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江戸の「おくりびと」-三昧聖を描く時代小説

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日本映画の「おくりびと」が第81回米アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、納棺師という職業が注目されている。高田郁(たかだかおる)さんの『出世花』は、寺の湯灌場で亡骸を湯で洗い清めて、棺(「早桶(はやおけ)や「座棺」(ざかん))に納めるという、安らかに浄土に旅立つ準備を整える、江戸時代の納棺師、三昧聖(さんまいひじり)を描いた時代小説である。

出世花 (祥伝社文庫)

出世花 (祥伝社文庫)

久居藩士の矢萩源九郎は、幼い娘・お艶を連れて六年間の妻敵討ち(めがたきうち)の諸国放浪の末に、江戸・下落合の竹林で空腹のあまり父娘して口にした野草の毒で行き倒れになる。お艶は、近くの青泉寺の住職・正真とその弟子の正念に助けられるが、源九郎は「不義密通を犯した妻の血を引く娘に、なにとぞ善き名前を与えてくださらぬか」の言葉を遺して逝く。お艶は、正真より「お縁」という新しい名前をもらって青泉寺で育つ。

四年の歳月が流れ、寛政九年(1797)年のこの年、お縁は十三の春を迎えた。内藤新宿にある有名菓子商の桜花堂の主人夫婦から養女にと請われるが…。

江戸時代の湯灌という死をめぐるを題材に、少女の成長と、浄土への旅立ちに手を貸す心清き者たちを描く、連作時代小説。高田さんは、一話目の「出世花」で、「第二回小説NON短編時代小説賞」の奨励賞を受賞する。龕師(棺職人)岩吉の哀しい恋と連続髪切り事件を描く「落合螢」、病が重篤で床にある女郎の部屋を訪ねたお縁は奇妙な事件に巻き込まれる「偽り時雨」、正念の意外な過去が明らかになる「見送り坂暮色」の三篇も、それぞれストーリー展開がユニークで魅力的な話になっている。

この作品のことは、会社の上司のH氏に教えていただいた。題材がタイムリーなだけでなく、重苦しくなりそうなテーマを扱いながらも、清涼感のある読み味のよい良質な作品に仕上がっている。最近、忙しさにかまけて読書量が減り、新進作家への目配りが足らなかっただけに、ありがたかった。次回作が楽しみな作家である。

おすすめ度:★★★★☆