことから仇討ち騒動に巻き込まれていきます。一方、旗本・船岡虎之介は、三河以来の名門の出で、五百石取りの無役ながら、中西派一刀流・瀬尾道場で師範代を務める実力派剣客。民部が尊敬する師でもあります。
ある日、虎之介は叔父で大目付の岩坂備前守貞治に呼び出され、福浦家からの依頼を受けます。家宝である雪舟の「天橋立図」が骨董小僧・定吉によって盗まれ、その奪還を託されたのです。盗品のありかは判明したものの、そこは公儀が立ち入れない難所でした――。
複雑に絡み合う謎に、剣客旗本と半玉同心の師弟コンビが挑む、痛快な時代捕物帳。今作でも読者を引き込む巧みな構成と、剣と知恵の冴えが光ります。ぜひご堪能ください。
今回取り上げた本
目次
第一章 仇討ちと海賊
第二章 古の剣術
第三章 家宝の行方
第四章 密約書
第五章 競りの果て
2025年7月25日 初版発行
本文315ページ
文庫書き下ろし
