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妹が商いのライバルに。五鈴屋江戸店に最大の危機襲来

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『あきない世傳 金と銀(九) 淵泉篇』

あきない世傳 金と銀(九) 淵泉篇高田郁さんの文庫書き下ろし時代小説、『あきない世傳(せいでん) 金と銀(九) 淵泉(えんせん)篇』(ハルキ文庫)を入手しました。

大坂から江戸に進出した呉服太物商・五鈴屋(いすずや)の店主・幸(さち)を主人公に描く、大人気、細腕繁盛記の第九弾です。

最近、Kindleなどの電子書籍を入手する機会も多いのですが、やはり紙の本を手にすると、いいなあと思うことが少なくありません。

とくに本のカバー、装画と装幀を見ているだけで飽きません。
油断すると、30分ぐらいあっという間に経ってしまうこともあります。
文庫本カバーには、限られたスペースの中に、多くの情報が盛り込まれていて、著者や編集者、営業など、出版に携わった人たちの叡智が結集されています。

本シリーズの装画は卯月みゆきさんが担当されています。
今回も春疾風の中、足早に歩く、嫋やかで美しい、幸が描かれています。

今まで気に留めていなかったのですが、装幀をブックデザイナーの多田和博さん(+フィールド)が手掛けられています。
装画などビジュアルを生かしながらも、タイトル文字の視認性の高さとバランスの絶妙さに特徴があります。
多田さんが装幀を手掛けた本としては、葉室麟さんの『蜩ノ記』など多数ありますが、20119年2月に69歳で亡くなられているので、今後そのデザインを目にして手にする機会が減っていくのがとても残念です。

大坂から江戸に出店して四年目、まさにこれから、という矢先、呉服太物商の五鈴屋は、店主幸の妹、結により厳しい事態に追い込まれる。型彫師の機転によりその危機を脱したと思いきや、今度は商いの存亡にかかわる最大の困難が待ち受けていた。だが、五鈴屋の主従は絶望の淵に突き落とされながらも、こんこんと湧き上がる泉のように知恵を絞り、新たなる夢を育んでいく。商道を究めることを縦糸に、折々の人間模様を緯糸に、織りなされていく江戸時代中期の商家の物語。話題沸騰の大人気シリーズ第九弾!!
(本書カバー裏の紹介文より)

幸の妹で、五鈴屋江戸店を手伝う結(ゆい)が、大晦日の早朝、「かんにん」との書き置きを残し、今後の五鈴屋の命運を賭す大事な小紋様の型紙を入れた文箱を持ち去りました。

幸をはじめ、店の者は心配して、その行方を捜しますがどうしても見つかりません。

その日の夜、結を後添いにと熱望していた本両替商、音羽屋の番頭から結は無事で店で休んでもらっていると伝えてきました。

型紙ごと妹を連れ戻したいという、姉・幸の願いもむなしく、音羽屋の主忠兵衛は、「結さんは五鈴屋に戻りたくない、姉にも店の者にも二度と会いたくない」と言って譲らないと拒みました。

結はそのまま、忠兵衛の後添いとなりました。
そのお披露目の日に、幸は花嫁の結とあって、本心を聞き出しました。

 姉妹は、暫く、何の言葉も発せずに、互いを見つめ合った。
 徐に唇を解いて、結、と姉は妹を呼んだ。
 「これが、本当にあなたの望んだことなのですか? 悔いはないの?」
「悔いやなんて」
 甘い笑みを含んだ声で、結は柔らかに答える。
「これで、ようやっと(漸く)私は姉さんの呪縛から逃れらます」
 呪縛、と繰り返す姉に、妹は嫋やかに顎を引いてみせた。
 
(『あきない世傳 金と銀(九) 淵泉篇』P.51より)

息詰まる姉妹のやり取り、そして、結から音羽屋の手に渡った型紙にも、ある秘密が……。

歩む道が分かれてしまった二人、いつかその道は交わるのでしょうか。

幸を中心とした人間模様の機微とともに、「ただ金銀が町人の氏系図になるぞかし」という、井原西鶴著『日本永代蔵』の言葉が扉に掲げられて始まる物語には、商いの知恵が随所に描かれています。

あきない世傳 金と銀(九) 淵泉篇

高田郁
角川春樹事務所 ハルキ文庫
2020年9月18日第一刷発行

文庫書き下ろし

装画:卯月みゆき
装幀:多田和博+フィールドワーク

●目次
第一章 ままならぬ心
第二章 ふたつ道
第三章 春疾風
第四章 伯仲
第五章 罠
第六章 菜根譚
第七章 帰郷
第八章 のちの月
第九章 大坂の夢 江戸の夢
第十章 出藍
第十一章 天赦日
巻末付録 治兵衛のあきない講座

本文329ページ

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『あきない世傳 金と銀(九) 淵泉篇』(高田郁・ハルキ文庫)
『蜩ノ記』(葉室麟・祥伝社文庫)

高田郁(髙田郁)|時代小説ガイド
高田郁|たかだかおる(髙田郁)|時代小説・作家兵庫県宝塚市生まれ。中央大学法学部卒。漫画原作者を経て、2008年、『出世花』で小説家としてデビュー。2013年、『銀二貫』で第1回大阪ほんま本大賞を受賞。2022年、『ふるさと銀河線―軌道春秋...