歌麿、写楽、馬琴…、絵師と戯作者を描いて蔦屋重三郎に迫る

『うかれ十郎兵衛』|吉森大祐|講談社

うかれ十郎兵衛吉森大祐(よしもりだいすけ)さんの時代小説、『うかれ十郎兵衛』(講談社)を入手しました。

著者は、2017年に『幕末ダウンタウン』で第12回小説現代長編小説新人賞を受賞し、2020年に『ぴりりと可楽!』で第3回細谷正充賞を受賞した、新進気鋭の時代小説作家です。

本書は、稀代の出版プロデューサー蔦屋重三郎が手掛けた、喜多川歌麿、東洲斎写楽、恋川春町らの絵師や作家たちを描いた連作短編集です。

寛永六年、奢侈禁止令によって客足が遠退き、破綻の危機に瀕した芝居町。立て直しのために芝居小屋「都座」の座主・都伝内が白羽の矢を立てたのは蔦谷重三郎だった。同じく奢侈禁止令の影響でさびれていた吉原遊郭を、無名の絵師だった喜多川歌麿を起用して花魁の錦絵を描かせ、評判を高めて再興した手腕が買われたのだ。苦慮する蔦重は、都伝内が上方から迎えた人気作者・並木五瓶の話を聞き、書見台に散らばる走り書きに目をつける――。

(本書カバー帯の紹介文より)

奢侈禁止のお達しが出てから、根津門前、深川八幡、千住、品川、新宿などの、安い女を安く売る不認可の色町にお客が流れて、吉原は客足が落ちていました。

大見世の妓楼の旦那衆は、元は吉原生まれで、今では日本橋通油町に地本屋を構える、蔦屋重三郎に吉原に客を呼び戻す方策について相談をしました。

重三郎はとびきりの美女を特別な人気者に仕立てて、それを看板にすることを提案しました。浮世絵や草紙などで評判をあげて、滅多に姿を現さない、そうして値をつり上げ、格の高い上客を吉原に呼び込みましょうと。

「この蔦重ともあろうものが、既に知られた名を使うとお思いですか。この重三郎が仕掛けるものは、常に新しく、ひとの見たことのないものでございます。こちらをご覧ください」
 と重三郎は、突然、背後にいる勇助をふりかえった。
「ここに控えるのは、わたくしが若手で随一と買っている絵師でございます」
 
(『うかれ十郎兵衛』 P.13より)

重三郎は、吉原の重鎮たちに、吉原の浮沈を賭けた新花魁の錦絵と上得意向け用のまくら絵を描く絵師として、勇助(後の喜多川歌麿)を紹介しました。

そのころ勇助は鳥山石燕門下の町絵師で女性を描いたことはなく、病身の女房・於理世と二人の貧乏暮らしをしていました。

表題作「うかれ十郎兵衛」では、わずか十か月の活動期間で忽然と消えた東洲斎写楽の秘密に迫ります。

「桔梗屋の女房」では、筆禍によて藩と幕府から圧迫受けた、人気戯作者恋川春町こと駿河小島藩江戸留守居役倉橋寿平が描かれています。

「木挽町の絵師」には若き日の葛飾北斎(鉄蔵)が、「白縫姫奇譚」には重三郎の「耕書堂」の手代として働く修業時代の曲亭馬琴(瑣吉)が登場します。

絵師や作家の仕事に懸ける想いと業、それらを引き出して昇華させる天才、蔦重が鮮やかに描き出された連作集です。

寛政の改革による奢侈禁止令の影響で沈みこむ町と、立て直そうとする蔦重をはじめとして、町人たちの乗り越える力が描かれ、不世出の絵師や戯作者が生まれた、時代を映しとった面白さがあります。

うかれ十郎兵衛

吉森大祐
講談社
2021年4月22日第一刷発行

装画:村上豊
装幀:坂野公一(welle design)

●目次
美女礼讃
桔梗屋の女房
木挽町の絵師
白縫姫奇譚
うかれ十郎兵衛

本文236ページ

「白縫姫奇譚」(「小説現代」2020年5月号初出)
「桔梗屋の女房」(「小説現代」2020年10月号初出)
「美女礼讃」「木挽町の絵師」「うかれ十郎兵衛」は書き下ろし

■Amazon.co.jp
『うかれ十郎兵衛』(吉森大祐・講談社)
『幕末ダウンタウン』(吉森大祐・講談社)
『ぴりりと可楽!』(吉森大祐・講談社)

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