2023年時代小説SHOWベスト10、発表!

西国一強くて美しい、女城主の愛と葛藤の生涯を描く歴史長編

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『誾』|赤神諒|光文社

誾立花誾千代(ぎんちよ)は、山本兼一さんの『まりしてん誾千代姫』を読んで以来、私にとってずっと片恋の戦国ヒロインです。

大藪春彦賞受賞の歴史時代小説家、赤神諒(あかがみりょう)さんが、誾千代を主人公に描いた歴史小説を発表しました。『誾(ぎん)』(光文社)です。

誾千代(誾)は、大友宗麟の重臣で西国最強の将、戸次道雪(べつきどうせつ)の一人娘で、本書も著者のライフワークである「大友サーガ」を構成する一冊となります。

大友宗麟の家臣で西国最強の将、戸次道雪のひとり娘、立花誾千代は、幼い頃から男勝りで武芸に秀でていた。父の跡を継いで女城主となり、目指すは最強の女武将だったが、幼馴染の高橋紹運の嫡男、統虎に懇願され、妻として生きる覚悟を決める。だが、立花家を継いだ統虎とは子を生さぬゆえ、不仲がささやかれていた。実は統虎は、愛しても無駄だと知りながら、それでも妻をひたむきに愛し、誾千代も必死にそれに応えようとしたのだ――。

(『誾』カバー帯の説明文より)

天正三年(1575)1月、立花誾千代は、豊後国府内にある、大友宗麟の居館にいました。
家臣団の主だった者たちが新年の宴に集い、なかには、自慢の後継を連れてやってきた家臣たちもいて、誾千代も父に連れられて、大友宗麟・義統に目通りをしました。

道雪は五年前の戦で腰に重傷を負い、下半身が不随となりましたが、馬に乗れなくても、得物を槍から鉄砲に代え、輿に載って出陣していました。しかし、道雪はもう子を作れません。
誾千代は、女でも自分が当主となって立花家を継ぐのだという強い信念を持ち、道雪が認めた大友第二の将、高橋紹運の嫡男千熊丸に、一対一の喧嘩を仕掛けました。

 誾千代は悔しかった。すぐそばに文武に優れたわが子がいるのに、女だから後を継げぬというのか。だが、もし千熊丸を叩きのめせば、道雪も誾千代を認めざるをえまい。
「大友家の最強は立花じゃと教えてやる」

(『誾』P.18より)

同じ年頃の子弟と比べて、背が低い千熊丸に対して、子どもにしては大柄で、物心が付く前から武芸を叩き込まれてきて同年代の家臣の子弟たちに負けた覚えがない誾千代では、勝負になりません。
しかし、一方的にやられ続けても千熊丸はあきらめず、降参をしません。誾千代も最後には千熊丸を認めて、千熊丸も誾千代のことを意識するようになりました。

三年後、誾千代は立花城の城督(城主)となり、西国一の女武将を目指して、鉄砲の稽古に精を出していました。
母の仁志は、誾千代の男勝りを直そうと、香道など女の嗜みを身につけさせようとしたり、大人の侍女を何人も付けたりしますが、うまく行きません。

八幡大神を主祭神とする筥崎宮を参詣した千熊丸は、拝殿の奥にある本殿へ向かう一行に目を奪われました。

 正式な参拝らしく全員正装で、列の後方に紫の唐衣を羽織った少女の姿が見えた。落ち着いた藤色の五衣に純白の裳をまとい、檜扇を手にゆっくりと進んでいゆく。通夜のあるぬばたまの長い大垂髪、念入りに化粧を施した白面、赤い紅を塗った唇を見たとたん、千熊丸の胸が激しく鼓動を打ち始めた。
(何と、美しい少女か……)

(『誾』P.44より)

十二歳の千熊丸には嫁取りの話が出ていました。もちろん政略結婚で、両親が選ぶ女性を妻とするのが、高橋家の跡取りとして、当然至極のつとめでした。
名も素性も知らない紫の唐衣の少女とは成らぬ恋とあきらめますが……。

戦乱の時代に、少女から大人へ成長していく中で、女らしさを求められる誾千代の苦闘と葛藤、そんな誾千代を命懸けで愛する統虎(千熊丸)の誠が描かれています。
さまざまな障害にぶつかりながらも、不器用な二人の愛の形がある時は切なくもどかしく、またある時は気高く美しく、そして温かく綴られ、胸を打ちました。
誾千代はもちろんですが、立花宗茂(統虎の後の名)もますます好きになってしまいました。

著者は、文芸とアートの力による、町を活性化させるプロジェクトに積極的に関わっています。本作品も、その一環で、新聞連載時の挿画や単行本になった際の表紙装画など、大分県立芸術緑丘高等学校美術科の生徒のみなさんが担当されています。

本書の取り組みをきっかけに、立花誾千代と宗茂に興味を抱き、歴史時代小説に関心を持つ人が増えるとうれしいと思いました。

江戸時代の竹田藩を舞台にした時代小説『はぐれ鴉』では、竹田市に作品ゆかりの地を訪れる「聖地巡礼」の人が来ていて、町おこしに寄与しているそうで、さらに同市のふるさと納税の返礼品にもなっています。

歴史時代小説の役割や機能を考え抜いて、読者を開拓する著者の試みを、今後も見ていきたいと思います。

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赤神諒
光文社
2023年9月30日初版1刷発行

装幀:芦澤泰偉
装画:橋本愛梛(大分県立芸術緑丘高等学校美術科)
別丁扉:井上晴空(大分県立芸術緑丘高等学校美術科)
本文イラスト:大分県立芸術緑丘高等学校美術科のみなさん

●目次
序 良清寺
第1部 烈姫
 第一章 女城主
 第二章 男勝り
 第三章 決められた道
 第四章 幻の女武将
 第五章 武家の妻

第二部 虎女
 第六章 出来損ないの女
 第七章 女と男
 第八章 猫と酒
 第九章 西国一の将
 第十章 女身に甲冑をまといて
 
第三部 荼枳尼天

 第十一章 誾ノ舞
 第十二章 孤城
 終章 白狐

本文343ページ

初出:「大分合同新聞」2022年9月23日~2023年4月23日

■Amazon.co.jp
『誾』(赤神諒・光文社)
『まりしてん誾千代姫』(山本兼一・PHP文芸文庫)

赤神諒|時代小説ガイド
赤神諒|あかがみりょう(赤神諒)|時代小説・作家 1972年京都市生まれ。同志社大学文学部卒。 法学博士、上智大学法科大学院教授。弁護士。 2017年、「丹生島城の聖将」(単行本時のタイトル『大友の聖将(ヘラクレス)』)で第12回小説現代長...