若者は、漆黒の闇に明かりを灯すために脱藩し江戸を目指す

『地に滾る』

地に滾るあさのあつこさんの長編時代小説、『地に滾る(ちにたぎる)』(祥伝社文庫)を入手しました。

本書は、天羽藩(あもうはん)の上士の嫡男、伊吹藤士郎の青春を描く、時代小説シリーズ三部作で、『天を灼く(てんをやく)』に続く第二作です。三カ月連続刊行として、第三作『人を乞う』は2020年10月の刊行予定となっています。

天羽藩上士の子・伊吹藤士郎は藩政を揺るがす証文を発見する――それは豪商と癒着した咎で切腹した父親が隠し持っていたものだった。藤士郎は証文を江戸に向かう恩師に密かに託し、自らは追手の囮となるため、異母兄の柘植左京とともに権謀術数渦巻く天羽藩下屋敷への親友を画策するが……。ひたむきな生を描く青春時代小説シリーズ、第二弾!
(本書カバー帯の紹介文より)

天羽藩で五百石取りの大組組頭をつとめていた伊吹斗十郎は、豪商から賄賂を受け取った咎で切腹しました。伊吹家は家禄を二十分の一に減じ、屋敷を没収され、家人は領内の僻村に所払いとなりました。嫡男の藤士郎は、父の嫌疑を晴らし、藩政を刷新するために、命がけで脱藩し、江戸に向かいました。

 江戸の夜は屋根の上から明ける。
 こけら葺きの、あるいは黒瓦の、あるいは茅で葺いた屋根がうっすらと白む。そこから光は徐々に四方に広がり、まずは空の、続いて地にたむろしていた闇を払っていくのだ。
 決して性急ではないが、強靭で確かな力を感じる。
 
(『地に滾る』 P.14より)

伊吹藤士郎は江戸に来て、まず、そのことに驚きました。
山の端から朝が始まる故郷の天羽との違いから、江戸に出てあらためて井の中の蛙だったこと、脱藩して寄る辺ない身になったことを認識します。

地方出身者で都会に出て暮らす一人として、藤士郎の見たような朝の光景には既視感があります。
「江戸に来て、まず、人と橋の数の多さに驚いた」という言葉から始まる、藤士郎が暮らす深川本所界隈の描写とともに、視覚的に江戸のパノラマが目の前に広がっていきます。

藤士郎の家族、姉の美鶴と母茂登子は、天羽藩内の僻村・砂川村で、百姓たちに交じって慎ましく暮らしていました。美鶴は、暮らしのために、機を織り、畑も耕していました。
漆黒の闇のような過酷な境遇の中で、明かりも求めて前向きに生きていく藤士郎と、その家族の姿に胸が打たれます。

地に滾る

あさのあつこ
祥伝社 祥伝社文庫
2020年9月20日初版第1刷発行

単行本『地に滾る』(祥伝社、2018年7月刊)を文庫化したもの

カバーデザイン:多田和博+フィールドワーク
カバーイラスト:スカイエマ

●目次
第一章 緑の風音
第二章 佇む女
第三章 闇を斬る
第四章 流れの行く先
第五章 山の端の月
第六章 青い風
第七章 闇の奥の闇
第八章 空を仰ぐ者

本文352ページ

■Amazon.co.jp
『天を灼く』(あさのあつこ・祥伝社文庫)
『地に滾る』(あさのあつこ・祥伝社文庫)

あさのあつこ|時代小説ガイド
あさのあつこ|時代小説・作家 1954年、岡山県生まれ。青山学院大学を卒業後、小学校講師を経て作家デビュー。 1997年、『バッテリー』で野間児童文芸賞を受賞。 1999年、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞を受賞。 2005...