江戸の商家の本音がぶつかり合う、痛快で心温まる家族小説

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『誰に似たのか 筆墨問屋白井屋の人々』|中島要|朝日新聞出版

誰に似たのか 筆墨問屋白井屋の人々中島要(なかじまかなめ)さんの時代小説、『誰に似たのか 筆墨問屋白井屋の人々』(朝日新聞出版)を紹介します。

著者は、2008年に「素見(ひやかし)」で第2回小説宝石新人賞を受賞し、2010年に『刀圭』でデビューしました。2018年には、「着物始末暦」シリーズで、第7回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞しました。

本書は実力派の作家が放つ、江戸の商家を舞台にした家族小説です。

江戸日本橋の筆墨問屋白井屋は、太兵衛が大店にした。妻のお清は、太兵衛の女遊びに苦労させられたが、隠居後は夫婦で穏やかに暮らす。しかし、夫の死後に裏切りを知り、大激怒。妻に逃げられた年下の蕎麦屋の男に自らを重ねて、貢ぎはじめる。世間体を気にする長男、貧乏長屋に暮らしお清からの援助を期待する長女は、老母の恋を止めようとするが……。

(『誰に似たのか 筆墨問屋白井屋の人々』カバー裏の内容紹介より)

盆が明けたばかりのころ、深川今川町にある裏店で暮らすお秀とお美代の母娘のもとを、日本橋通油町の筆墨問屋(ひつぼくどいや)、白井屋の四代目主人の太一郎が訪ねてきました。太一郎とお秀は実の兄妹です。
飛び交う蚊に悩まされていた太一郎は、蚊やりを買えないくらい金に困っているのかと思わず尋ねました。

「ええ、ここで暮らし始めてから、米櫃が一杯になったことなんてありゃしません。兄さんはいつもいいものを食べていて、血がおいしいから狙われるのね。ここらにいる蚊にとっちゃ、めったにない御馳走ですよ」
 笑みを浮かべて嫌みを言えば、とたんに兄が鼻白む。
「三十路になっても、おまえの減らず口は変わらないね。いまの貧乏暮らしは身から出た錆じゃないか」
「言われなくともわかっています。親の反対を押し切って、売れない浮世絵師だったあの人と一緒になったあたしだもの」

(『誰に似たのか 筆墨問屋白井屋の人々』P.8より)

この春、二人の父である白井屋太兵衛が五十九で亡くなりました。四年前に兄に身代を譲り、長年連れ添った母と隠居暮らしを楽しんでから、倒れてひと月後逝ったのでした。
お秀は縁を切ったと言っても、たったひとりの実の娘で、母の計らいで父の臨終に立ち合い、通夜と葬式も顔を出すことが許されました。

太一郎の用件は、母のお清が、十以上も年下で屋台の蕎麦屋をして、男で一つで娘を育てている杉次郎に貢いでいて、外聞が悪いので蕎麦屋に近付かないように母に言ってくれと。

貧乏暮らしを助けるためにお清からの援助を期待していた、お秀が実家に行って、母に事情を聞くと、太兵衛が院協後に料理屋で仲居をしていた二十歳過ぎの娘を見初めて、内緒で囲っていたというひどい裏切りに遭い、怒り狂い、一人でいると気が塞いで杉次郎の屋台に通っていると……。

隠居した母お清の恋に振り回される兄太一郎と妹お秀、夫太兵衛に亡くなられてから裏切りを知ったお清。
太一郎は、商い上手で店を大きくした父太兵衛のような商才はなく、父が亡くなってから周りの態度も変わってきて、今後の商いを考えると悩みは深まるばかり、しかも長男の一之助は手習い所を仮病でずる休みして……。
太一郎の妻、お真紀は実家の隠し子騒動に苛立ちを覚え、息抜きもできません。

物語は、お秀、お清、太一郎、お真紀、さらには太一郎とお真紀の長男一之助、お秀の長女お美代と、各話ごとに主人公を変え、それぞれの日々を描きながら、悩みや葛藤を明らかにしていく家族小説となっています。

“誰”を“家族”に置き換えてみると、家族一人ひとりの本音がぶつかります。。
“家”を核にして展開するこの物語では、親子の情や夫婦の思いなど本音がぶつかり合い、心地よい読み味となっています。
みんなバラバラなようでも、本音を言い合える家族は、それゆえに強い絆で結ばれています。
白井屋の人々を見ていると、この先、困難なことに出合っても、家族の力で乗り越えていくように思えました。

誰に似たのか 筆墨問屋白井屋の人々

中島要
朝日新聞出版
2023年4月30日第1刷発行

装画:瀬知エリカ
装丁:大岡喜直(next door design)
図版:谷口正孝

●目次
第一話 誰に似たのか 三代目長女 お秀
第二話 誰のおかげで 三代目妻 お清
第三話 誰がために 四代目主人 太一郎
第四話 誰でもいい 四代目妻 お真紀
第五話 誰にも言えない 四代目長男 一之助
第六話 誰にも負けない お秀の長女 お美代

本文258ページ

初出:
第一話 誰に似たのか(「週刊朝日」2021年9月17日号~2021年10月8日号
第二話 誰に似たのか(「週刊朝日」2023年3月10日号~2023年3月31日号
第三話以降は書き下ろし

■Amazon.co.jp
『誰に似たのか 筆墨問屋白井屋の人々』(中島要・朝日新聞出版)

中島要|時代小説ガイド
中島要|なかじまかなめ|時代小説・作家早稲田大学教育学部卒業。2008年、「素見(ひやかし)」で第2回小説宝石新人賞を受賞。2010年、『刀圭』でデビュー。2018年、「着物始末暦」シリーズで、第7回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。■...