『新・知らぬが半兵衛手控帖 一周忌』|藤井邦夫|双葉文庫
藤井邦夫さんの文庫書き下ろし時代小説、『新・知らぬが半兵衛手控帖 一周忌』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。
これまでに藤井邦夫さんの文庫書き下ろし小説を紹介する機会があまりなく、いささか心苦しく思っていました。
本書は、「秋山久蔵御用控」と並ぶ、著者の代表シリーズ「新・知らぬが半兵衛手控帖」の第12作(前シリーズの「知らぬが半兵衛手控帖」が全20作あります)です。
八百石取りの旗本北島家の倅で、愚か者と評判の右京が五日前から姿を消した。その行方捜しを命じられた臨時廻り同心の白縫半兵衛は、右京と連んで湯島界隈を遊び歩いていた旗本の倅・原田進次郎、大沢小五郎らを見張り始める。すると、信次郎らの行く手に想初の浪人が立ちはだかり……。北島右京はなぜ姿を消したのか、そして信次郎らを尾行廻す総髪の浪人の目的とは!? 「世の良いところもあるさ」と嘯く半兵衛の人情裁きを描く、書き下ろし人気シリーズ第十二弾。
(本書カバー帯の紹介文より)
本書の主人公、「知らん顔の半兵衛」こと、白縫半兵衛(しらぬいはんべえ)は、北町奉行所臨時廻り同心です。
臨時廻り同心は、南北の江戸町奉行所に各六名いました。
定町廻り同心の予備隊的存在でしたが、職務は全く同じで、定町廻り同心を長年勤めた者がなり、指導、相談に応じる先輩格でもありました。
半兵衛は、北町奉行所の同心詰所に顔を出すと、当番同心から声を掛けられて、今朝、表門を開けたらあったと、一通の手紙を差し出されました。
半兵衛は、手紙を受け取って同心詰所を足早に後にしました。
表門脇で待っていた岡っ引の本湊の半次と下っ引の音次郎を連れて蕎麦屋に入り、封を切って手紙を読みました。
手紙は短く、読み終えると、半次に手紙を差し出しました。
半次は、手紙を受け取った。
音次郎は、隣から手紙を覗き込んだ。
「知らん顔の旦那さま。今夜、神田れんじゃく町の質屋大こく屋に盗人が押し込みます。どうか、止めてやって下さい。おねがいします……」
半次は、声を出して手紙を読んだ。
「垂れ込みじゃありませんか……」
音次郎は、素っ頓狂な声をあげた。
(『新・知らぬが半兵衛手控帖 一周忌』「第一話 長い一日」P.13より)
文字は女文字で、所々漢字ではなく仮名で、町方の女の書いた手紙と推察されます。
半兵衛を知っていて、盗人と拘わりのある町方の女。
「信じないで悔むより、信じて無駄骨を負った方がいいさ。それが役目だ」と、半兵衛は垂れ込みを信じました。
半次と音次郎と手分けをして、盗賊の一味の押し込み先の神田連雀町の質屋大黒屋を調べるとともに、手紙を寄越した町方の女を探しはじめました。
町方の女を探す過程で、人情味が厚い半兵衛の人となりが明らかになっていきます。
一方で、今夜の押し込みまで残された時間は限られる中、三人は盗賊の正体を明らかにするため、東奔西走します。
時間が次第に無くなっていき、短い話の中にも緊張感がみなぎってきます。
半兵衛と父親が昵懇の仲だった、北町奉行所の隠密廻り同心、黒木佑馬が活躍する、「第三話 隠密廻り」も印象に残る話です。
町奉行や与力の命を受けて、隠密の探索をする役目が持つ非情な世界が描かれています。
新・知らぬが半兵衛手控帖 一周忌
藤井邦夫
双葉社・双葉文庫
2021年2月13日第1刷発行
カバーデザイン:泉沢光雄
カバーイラストレーション:横田美砂緒
●目次
第一話 長い一日
第二話 一周忌
第三話 隠密廻り
第四話 通り雨
本文312ページ
文庫書き下ろし。
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『新・知らぬが半兵衛手控帖 一周忌』(藤井邦夫・双葉文庫)
『紙風船 新・秋山久蔵御用控(九)』(藤井邦夫・文春文庫)