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美術界の謎、天才絵師・俵屋宗達の生涯を描く歴史エンタメ

『風神雷神(上・下)』|柳広司|講談社文庫

風神雷神(上)柳広司(やなぎこうじ)さんの長編歴史時代小説、『風神雷神(上・下)』(講談社文庫)を入手しました。

俵屋宗達は、生年不詳不明で没年も寛永17年(1640年)頃とされ、当代一流の絵師であったにもかかわらず、その生涯は不明な点が多くて、謎に包まれています。

扇屋「俵屋」の養子となった伊年は、醍醐の花見や、出雲阿国の舞台、南蛮貿易の輸入品から意匠を貪り、絵付けした扇は評判を増す。すると平家納経の修理を依頼される栄誉に。さらに本阿弥光悦が版下文字を書く嵯峨本、鶴下絵三十六歌仙の下絵での共同作業を経ると、伊年の筆はますます冴えわたる。

(『風神雷神(上)』カバー裏の紹介文より)

物語は、慶長三年(1598)三月十五日、時の天下人・太閤秀吉が京都伏見醍醐寺で催した「醍醐の花見」から始まります。

この前代未聞の規模で行われた花見に、扇屋「俵屋」の若旦那伊年(後の俵屋宗達)は番頭の喜助とともに、招待客に扇を提供する商人として出入りを許されました。

「あかん、だいじな商売もんが……」
 喜助は思わず情けない声をあげた。
 伊年が運んでいた扇が突風に高々と巻きあげられた。
 十数面の扇が、まるで生きた蝶のようにひらひらと宙にただよう。
 伊年は――
 ぽかんと口を開け、青空を背景に宙を舞う美しい扇に見とれている。

(『風神雷神(上)』 P.24より)

「琳派の祖」となる俵屋伊年(宗達)は、このとき二十代半ばの若者でした。
いわば修行時代で、伊年の興味はもっぱら織物柄や扇、染め物装飾に使われている伝統的な図案に向けられていました。さまざまな図案を貪るように描き写し、ひとたび筆をもつと寝食をわすれて絵に没頭していました。

そのため、途中で誰かに呼ばれても返事すらせずに、無理やり答えさせられるとトンチンカンな受け答えをしました。
茫洋とした顔つきで、いつもぼんやりとしていて、何を考えているのかわからない様子と相まって、周囲の者たちは薄ぼんやりとした、“少し足りない”としか思っていません。
扇屋の主人仁三郎だけは、その才能をいち早く見抜き、本家から養子にもらってきた伊年をかけがえのない存在と見ていました。

そんな伊年の前に、一人の女性客が現れました。
「“おどっているところを見て、よいと思う絵を描いてほしい……その前に、この扇に絵を描いたもんの顔をどうしても見たい”と。
五条河原で巫女神楽を踊る、出雲阿国です。

宗達は、当代一流の文化人たちと交流を持ち、大きな仕事をしていきます。
小説を読んでいると、宗達がその時々に携わった名作に触れてみたくなります。

若き日、少年時代の宗達を題材にした歴史時代小説には、原田マハさんの壮大な美術史エンタメ『風神雷神 Juppiter, Aeolus(上・下)』もあります。

同じように表紙装画に「風神雷神図屛風」をモチーフにしています。
二つの作品を読み比べて、宗達の絵の世界を堪能し、いろいろと妄想をかき立ててみたくなりました。

風神雷神(上・下)

柳広司
講談社 講談社文庫
2021年3月12日第1刷発行

カバー作品:「風神雷神図屛風」俵屋宗達/建仁寺所蔵
カバーデザイン:鈴木久美

●目次
上巻 風の章
一 醍醐の花見
二 御用絵師と絵職人
三 出雲阿国
四 若者たち
五 平家納経修理
六 二つの天下
七 本阿弥光悦
八 紙師宗二
九 豊国大明神臨時大祭
十 嵯峨本
十一 鶴下絵三十六歌仙和歌巻
十二 阿国ふたたび
十三 鷹峯

本文277ページ
『風神雷神 風の章』(講談社、2017年8月刊)を改題し、一部加筆したもの。

下巻 雷の章
十四 扇は都たわら屋
十五 烏丸光広
十六 養源院
十七 みつ
十八 蔦の細道図屛風
十九 紫衣事件
二十 法橋宗達
二十一 関屋澪標図屛風
二十二 天駆ける
二十三 鎖国令
二十四 流星群
二十五 風神雷神

本文308ページ
『風神雷神 雷の章』(講談社、2017年8月刊)を改題し、一部加筆したもの。

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『風神雷神(上)』(柳広司・講談社文庫)
『風神雷神(下)』(柳広司・講談社文庫)
『風神雷神 Juppiter, Aeolus(上)』(柳広司・講談社文庫)
『風神雷神 Juppiter, Aeolus(下)』(原田マハ・PHP研究所)

柳広司|時代小説ガイド
柳広司|やなぎこうじ|作家 1967年、三重県生まれ。神戸大学法学部卒業。 1998年、「挙匪(ボクサーズ)」で第4回歴史群像大賞佳作受賞。 2001年、『贋作『坊っちゃん』殺人事件』で第12回朝日新人文学賞受賞。 2009年、『...