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商いの大海に漕ぎ出した五鈴屋主従を、裏切りと災禍が襲う

『あきない世傳 金と銀(十三) 大海篇』

あきない世傳 金と銀(十三) 大海篇高田郁さんの文庫書下ろし時代小説、『あきない世傳 金と銀(十三) 大海篇』(ハルキ文庫)を紹介します。

摂津国武庫郡津門村に学者の子として生まれた幸。
九つのときに大坂天満の呉服商「五鈴屋」に奉公に出され、「一生、鍋の底を磨いて過ごす」女衆でありながら、番頭治兵衛に才を認められ、徐々に商いに心を惹かれていく、という「源流」からスタートした、「あきない世傳 金と銀」シリーズ。

幸は、五鈴屋の四代目から三代にわたって女房として店を支え、六代目の没後に江戸へ移り住み、現在は「五鈴屋江戸本店」の店主をつとめます。
一時、呉服商いを禁じられて太物商いで商機を見つけ、江戸を代表する太物商となり、その後、浅草呉服太物仲間たちの協力で呉服商いが認められ、商いの大海へ。
第13巻の本編で、シリーズは最終巻。

宝暦元年に浅草田原町に江戸店を開いた五鈴屋は、仲間の尽力を得て、一度は断たれた呉服商いに復帰、身分の高い武家を顧客に持つことで豪奢な絹織も扱うようになっていた。だが、もとは手ごろな品々で人気を博しただけに、次第に葛藤が生まれていく。吉原での衣裳競べ、新店開業、まさかの裏切りや災禍を乗り越え、店主の幸や奉公人たちは「衣裳とは何か」「商いとは何か」、五鈴屋なりの答えを見出していく。時代は宝暦から明和へ、「買うての幸い、売っての幸せ」を掲げて商いの大海へと漕ぎ進む五鈴屋の物語、いよいよ、ここに完結。

(本書カバー裏の紹介文より)

宝暦十四年(1764)弥生。
幸と菊栄は、吉原の大見世、大文字屋の楼主市兵衛に花見に誘われて吉原の仲の町にいました。長月朔日に行われる吉原での衣裳競べの下見をかねてものでした。

五鈴屋は、華やかな花魁ではなく、芸を売る芸者の歌扇に白羽の矢を立てて、衣裳を提供することに。
衣裳競べには、江戸の名だたる呉服商三十軒が参加し、その中には日本橋音羽屋も含まれていました。音羽屋忠兵衛の女房は、幸の実妹、結です。

女帝が即位し、元号が宝暦から明和に変わるころ、五鈴屋では、藍染め浴衣地などの手頃な値の太物と、極上の絹織で値の張る呉服、両方をそろえて売ることで、お客に『術無い』思いをさせることに葛藤していました。

そこで、新しい笄の売り出しを考える菊栄とともに、日本橋近くに、屋敷売りを専門とする新しい店を出すことになりました。

 一本の道を、幸は大門へ向かい、結は大門の方から歩いている。双方とも歩調を緩め、姉妹の距離は、じれったいほどの刻をかけて縮まっていく。
 互いに前を向いたまま、袖と袖が触れるほどの近さですれ違おうとした。
「浅草でも吉原でも、ええひとらに囲まれて、ほんに幸せなこと」
 何とも軽やかな、甘い口調だった。
 幸は立ち止まり、相手の方に身体ごと向き直る。結は首だけを捩じって、姉に視線を投げた。
「けど、世の中、そない簡単に信用してええ相手ばっかりと違いますで」

(『あきない世傳 金と銀(十三) 大海篇』P.76より)

四年ぶりの再会で、身近な者の裏切りを示唆するような妹の言葉。
それはやがて思わぬ形で五鈴屋を襲うことに……。

大海篇では、吉原での衣裳競べや新店開業と順風満帆で商いの大海に船出したと思われましたが、まさかの裏切りや災禍に見舞われ、最後の最後まで波瀾万丈の航海は続きます。

「ご尞さん、これを」
 見かねたのだろう、賢輔が懐深くから一枚の手拭いを引き抜き、幸の前へと差し出した。
 ありがとう、と受け取ろうとした手が、ふと止まる。手拭いに見覚えがあった。色は月白、幸の最も好きな色だ。
 
(『あきない世傳 金と銀(十三) 大海篇』P.328より)

さて、衣裳を扱う仕事のせいか、物語中にいろいろな色が登場します。
言葉で読んだだけでは、イメージしにくい色もあります。

幸のもっと好きな色という月白(げっぱく)は、月の光を思わせる薄い青みを含んだ白色のことです。

二代目吉之丞のために染物師の力造が、今ある色ではない新たな色として生み出した色、「王子茶」は「路考茶」が元となっています。

菊花を思わせる承和色(そがいろ)は、江戸紫の文字色とともに、「菊栄」のブランドカラーにしていました。
平安時代初期、承和年間の仁明天皇が好んだ色と伝えられています。
月白路考茶(王子茶)承和色
波瀾万丈の物語に一喜一憂しながらも、江戸の商いが学べる大好きなシリーズが完結し、とても淋しく思います。作者の新しい物語に出合えることを楽しみに待つこととします。

あきない世傳 金と銀(十三) 大海篇

高田郁
角川春樹事務所 ハルキ文庫
2022年8月18日第一刷発行

装画:卯月みゆき
装幀:多田和博+フィールドワーク

●目次
第一章 北国春景
第二章 新たな時代へ
第三章 秋立つ
第四章 華いくさ
第五章 時運
第六章 幕開き
第七章 次なる一手
第八章 恋江戸染
第九章 奈落
第十章 激浪
第十一章 一意攻苦
第十二章 分袂歌
第十三章 金と銀
巻末付録 治兵衛のあきない講座
特別付録 五鈴屋出世双六

本文365ページ
文庫書き下ろし

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『あきない世傳 金と銀(一) 源流篇』(高田郁・ハルキ文庫)
『あきない世傳 金と銀(十二) 出帆篇』(高田郁・ハルキ文庫)
『あきない世傳 金と銀(十三) 大海篇』(高田郁・ハルキ文庫)

高田郁(髙田郁)|時代小説ガイド
高田郁|たかだかおる(髙田郁)|時代小説・作家 兵庫県宝塚市生まれ。中央大学法学部卒。 漫画原作者を経て、2008年、『出世花』で小説家としてデビュー。 2013年、『銀二貫』で第1回大阪ほんま本大賞を受賞。 2022年、『ふるさ...