名画に隠された悲しい愛の物語を掘り起こす、名探偵亜澄

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『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 極楽寺逍遙』|鳴神響一|文春文庫

鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 極楽寺逍遙芸術の秋を楽しむ一冊。絵画をめぐるミステリーをご紹介します。

鳴神響一(なるかみきょういち)さんの『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 極楽寺逍遙』(文春文庫)は、文庫書き下ろしの警察小説で、シリーズ第3弾です。

第1作『稲村ヶ崎の落日』の小説界、第2作『由比ヶ浜協奏曲』の音楽界に続き、本書では美術界を亜澄と元哉のコンビが捜査します。

鎌倉大仏付近の丘の上で撲殺体が見つかった。神奈川県警捜査一課の吉川元哉は、幼馴染で鎌倉署刑事課強行犯係の小笠原亜澄とまたしてもコンビを組まされる羽目に。殺されたのは美術館学芸員の鰐淵貴遥で彼はある美人画を熱心に研究していたという。関係者を訪ね歩く亜澄と元哉は絵画に隠された驚愕の真実へと辿り着くが……。

(『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 極楽寺逍遙』カバー裏の紹介文より)

11月30日の朝早く、鎌倉市の大仏トンネル近くにある長谷配水池広場で遺体が発見されました。
被害者は、鎌倉美術館の学芸員鰐淵貴遥、五十二歳。妻と別れて息子と二人暮らしでした。

検視によって撲殺による殺人事件と断定され、鎌倉署に捜査本部が置かれました。神奈川県警捜査一課の吉川元哉と鎌倉署強行犯係の小笠原亜澄の幼馴染コンビがまたしてもペアを組んで鑑取り捜査をすることに。
亜澄と元哉は、貴遥の息子に話を聞きに行くと、父とは生活がすれ違いで砂金あまり言葉を交わしていないのでよくわからないとしながらも、誠実でまじめな父が誰かから恨まれていたことは考えにくいと。
マリンスポーツのインストラクターをやっているイケメンの遥人は、父親が亡くなったばかりというのに亜澄をクルーザーに盛んに誘う浮かれぶりですが、鉄壁のアリバイを持っていました。
父に似ず浪費家で遊び好きの遥人は、祖父で画家の鰐淵一遥画伯がスポンサーだと照れ笑いを浮かべました。

「鰐淵画伯はどこにお住まいなんですか」
 亜澄が横から質問した。
「同じ極楽寺の月影ヶ谷の奥に住んでます。江ノ電車庫の裏山って言えばいいのかな。ここからは一・六キロくらいの距離です。僕はクルマで行くので、あっという間に着きますけどね」
 気楽な調子で遥人は答えた。

(『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 極楽寺逍遙』P.52より)

一遥は、貴遥とはあまり仲が良くなかったことを最初に告げました。
貴遥が絵画作品を研究の対象としてみていることに、気に入らなかったと言います。
絵は画家の魂をキャンパスに再現するもので、愛を込めたり、ときには怒りを叩きつけたり、そのとき五感からほとばしる情念を表現するのが絵画であると考えて、そうして絵を描いてきた一遥にとっては。

一遥と遥人、父親と長男から、貴遥が殺されるような原因は考えられないと言われました。
ところが、一遥より先に貴遥が死んでしまったことで、法律上、家と一遥が大事にとっておい美術作品はすべて遥人が相続することになり、ちょっと困っているとも。

「代襲相続ですね」
 亜澄の言葉に一遥は大きくうなずいた。
「そうだ。美術作品はかなりの金額になるはずだ。数億円になろう。貴遥はああいうまじめな男だ。絵画作品への愛もある。それなりに保管してくれるだろう。だが、遥人はダメだ。誰よりもかわいい孫だが、僕よりさらにだらしのない男だ。金に困ってもいる。僕の絵を片っ端から二束三文で売り払ってしまうおそれがある。また、まとまった金が入ったら、遥人はさらに自堕落な生活を送る羽目になる。決してよい人生を送れないだろう」。
 
(『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 極楽寺逍遙』P.79より)

さらに、関係者に話を聞いていくと、意外な真実が浮かび上がってきました……。

慧眼と大胆な仮説で、真実に迫る名探偵亜澄は、名画に隠された、人びとの欲と情念、そしてエゴがもたらした悲劇の連鎖を止められるのでしょうか?

3作目にして、元哉とのコンビもますます好調、亜澄の名探偵ぶりが楽しめます。
このシリーズを読むたびに、昔何度か町歩きをした鎌倉の風景がよみがえってきて、何だか懐かしくなります。

鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 極楽寺逍遙

鳴神響一
文藝春秋 文春文庫
2023年10 月10日第1刷

イラスト:けーしん
デザイン:野中深雪

●目次
プロローグ
第一章 丘の上の殺人
第二章 天才が遺した絵
第三章 運命の罪禍
エピローグ

本文223ページ

文庫書き下ろし

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『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 稲村ヶ崎の落日』(鳴神響一・文春文庫)(第1作)
『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 由比ヶ浜協奏曲』(鳴神響一・文春文庫)(第2作)
『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 極楽寺逍遙』(鳴神響一・文春文庫)(第3作)

鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。■時代小説SHOW 投稿...