2023年時代小説ベスト10【単行本部門】

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2023年おすすめの時代小説ベスト10(単行本)

時代小説ベスト10【単行本部門】
「時代小説SHOW」による、2023年単行本時代小説のベスト10を発表します。

対象は、Amazonでの発売日が2022年11月1日から2023年10月31日発行の時代小説作品で、単行本(および新書)で刊行された作品になります。

2023年は、東京新聞の「推し時代小説」で、単行本の書評を書かせていただき、これまででいちばん単行本で時代小説を読んだ年となりました。

1位 『まいまいつぶろ』
まいまいつぶろ

村木嵐(むらきらん)
幻冬舎
2023年5月刊

♪ 九代将軍徳川家重と小姓兵庫(大岡忠光)、主従の間柄を越えた、深い絆と葛藤と成長の物語。「もう一度生まれても、私はこの身体でよい。忠光に会えるのならば」という言葉に、涙腺が決壊した。
 障がいをもつ人物として、将軍を真正面から描きながら、これほど真摯に障がいに向き合った歴史小説はこれまでになかったと思う。将軍吉宗、老中松平乗邑や酒井忠音ら老中、大岡忠相、正室比宮増子、その侍女・幸と、家重とのやり取りから、体が不自由な者への見方や接し方が十人十色で描かれていて、その人となりまで浮き彫りにされていて、興味深く読んだ。

2位 『風と雅の帝』
風と雅の帝

荒山徹(あらやまとおる)
PHP研究所
2023年9月刊

♪ 戦乱の南北朝時代に北朝初代天皇となる、光厳帝(量仁)の激動の生涯を描いた長編歴史小説。幾多の苦難にも負けずに、天皇のあり方を書いた『誡太子書』を座右の書として、学問に励み徳を積んで、聖賢の天皇を目指す量仁。学問だけでなく、“治天の君”として勅撰和歌集『風雅和歌集』を撰集する。
 その一方で、日々筋肉の鍛錬を怠らない、何とも魅力的な歴史ヒーローが誕生した。南朝の後醍醐帝との対話シーンが圧巻。これまでの皇国史観を一変させるような会心作だ。

3位 『茜唄(上・下)』
茜唄(上)

今村翔吾(いまむらしょうご)
角川春樹事務所
2023年3月刊

♪ 当代随一のストーリーテラーの手によりよみがえる「平家物語」。戦の常識に囚われない義経と、その常識を捨てた知盛という二人の天才が出会ってしまったことで、源平の戦いはものすごいスピードで決着の地、壇ノ浦へと向かう。
 戦で敗色濃厚、滅びに向かう中で、知盛ら平家一門の紐帯と平家愛が眩しいくらいに鮮やかに描かれ、悲壮感を昇華し爽快な気分にさえしてくれる。正史は勝者が創り出したもので、稗史にこそ真実がある、そんなことを再認識した。著者が解き明かした「平家物語」に仕掛けられた壮大な秘密を知ったとき、最後の感動に震えた。

4位 『木挽町のあだ討ち』
木挽町のあだ討ち

永井紗耶子(ながいさやこ)
新潮社
2023年1月刊

♪ 世の理から見放されて弾き出されて、芝居町に転がり込んで落ち着いた芝居者たちが、武士としての本分を貫くという菊之助の本心に共感して、力を貸していく。だれもが立派だったと話す仇討に隠された真相を明らかにしながら、事件の語り手である芝居者たちの来し方を交えて、その矜持と心情を鮮やかに描いていく。芝居関係者の証言をもとに構成された物語はユニークでかつ美しく、良質なミステリー小説のように真相がすべて明らかになったとき、感動が押し寄せてきた。

5位 『貸本屋おせん』
貸本屋おせん

高瀬乃一(たかせのいち)
文藝春秋
2022年11月刊

♪ サスペンスタッチの短編「をりをりよみ耽り」(第100回オール讀物新人賞受賞作)をはじめ、一話完結の連作五編を収録した作品集。一編一編が趣向を凝らしたストーリーに加えて、正義感が強くて勝気でお侠なおせんの魅力が横溢していてチャーミングな作品になっている。何よりも、曲亭馬琴や葛飾北斎らが活躍した、文政期の本の流通事情が生き生きと描かれていて、本好きにはたまらない作品だ。

6位 『本売る日々』
本売る日々

青山文平(あおやまぶんぺい)
文藝春秋
2023年3月刊

♪ 農村の経済を主導している名主たちに、本を行商して売る本屋を主人公にした連作形式の人情時代小説。5位に続いて江戸の本屋さんを主人公にした時代小説。本をめぐる素敵な話が収められている。本の力を再認識させられ、書物の果たす大きな役割について考えさせられた。登場人物が言う、「それはもちろん、あなたが本屋だからですよ。この国で唯一の本屋だからです」という言葉が胸を打った。この人情小説は、江戸時代の農村と物之本(専門書)を取り巻く人びとが活写されていて興味深いばかりでなく、本好きのための賛歌となっている。

7位 『真田の具足師』
真田の具足師

武川佑(たけかわゆう)
PHP研究所
2023年9月刊

♪ 戦(いくさ)の必需品である具足(甲冑)をテーマに、真田vs.徳川の戦いと宿命を描いた戦国エンターテインメント。著者が得意とする、庶民と武将が交わる物語は、複眼的に歴史をとらえることができるとともに、読者の知的好奇心を刺激し想像力を掻き立て、稀有な物語の世界にいざなう。戦の中で、武人の身を守るはずの具足が、時には凶器となるという逆説的な指摘にドキッとした。武士たちの戦いの裏で繰り広げられる、具足師(甲冑師)たちの命がけの戦いを夢中になって一気に読んだ。

8位 『誾(ぎん)』
誾

赤神諒(あかがみりょう)
光文社
2023年9月刊

♪ 戦乱の時代に、少女から大人へ成長していく中で、女らしさを求められる誾千代の苦悩と葛藤、そんな誾千代を命懸けで愛する立花宗茂(千熊丸)の誠が描かれている。さまざまな障害にぶつかりながらも、不器用な二人の愛の形がある時は切なくもどかしく、またある時は気高く美しく、そして温かく綴られ、胸を打った。著者は、文芸とアートの力による、町を活性化させるプロジェクトに積極的に関わっている。本書も、その一環で、新聞連載時の挿画や単行本になった際の表紙装画などを大分県の高校美術科の生徒たちが担当している。

9位 『化け者手本』
化け者手本

蝉谷めぐ実(せみたにめぐみ)
KADOKAWA
2023年7月刊

♪ 『化け者心中』に次ぐ第2弾。本書の魅力の一つは、歌舞伎の演目が物語の中に取り入れられていて、紙上で楽しめること。今回は、赤穂浪士の討ち入りを題材にした『仮名手本忠臣蔵』だ。忠義と恋の間で葛藤するお軽と勘平を描いた狂言は、武士の手本であり、恋の手本でもある。性別や暮らしを投げうってまで芝居に打ち込む役者たちは化け者であり、恋の成就を一心に願う女子らもまた化け者。謎解きばかりでなく、芸道小説であり、人間の本質に迫る恋愛小説でもある。

10位 『楊花(ヤンファ)の歌』
楊花の歌

青波杏(あおなみあん)
集英社
2023年2月刊

♪ 戦時下のスパイ小説としてスリリングに始まり、亜熱帯のかぐわしい風景のなかで、リリーとともに働く女たちの愛と葛藤がドラマ性豊かに抒情的に綴られていく。諜報活動をともにする、リリーとヤンファが、互いに惹かれ合いながらも、互いのアイデンティから葛藤に悩む姿が描かれていて、物語に引き込まれた。とくに、ヤンファの生い立ちに触れた第三部は、良質の少女小説としても心に強く残り共感を覚えた。遅ればせながら、タイトルの意味に気づいたときに、感動の波が押し寄せてきました。

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