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大岡越前の寺子屋の女師匠と算術少女たちの和算バトル

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お師匠さま、整いました!泉ゆたかさんの長編時代小説、『お師匠さま、整いました!』(講談社文庫)を入手しました。

著者の泉さんは、本作品で2016年に第11回小説現代長編新人賞を受賞してデビューし、2019年、『髪結百花』で第1回日本歴史時代作家協会賞を受賞しています。

亡き夫の跡を継ぎ、浄見寺で寺子屋の師匠をしている桃。ある日、すでに大人でありながら、学問を学び直したいという春が訪ねてくる。最初は戸惑う桃だったが、春の隠れた才に次第に魅せられていく。一方、寺子屋で一番優秀な生意気娘の鈴は、春のことが面白くないようで。
(文庫カバー裏の紹介文より)

作品の舞台は、相模国高座郡堤村(現在の茅ヶ崎市)にある浄見寺の寺子屋。浄見寺は、大岡家代々の菩提寺で、当時、江戸南町奉行の大岡越前守忠相を迎えて夏まつりが開かれていました。

亡くなった夫の跡を継いで浄見寺の寺子屋を仕切る女師匠が主人公の桃。桃の寺子屋は、教育熱心な大岡越前守の資金援助を得て、貧しい家の子供が気兼ねなく勉学に励むことができる環境を作り、どんな境遇の子であろうと受け入れています。

その寺子屋にある日、小田原から身寄りのない娘・春がやってきました。先の大雨による鉄砲水で父母を亡くして身寄りがなくなった春は、十四、五歳くらいで寺子屋で学ぶ筆子の年齢を大きく超えていました。

 春はどこから見ても立派な大人だ。寺子屋の子供たちは、大人の女が自分たちと席を並べる状況について、どんな顔をするだろう。
「はい。おらは、もう何も持っていません。一から学問を学び直したいのです」
 春は急にまともな口調になって、土下座をするように地面に両手をついた。
「幼い頃に寺子屋でお師匠さんから学問を学んだ時が、人生で一番幸せな時でした。父ちゃんも母ちゃんも死んで、これからおらは何して生きたらいいか、皆目わからないのです」
(『お師匠さま、整いました!』P.17より)

「学問は、深めれば深めるほど頭がすっきりする、学問に没頭することで頭を冷やしたい」という、向学心に燃える娘・春の登場で、物語に引き込まれていきます。

算術家を夢見る、桃の寺子屋で一番賢くて、生意気な金持ちの商人の娘、鈴とのライバル関係も気になるところです。

桃の夫、清道は、円周率を数え上げたことで知られる建部賢弘に学び関流の免許を皆伝された優秀な算術家でした。

鳴海風さんの『円周率を計算した男』をはじめ、日本独自に発達した数学である和算を扱った時代小説は秀作ぞろいで知的好奇心を刺激します。

目次
桃の寺子屋
天賦の才
大岡越前守の量地塾
清道の手紙
酒匂川へ
算額の誉
解説 大矢博子

■Amazon.co.jp
『お師匠さま、整いました!』(泉ゆたか・講談社文庫)
『円周率を計算した男』(鳴海風・新人物文庫)

泉ゆたか|時代小説リスト
泉ゆたか|いずみゆたか|時代小説・作家 1982年、神奈川県逗子市生まれ。 早稲田大学大学院修士課程卒業。 2016年、『お師匠さま、整いました!』で第11回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。 2019年、『髪結百花』で第8回日本歴史時代...