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川を愛し、家臣や敵までも友にした、快男児・長宗我部信親

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『友よ』|赤神諒|PHP研究所

友よ赤神諒(あかがみりょう)さんの長編歴史小説、『友よ』(PHP研究所)を紹介します。

川を前に陣取る若者たちの群像。
(本を読み進めていくと、誰がどこに描かれていくかがわかります)
ヤマモトマサアキさんの装画が物語の世界観を鮮烈に伝えています。

本書の主人公、長宗我部信親は、一代で四国制覇に挑んだ土佐の雄・長宗我部元親の嫡男です。
父から将来を嘱望された若武者を中心に、彼の周りに集まった信盛組の若者たちの青春を描いていきます。

四国を統一しつつあった長宗我部元親。その嫡男・信親は、武勇の誉れ高く、人望も厚く、将来を嘱望されていたが、22歳の時に若くして、島津家を相手にした戸次川の戦いで命を落とす。彼はなぜ、“必敗必死”の戦場にとどまり、その地で死ななければならなかったのか。
家臣や領民、そして戦った敵までをも魅了し、「友」として取り込んでいく熱い生きざまを、堂々たる筆致で描く、心を震わす青春歴史群像小説。

(『友よ』カバー裏の説明文より)

天正十四年(1586)十二月の豊後国・戸次川(へつぎがわ)の戦いの後、島津軍の宿将、新納武蔵守忠元のもとを交戦中の敵軍から意外な訪問客が訪ねるところから物語は始まります。

「谷忠兵衛と申しまする。戦の最中お目通りいただき、感謝に堪えませぬ」
 新納が控えの間に入ると、端座していた五十がらみの将は、柔らかな物腰で頭を下げてきた。四国土佐の雄、長宗我部元親の懐刀として、むろんその名は聞いている。
 
(『友よ』P.8より)

長宗我部は、かねて島津と誼みを通じてきましたが、昨夏の〈四国の役〉で羽柴秀吉に敗れて降り、今秋〈九州の役〉の先鋒を務める四国勢の一手として、豊後国の戸次川で戦いました。

その戦いで、主人公の信親は命を落としました。
元親の重臣の谷忠兵衛は、信親の遺骸を引き取りたいと申し出たのでした。

 忠兵衛が涙を拭いながら、途切れとぎれに答える。
「性柔和にして、人を決して貶さず、常に礼儀正しく、戯れ話も野卑でなく、諸子を愛し、民を慈しみ、皆から慕われる、稀有の御曹司でござった……」

(『友よ』P.12より)

新納には腑に落ちないことがありました。
あれほど見事な采配を振れる戦上手の信親が、死のみが待つ戸次川の戦場からも離脱できたはずで、どうして必敗必死の戦場に留まったのか。また、七百もの土佐将兵たちは最後の一兵まで若者と運命を共にしたのかが。

物語は、天正六年(1578)八月、土佐国・岡豊にさかのぼります。
弱冠十四歳の長宗我部元親の嫡男信親は、知勇兼備の土佐の次代を担う英傑なりと家中の期待を一身に集める一方で、爽やかで朗らかな性格の美男子でした。
また、信親の川好きは有名で、猿猴(河童)がいると信じて探しています。

信親の周りには、家臣の子弟はもちろん、領内の土豪の次男坊や三男坊、腕に覚えのある一領具足の倅など、武芸自慢の者ばかりが集まり、〈信親衆〉と呼ばれていました。

信親の周りには、快男児に魅了された若者たちが集まり、立身出世など全く望まず、信親の信だけは失いたくないと強く思いました。信親は彼らを友と呼び、家臣としては扱いませんでした。

信親の初陣は、西讃岐への侵攻路の入口となる、讃岐山脈の西端に位置する藤目城になりました。新目弾正という無名の若者が五百ばかりの兵と守る小さな城です。
元親も目を瞑っていても勝てる戦で、初陣に最適の相手と考えていました。

ところが、この〈藤目城の戦い〉は史上稀にみる激戦となったのでした。

本書では、初陣から、讃岐国中富川の戦い、秀吉による四国の役、九州の役(その一つが戸次川の戦い)が描かれていきます。
四国の役と九州の役では、秀吉軍の総大将として仙石秀久が登場し、四国の役では敵、九州の役では味方となり、物語に絶妙なスパイスを加えていて、注目ポイントの一つです。

土佐の川は清らかで、信親にとっては川は特別の場所でした。
川遊びをして、川には楽しい思い出がたくさん詰まっていました。
信親が稀代の川好きになったのもそんな場所に生まれ育ったからかもしれません。
そして、物語の中でも川が随所に描かれています。

信親はがないときの楽しい時間を、友たちと川で過ごし、初恋の人と出会っったのも、本気の恋をしたのも川でした。
これほど、川が美しく、大切な場所として描かれている小説は記憶にありません。

本書を読んで、土佐(高知県)の四万十川や仁淀川などの川を見に行きたくなりました。

歴史上の人物や事件の結末がわかっていても、歴史時代小説には、そこに関わる人物の魅力、新解釈のプロセス、波瀾万丈のストーリー、結末の意外性など、面白く感じる要素がいっぱいあります。
そして、面白い歴史小説には、人を動かす力があります。

友よ

赤神諒
文芸社 PHP研究所
2022年12月21日第1版第1刷発行

装丁:芦澤泰偉
装画:ヤマモトマサアキ

●目次
序 戸次川の落日
第一部 石清川
 第一章 土佐の御曹司
 第二章 藤目城の守将
 第三章 岡豊の春
 第四章 川と麦
 第五章 波川に咲く花

第二部 中富川
 第六章 土佐で好きなもの
 第七章 中富川哀傷歌
 第八章 石ぐろと火振り
 第九章 誰のために

第三部 戸次川
 第十章 羇旅
 第十一章 人を動かすものは
 第十二章 円陣

本文418ページ

「WEB文蔵」2021年5月~2022年4月連載に加筆・修正したもの

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『友よ』(赤神諒・PHP研究所)

赤神諒|時代小説ガイド
赤神諒|あかがみりょう(赤神諒)|時代小説・作家 1972年京都市生まれ。同志社大学文学部卒。 法学博士、上智大学法科大学院教授。弁護士。 2017年、「丹生島城の聖将」(単行本時のタイトル『大友の聖将(ヘラクレス)』)で第12回小説現代長...