2023年時代小説SHOWベスト10、発表!

信次郎が消えた!どうする?瞠目の「弥勒」シリーズ第11弾

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『乱鴉の空』|あさのあつこ|光文社文庫

乱鴉の空あさのあつこさんの時代小説、『乱鴉の空(らんあのそら)』(光文社文庫)紹介します。

「時代小説SHOW」の中の人(理流)が、巻末の解説を書かせていただいた『乱鴉の空』(光文社文庫刊)が遂に出ました。

光文社文庫では、おなじみの解説。一読者として、文庫本の解説が大好物でいつも楽しみにしていました。
本書を含めて11作が刊行され、100万部を超える人気シリーズであり、大役にプレッシャーを感じながらも、構想がまとまらず、原稿がなかなか進みませんでした。
しかも、文庫版の1巻から10巻まで読むという課題を課し自らハードルを上げてしまったことから、ギリギリの入稿スケジュールになってしまい、編集の方に迷惑をかけてしまいました。

しかし、最初から読み直したことにより、これまでシリーズがどのように展開してきたか、その展開の中で、木暮信次郎と遠野屋清之介、伊佐治の三人の信頼関係がどのように醸成されていったかがよくわかりました。著者が作品の中に仕込んだ様々な仕掛けと、それに見事に反応するであろう読者たち、多くの人に愛される魅力の源泉に触れた思いがして、一気に解説原稿を仕上げることができました。

また、当サイトの投稿記事と異なり、原稿にプロの編集者や校正者の目が入ることで緊張感をもって臨めて、とてもよい経験になりました。

解説の中で、本文中に登場した「捕物出役」という言葉を使いましたが、そのルビに「でやく」と入っていて、辞書で調べて「しゅつやく」ではないかと編集者に尋ねたところ、亡くなられた歴史学者の山本博文先生によると、「しゅつやく」という読みは江戸時代にはなく、正しい読みは「でやく」とのこと。先生の教えが作品にも生きていることを知って、勉強になるとともにうれしくなりました。

北町奉行所定町廻り同心の木暮信次郎の姿が消えた。奉行所はおろか屋敷からも姿を消し、信次郎から手札を預かる岡っ引きの伊佐治は、大番屋に連れて行かれる。伊佐治の解き放ちに奔走した小間物問屋「遠野屋」主・清之介は伊佐治と二人で信次郎を捜し始める。一方、北町奉行所に不審な者の影が。最後に待っている衝撃の真相! 一〇〇万部突破シリーズ、驚愕の第十一弾。

(『乱鴉の空』カバー裏表紙の紹介より)

その朝、八丁堀の木暮信次郎の屋敷に捕物出役の形をした同心たちがやってきました。
信次郎のほかには、女中のおしばと年老いた小者の喜助しかいない木暮家に、「おい、木暮信次郎はどこにおる」と言って、屋敷内を探しましたが、昨夜遅くに帰ってきたはずの信次郎の姿はどこにもありません。

一方、信次郎のもとで十手を預かり、本所深川の半分を縄張りとする岡っ引きの伊佐治は、咎人や咎人掛かり合いの人物を取り調べる場所である、大番屋へ連れていかれました、

伊佐治は、与力の南雲新左衛門に信次郎の行方について尋問されますが、何も知らず応えることができず、逆に信次郎が逐電したことを初めて教えられました。
伊佐治は、取り調べに同席していた臨時廻り同心の平倉才之助に折檻を受けてしまいました。平倉は、上のほうから信次郎を捕まえろという命を受けて取り調べに立ち合い、かつて信次郎の上司だった南雲をも見張っていたのでした。

清之介は、伊佐治を何としても早く解き放つ策を考え、ある手を打つことに。

同じころ、小名木川に男の死体が上がったという知らせが……。
手の甲に火傷の痕がある死体の正体は?
信次郎の失踪に何か関係があるのでしょうか?

その水死事件をもみ消そうとする剣呑な平倉を使嗾し、信次郎の行方を追う命を下す上のほうとはだれなのでしょうか?

理詰めで謎を解き、真相に迫っていく信次郎を抜きに、清之介と伊佐治は殺された男の正体を突き止め、なぜ殺されたのかを解き明かすことができるのでしょうか?
また、敵よりも早く信次郎を見つけ出し、彼が巻き込まれた事件の謎に迫れるのでしょうか?

そんなとき、『遠野屋』に、清之介の故国嵯波より、まれ吉という手妻が得意な男が会いにやってきました。まれ吉は敵なのでしょうか、それとも味方なのでしょうか?

このシリーズの魅力の一つは、遠野屋の家族、使用人と嵯波の者たちによる清之介ファミリーと、小料理屋「梅屋」を中心とした伊佐治の一家、二組の家族が織り成す家族や主従の在り方にあります。シリーズが進むにしたがって、その絆が深くなっていくところも読者を引き付けるポイントとなっていますが、本書ではさらに女中おしばと下男喜助が信次郎の不在を守る木暮家も描かれています。

さまざまな謎が幾重にも絡み合う展開にワクワクが止まりません。
人斬りに愉楽を覚える、最凶の追手、平倉の存在が物語のサスペンスを高めていき、ラストシーンまで一気読みしてしまいました。

ニヒルな同心と元剣客の商人が奏でる、この痛快な時代小説シリーズは、優れた人間ドラマであり、その面白さには中毒性があります。

本書の帯の裏面に、シリーズ最新刊『野火、奔る(仮)』(単行本)が10月25日発売予定という告知が載っていました。次作も待ち遠しくてなりません。

乱鴉の空

あさのあつこ
光文社 光文社文庫
2023年9月20日初版1刷発行

カバーデザイン:泉沢光雄
カバー写真:AFLO、helovi/Getty Images、Adobe Stock

●目次

一 鳶
二 雛
三 雀
四 五位鷺
五 地鳴き
六 夜鳥

本文371ページ

単行本『乱鴉の空』(光文社、2022年8月刊)を文庫化したもの

■Amazon.co.jp
『弥勒の月』(あさのあつこ・光文社文庫)(第1作)
『乱鴉の空』(あさのあつこ・光文社文庫)(第11作)

あさのあつこ|時代小説ガイド
あさのあつこ|時代小説・作家 1954年、岡山県生まれ。青山学院大学を卒業後、小学校講師を経て作家デビュー。 1997年、『バッテリー』で野間児童文芸賞を受賞。 1999年、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞を受賞。 2005年、『バッ...