故郷筑前の裏社会を、閻羅遮と呼ばれる用心棒が斬る

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『谷中の用心棒 萩尾大楽 外道宿決斗始末』|筑前助広|アルファポリス文庫

谷中の用心棒 萩尾大楽 外道宿決斗始末2022年に、第11回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞を受賞した、筑前助広(ちくぜんすけひろ)さんの時代小説、『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』に続く、シリーズの第2弾、『谷中の用心棒 萩尾大楽 外道宿決斗始末』が発売になりました。

前作で禁制の抜け荷を行っていた玄海党を、死闘の末に壊滅させた萩尾大楽のその後を描く、ファン待望の続編です。

ご禁制の抜け荷を行っていた組織・玄海党を潰した萩尾大楽は、故郷の斯摩藩(しまはん)姪浜(めいはま)で用心棒道場を開いていた。
玄海党が潰れ平和になったかに見えた筑前の地だが、かの犯罪組織の後釜を狙う集団がいくつも現れたことで、治安が悪化していく。
さらに大楽の命を狙い暗躍する者のまで現れ、大楽は否応なしに危険な戦いへと身を投じることとなる――
とある用心棒の生き様を描いた時代小説、第二弾!

(本書カバー裏の内容紹介より)

天明三年(1783)春。
阿芙蓉(アヘン)を含む抜け荷で、博多を支配していた玄海党を死闘の末に壊滅させた、萩尾大楽は、筑前早良郡姪浜宿に活計のため、新しい道場を開きました。ところが、道場を開いたはいいが、肝心の門人が集まらず、継母の松寿院が養育を始めた孤児たちの子守りで報酬を得る体たらく。

大楽は、松寿院から今回の依頼を引き受けてきた、萩尾道場の実務を支えている二代目師範代に愚痴を言いました。

「なぁ平岡。一つ良いことを教えてやるが、これは用心棒ではなく子守りって言うんだぜ?」
「仕方がないですよ。今の道場には、仕事を選り好んで踏めるような余裕はありません。それに松寿院様の頼みなど誰が断れますか?」
「……お前、どことなく寺坂に似てきたな」
「旦那と付き合っていれば、誰でもこうなるんじゃないですかね? そんなことより、急ぎの仕事です」
 
(『谷中の用心棒 萩尾大楽 外道宿決斗始末』P.12より)

姪浜宿で最も高級な料理店・楠安楼で酔った浪人が暴れていると。子守りは苦手だが、酔っ払いの躾は十八番という大楽が出動することに。

そんな大楽を邪魔に思う男が江戸にいました。江戸を裏で取り仕切る武揚会の首領の一人、根岸一帯を縄張りとする益屋淡雲です。淡雲は玄海党の持っていた阿芙蓉を含む抜け荷の道を奪取し、博多を支配するという野望を持っていました。そして、玄海党の残党を保護し、南海の雄藩薩摩藩八代目藩主島津重豪とも手を組みました。

「……益屋。薩摩が一枚嚙むとして、何か懸念はあるか?」
「いえ、公儀の密偵に漏れなければ」
 と、そこまで言って、淡雲の脳裏にあの男が浮かび上がった。
「一人、厄介な男がおります」
「一人? たった一人か?」
「ええ。萩尾大楽という浪人者でございます」

(『谷中の用心棒 萩尾大楽 外道宿決斗始末』P.32より)

そして、姪浜宿に、大楽の命を狙って一人の始末人がやってきました。
蜷川乾介は、萩尾道場を訪れて入門を希望しますが、大楽の指示で腕試しをさせられます。

常州笠間藩の下級役人の子に生まれた乾介は、七歳のころ、姉を凌辱されたうえに殺されました。無眼流の免許を持つ父は下手人の上士の子弟たちを斬り捨てて、乾介を連れて脱藩しました。江戸に出た父は名うての人斬りになっていて、生きるために殺しを稼業としていました。その父が乾介が十四になった冬に血を吐いて死に、乾介は父と同じく始末屋になりました。

さて、玄海党が壊滅された後、福岡・博多の秩序は失われ、汚職役人は一掃されましたが、同時に行政機能が著しく鈍化し、治安の悪化を招き、方々でやくざや浪人が徒党を組んで第二の玄海党にならんと覇を唱える、破落戸どもの群雄割拠となっていました。

姪浜宿の西にある外堂宿では、丑寅会という新選組のような浪士集団が支配していました。乾介は、「丑寅会に合流せよ」という元締めからの命を受けて、丑寅会と行動をともにすることに……。

敵役が強ければ強いほど、悪役が悪ければ悪いほど、物語は面白くなります。
本書もその法則が当てはまるように、凄腕の殺し屋に、宿場町を支配する浪士集団、冷血無比の首領、抜け荷の総本山のような薩摩藩と、大楽をめぐる包囲網が張り巡らされました。

その一方で、大楽を助ける仲間たちも現われて、争いは先の読めない展開に。手に汗握るハラハラドキドキの連続で、一気読みさせられました。

閻魔の行く手すら遮るという「閻羅遮(えんらしゃ)」の異名をもつ大楽は、今度こそ、筑前の裏社会を潰すことができるのでしょうか?
2年間の充電でさらに腕を磨いた著者の構成力が光る、読み味痛快な第2作です。待った甲斐がありました。

谷中の用心棒 萩尾大楽 外道宿決斗始末

筑前助広
アルファポリス アルファポリス文庫
2024年4月5日初版発行

装丁イラスト:松山ゆう
装丁デザイン:AFTERGLOW

目次
序章 子守りの用心棒
第一章 あの男
第二章 丑寅会
第三章 襲撃
第四章 蠢動
第五章 会敵
第六章 六人の用心棒
第七章 外道宿の決斗
終章 兄弟たち

本文306ページ

■今回取り上げた本


筑前助広|時代小説ガイド
筑前助広|ちくぜんすけひろ|時代小説・作家福岡県福岡市在住。2020年、「それは、欲望という名の海」で第6回アルファポリス歴史・時代小説大賞特別賞を受賞し、2022年『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』で出版デビュー。2022年、『...