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捨て子と養生所の話

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乾荘次郎さんの『夜襲 鴉道場日月抄』を読んでいる。傳通院近くの「鴉道場」こと柳花館の師範代高森弦十郎の周りで起こった事件を描くシリーズの第二弾である。

剣術道場を舞台にしながらも、剣豪小説となっていないところがユニーク。病に臥せている師の面倒を見ながら、貧乏道場を切り盛りする主人公は、人情に厚く正義感が強い、おまけにやや惚れっぽい。

「捨て子」という話では、捨て子をめぐる事件が描かれている。大名屋敷の門前に赤子の捨て子があった。寺社や大店、大名屋敷の門前など、かならず拾ってくれて育ててくれそうなところに捨てられたという。大名家では家中では育てられないので、出入りの町人に養育費として金銭をつけて赤子を引き取ってもらったという。

この話では、捨て子事件といっしょに、幕末の小石川養生所の様子も描かれている。

「そうだ。養生所に徳五郎という看病中間がいる。その男にわたしていたんだ」

「看病中間?」

「養生所はその男が動かしているようなものなんだ」

「医者は?」

「医者は仕事などやる気がねえ。みな中間まかせなのさ。その中間をまとめているのが徳五郎だ」

 弦十郎も養生所の評判は聞いたことがある。町人たちも、あそこに入れば殺されると噂しているくらいで、だれも入りたがらない。

(『夜襲 鴉道場日月抄』P.152より)

作者は、この話について、安藤優一郎さんの『江戸の養生所』を参考にしたと明記している。高邁な理念のもとに発足した養生所も時代が進むにつれて腐敗していったことが残念だ。

江戸の養生所 (PHP新書)

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