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金銀山の島、佐渡の謎と魅力が詰まった、痛快歴史ミステリー

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『佐渡絢爛』|赤神諒|徳間書店

佐渡絢爛2022年、『はぐれ鴉』で第25回大藪春彦賞を受賞した、赤神諒(あかがみりょう)さんの最新歴史時代小説、『佐渡絢爛(さどけんらん)』(徳間書店)は、江戸・元禄の世の佐渡を舞台にした歴史ミステリーです。

佐渡の魅力と歴史の面白さが堪能できるこの作品は、新潟県の地方紙「新潟日報」に2023年3月28日~11月22日まで掲載され、連載時の挿絵を地元の美術系専門学校の学生たちが手掛けたことでも話題になりました。

時は元禄。金銀産出の激減に苦しむ佐渡で、立て続けに怪事件が起こった。御金蔵から消えた千両箱、三十六名が命を落とした落盤事故、能舞台で磔にされた斬死体、割戸から吊り下げられた遺体……。いずれの事件現場にも血まみれの能面「大癋見(おおべしみ)」が残されていた。
振矩師(ふりかねし)の静野与右衛門は、奉行から広間役の間瀬吉大夫の助手として、真相解明を命ぜられる。吉大夫に反発しながら、調べを進めるうち、その才覚と人物、謎めいた過去に強く惹かれてゆくが――。
佐渡金銀山に隠された恐るべき秘密とは?!

(『佐渡絢爛』カバー帯の説明文より)

かつて汲めども尽きぬ水のごとく金銀を産出した佐渡は、元禄の世にあって産出量を激減させ滅びを迎えようとしていました。そんな中で、三十六人もの働き盛りの男たちが廃間歩(採掘を終えた鉱山の坑)で、落盤事故で亡くなる大惨事が起りました。

三十六人の身元は役人、金穿大工、油屋、建木屋、紙燭屋、塗師、船大工など実にさまざまで、目に見える繋がりはありません。彼らはなぜ、そこにいたのでしょうか?
しかも、落盤事故があった場所に、血染めの大癋見の能面が見つかったと。

金銀山では洪水や坑内の気絶え、落石や油火事などによる落命は珍しくありませんが、廃間歩で起こった摩訶不思議な大量死を前に、奉行所の役人、手伝いに来た町人、百姓、野次馬たちが皆押し黙っている中、窪田平助という流人が、山方役で、振矩師(測量)の槌田勘兵衛に尋ねました。

「山方役、洞敷(採掘によって地底にできた、がらんどう)に転がっとった大癋見を見せてくれませんかね?」
 神妙な沈黙を破ったのは平助だ。
 勘兵衛が背のかますから一枚の能面を取り出すと、皆が一斉に身を乗り出した。
「大癋見の呪いぞ。三十六人の地下舞じゃ!」
 平助が叫び、群衆がどよめく。

(『佐渡絢爛』P.14より)

現場近くの釜ノ口には、勘兵衛を師と仰ぐ振矩師の静野与右衛門とその幼なじみで恋仲の娘・お鴇の姿もありました。

佐渡では十五年以上前から、殺しや盗みなど一連の怪事件が続いていました。下手人らしい侍の姿も幾度か目撃されましたが、その姿は見た者によってバラバラで、神出鬼没の怪賊は能面侍〈大癋見〉と呼ばれていました。
しかも、不幸な事件はその後も連続して発生することに。

幕府は、日本最大の金銀山をもつ佐渡を天領とし、鉱山を統括する遠国奉行として、有能な旗本たちを佐渡奉行に任じてきました。そして、此度「当代随一の切れ者なり」と天下に名が轟いている荻原彦次郎重秀が新奉行に就きました。
荻原は来島に先立ち、留守居役を補佐する広間役に、間瀬吉大夫という浪人あがりの男を派遣します。

「うち、怖い。一時に三十六人も亡くなるなんて、やっぱり呪いじゃないのかなぁ……」
 すがりついてくるお鴇を、与右衛門はそっと抱き寄せた。
「呪いなって嘘だ。そんなものはない」
 与右衛門の得意な算術や縄引と同じで、何事も理詰めで積み上げてゆけば、正解が見えてくる。呪いや祟りの類は、人間の不安が生み出した産物にすぎない。
 
(『佐渡絢爛』P.14より)

その男は、腰に大小の刀を差しただけの身一つで現れ、キセルを口に咥えたまま、人気の少ない相川の湊で廻船をおりました。
古来佐渡は、旅者が来るたび事が起こり、変身を遂げてきたと。

間瀬吉大夫は佐渡で連続する怪事件の謎を解くことができるのでしょうか?
能面侍〈大癋見〉に正体はいったい誰なのでしょうか?

昔、猿楽師の世阿弥は晩年佐渡に流刑になりました。
江戸時代初期、佐渡の金銀山の礎を築いた大久保長安は、甲州猿楽師大蔵太夫の子で、代官として赴任する際、二人の能楽師を同道し、自ら勧請した相川の春日神社に見事な能舞台を作って神事能を奉納しました。

以来、佐渡では能文化が花開き、多くが能を楽しんでいます。二百以上の能舞台があるという佐渡で、顔を隠すなら、能面を使うのはごく自然のことだと。
大癋見とは鬼面で、天狗の役で用いられるようです。

能面/大癋見 文化遺産オンライン
口を「へ」の字に閉める吽形(うんぎょう)の鬼。『是界(ぜがい)』『車僧(くるまぞう)』では人間界に害をなそうと現われ失敗する天狗、『鞍馬天狗(くらまてんぐ)』では、牛若丸(うしわかまる)の守護を約束する天狗の役に用いる。面裏に「大蔵家面」....

物語には、新任の佐渡奉行として荻原近江守重秀が登場します。荻原は、後に勘定奉行として幕府の財政再建に腕を振るった人物として知られています。

佐渡の文化と風土が色濃く残るストーリーを味わいながら、極上の謎解きが楽しめます。
佐渡金銀山に隠された秘密が明らかになるとき、歴史が動きます。
事件を通して成長していく者たちも描かれていて、読み味のよい作品になっています。

※赤神諒さんの「赤神」は「赤神」が正しい表記で、本書では「赤神」とされていますが、Webでの検索結果を考慮して、ここでは「赤神」と表記しました。

佐渡絢爛

赤神諒
徳間書店
2024年3月31日第1刷

装丁:高柳雅人
装画:ヤマモトマサアキ

●目次
序 三十六人の地下舞
第一章 グウタラ侍
第二章 果つることなき
第三章 その男、佐渡奉行
第四章 南沢惣水貫
第五章 大癋見見参
第六章 裏金山
第七章 金の花、栄きたる所
結び 近江守様時代

本文348ページ

本書は、「新潟日報」2023年3月28日~11月22日まで掲載された作品を加筆改稿したもの。

■今回取り上げた本

赤神諒|時代小説ガイド
赤神諒|あかがみりょう(赤神諒)|時代小説・作家 1972年京都市生まれ。同志社大学文学部卒。 法学博士、上智大学法科大学院教授。弁護士。 2017年、「丹生島城の聖将」(単行本時のタイトル『大友の聖将(ヘラクレス)』)で第12回小説現代長...