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骨董を題材に文明開化の京を描く

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火坂雅志さんの『骨董屋征次郎京暦』を読んだ。火坂さんは、2009年のNHK大河ドラマの原作者として注目されていて、戦国時代のヒーローを主人公にした傑作歴史時代小説を多く書かれている。歴史上の人物に現代的な視点からスポットを当ててドラマティックな描く手法で、新しい人物像を浮かび上がらせている。

骨董屋征次郎京暦 (講談社文庫)

「骨董屋征次郎」シリーズは、今回が2作目。前作では新選組が活躍した幕末だったが、今回は明治三年の暮れの京に舞台を移している。明治を描く時代小説自体が多くないために、廃藩置県、廃仏毀釈や仇討ち禁止令など、新時代へ向かって激変する時代感覚が新鮮である。明治初期の京を描く時代小説は珍しく、作品のディテールまで描きこまれているので、興味深く読むことができる。

京、八坂塔下の夢見坂にある骨董屋「遊壺堂」を営む柚木征次郎(ゆのきせいじろう)のもとに、ハタ師(店を持たない骨董屋)の兼吉がしばらくぶりにやってきた。兼吉は、二十代半ばのどことなく翳のある目をした若者、佐伯逸馬を連れてきた。佐伯は、元膳所藩士で二本差しを捨てて骨董屋になりたいということで、遊壺堂で見習をすることになった…。

前作でおなじみの征次郎の友人兼吉や、恋人で先斗町の芸妓小染、骨董の師の柴山抱月、敵役の猪熊玉堂などのおなじみの面々に加えて、連作形式の物語にそれぞれ印象的な人物が登場する。ミステリータッチで達者なストーリーテリングを楽しめるが、そんな中で征次郎がかつての恋人と再会する「わくら葉」の話は、しみじみとした味わいもあり、大人のエンターテインメントだ。