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薬師として、女として、家康と共に歩み、戦った阿茶局の物語

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『続 家康さまの薬師』|鷹井伶|潮文庫

続 家康さまの薬師NHK大河ドラマ「どうする家康」のおかげで、徳川家康の何人もいる側室についても、知識が増えて少しわかるようになりました。

そんな家康の側室の中でとくに惹かれるのが、阿茶局(あちゃのつぼね)です。

鷹井伶(たかいれい)さんの『続 家康さまの薬師(くすし)』(潮文庫)は、阿茶局を主人公にした文庫書き下ろし時代小説です。

前著の『家康さまの薬師』では、知られざる前半生、家康に出会い、「戦なき泰平の世」を目指して、薬師として、女として、共に生きることを決めるまでが描かれていて、本書はその続編となります。

家康の側室・阿茶局となった瑠璃。しかし、時代の奔流は二人に安寧の時を与えない。本能寺の変に直面し、家康は決死の伊賀越えを図る。さらに、野心に燃える秀吉の大軍が迫る。危急を知らせに走った阿茶の身にも異変が――。天下取りへの男たちの思惑に翻弄される女たちを見守りながら、阿茶は薬を煎じ支え続ける。関ヶ原の戦い後も深まる豊臣家との確執。和平へのわずかな望みを抱き、「戦なき世」のために阿茶は単身、大坂城へ赴く。

(『続 家康さまの薬師』カバー裏の紹介文より)

天正十年(1582)初夏、甲斐武田家を滅ぼした織田信長から駿河を与えられた家康は、安土へのお礼言上に、阿茶を伴うことにしました。

初めて謁見する信長は、第六天魔王などと恐ろしい異名で呼ばれるとは思えない、優しく穏やかに阿茶に話しかけました。

「そなたが阿茶か。よう参った」

(中略)

「信長さま、これの淹れる茶は、薬茶にございます。まぁ、抹茶も薬と言えば薬でございますが」
「であるか。ん? 抹茶も薬か?」
「はい」
 と今度は阿茶が答えた。
「抹茶には気を静めるよき作用がございます。毒消しにも用いまする」
「ほう、これは薬師のようじゃ。その方の薬好きはここからか?」
 
(『続 家康さまの薬師』P.18より)

ところが、六月二日、堺見物を終えて発った家康一行は、明智光秀の謀反により、織田信長が本能寺で寝込みを襲われたという知らせを受けました。

――二人で力を合わせれば怖いものはない。日ノ本を戦のない世にできる。
 そう語った信長の顔が浮かんだ。信長はこうも言っていた。
――戦のない世になれば、誰もが笑って暮らせる。一日中、のんびりと空を眺めていられる。
「後少し、後少しであったに」

(『続 家康さまの薬師』P.57より)

家康にとって信長は、築山御前や信長を殺させた仇ともいえる人物でしたが、一緒に戦のない世を造ろうという約束を守ってくれて、家康にとって乱世を生き抜く原動力でした。家康は、三河に戻って態勢を整え、信長さまのご無念を晴らすと決め、一行は伊賀越えをすることに。

阿茶は、奥を守り、四人の側室(西郡の方、於万の方、於愛の方、於都摩の方)の相談相手になったり、於万の方が産んだ於義丸を頭に、於愛の方が産んだ長丸、福松丸ら家康の子の面倒をみたりするかたわら、徳川家の薬師として薬をあれこれ調合していました。

秘薬「紫雪(しせつ)」を残して失踪した父の謎、突然襲われた悲劇、豊臣の女たちと交わした和平への道筋……。本能寺の変から、小牧・長久手の戦い、関ヶ原の戦い、そして大坂の陣へ。家康と共に歩み、共に戦い、共に夢を追った、阿茶局の波瀾に満ちた生涯を描いた時代小説です。

リーダブルな文章で、戦国時代を描きながらも、「何があって必ず生きよ」と命を大切にし、「戦なき世」を造ろうと奮闘する阿茶が気高く美しく引き込まれます。
爽やかな読了感があり、血なまぐさい合戦ものは苦手という方にもおすすめです。

続 家康さまの薬師

鷹井伶
潮文庫
2023年10月5日初版発行

装画:Minoru
カバーデザイン:Malpu Design(宮崎萌美)

●目次
一 信長の死
二 失われた命
三 豊臣の女たち
四 江戸へ

本文292ページ

書き下ろし

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『家康さまの薬師』(鷹井伶・潮文庫)
『続 家康さまの薬師』(鷹井伶・潮文庫)

鷹井伶|時代小説ガイド
鷹井伶|たかいれい|時代小説・作家 兵庫県神戸市出身。甲南大学文学部卒。漢方スタイリスト。 井上登紀子名義で脚本家として活躍。 2013年より、時代小説を上梓。 時代小説SHOW 投稿記事 決戦の舞台は江戸城。将軍を守るために綱重は剣をとる...