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女隠密雪乃の放つ矢は、悪漢を捕らえ、恋する者の心も射貫く

『照れ降れ長屋風聞帖(十三) 福来』|坂岡真|双葉文庫

照れ降れ長屋風聞帖(十三) 福来坂岡真(さかおかしん)さんの長編時代小説、『照れ降れ長屋風聞帖(十三) 福来』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。

本書は、2009年に文庫書き下ろしで双葉文庫から刊行された「照れ降れ長屋風聞帖」シリーズの新装版第13巻です。

隠密の楢林雪乃が生け捕りにした天下御免の大泥棒、妻籠の仁平次が護送中に矢で射られ絶命した。裏があると睨んだ雪乃は、死んだのは仁平次ではなく、夫婦小僧と呼ばれるこそ泥のかたわれだとつきとめる。そんな折、将軍から直々に深川三十三間堂の矢競べに出場せよとの下命が。秘かにおもいを寄せる同心八尾半四郎に見守られ、雪乃、海内一の弓取りに挑む! 一万本の矢に込めた切ない恋情に落涙必至の傑作新装版、第十三弾。

(『照れ降れ長屋風聞帖(十三) 福来』カバー裏面の説明文より)

本書は、照降町の裏長屋に暮らす浪人・浅間三左衛門を主人公にしたシリーズですが、三左衛門の友人で南町奉行所定町廻り同心・八尾半四郎がもう一人の主役をつとめています。

情に厚い中年の三左衛門が体を張って悪に立ち向かう話もよいのですが、半四郎が活躍する話も好きです。

機動力のある捕物が堪能できることもありますが、半四郎が秘かに思いを寄せる、女隠密・雪乃の魅力によるところも大きいです。

時代は文政九年(1826)、文月十八夜。
雪乃は中山道板橋宿の外れで、牢を破って逃走中の妻籠の仁平次という大泥棒を捕縛する役目を与えられていました。
小者の安の手引きで、仁平次らしい男を見つけました。

 的に向かって真横に立ち、重籐の弓を構えた。
 長身で痩せたすがたは、丹頂鶴にもみえる。
 あまりの凛々しさに、安は息を呑んだ。
 雪乃は靭かあ妻白の矢を取り、おもむろに番える。
 呼吸は静かで、していないかのようだ。
 胸を反らせ、ぎりっと弦を引きしぼる。

(『照れ降れ長屋風聞帖(十三) 福来』P.11より)

雪乃が続けて放った二本の矢は、仁平次の左右のふくらはぎを射貫かれ、見事に盗賊を捕らえました。

ところが、仁平次は唐丸籠で護送中に駒込追分で矢で射殺されてしまいました。
奉行直属の隠密である雪乃は、内与力で差配人の坂崎伝内から、五十間も離れた辻陰から、寸分の狂いもなく心臓を射貫かれたと聞き、下手人を探すことに。

同じ頃、半四郎は、夫婦で盗みを働く夫婦小僧と呼ぶ盗人を追っていました。

半四郎は、「鳥落とし」の異名をとった弓名人で、徒目付をつとめた父に育てられた雪乃と、四年前にたがいに元御数寄屋坊主の悪事を探る役目で出逢いました。

一目惚れした半四郎は、恋情がつのり飯ものどを通らないほどで、雪乃に思い切って気持ちを伝えましたが、けんもほろろに拒まれました。

そんな折、八朔の祝賀の催しで、深川の三十三間堂で通し矢競べが行われ、幕府の代表として雪乃に出場するようにという将軍家斉の命が言い渡されました。
相手は、八千二百本の通し矢をやってのけた海内一の弓取りと名高い、尾張藩の蟹江惣兵衛。

一昼夜で一万本の矢を射るという通し矢競べの場面が臨場感豊かに描かれ、勝負の行方に思わず手に汗を握っていました。

文庫本のカバー帯の「秘恋、矢のごとく」のキャッチフレーズが、オジサン読者の心も射貫いて素敵です。

本書では、ほかに、三左衛門の養女おすずがかどわかしに遭う顛末を描いた「紅猪口」と、半四郎が駆け出し頃に世話になった元岡っ引きが詰めていた自身番が無残に襲われた事件を描いた「福来」の全三話を収録しています。

タイトルの「福来(ふくらい)」とは、商売繁盛や子孫繁栄を願う、縁起物の二股大根のことでそう。

今回も、痛快な物語を読みながら、江戸の風物や行事、土地柄などに触れて、江戸情緒を楽しめました。

照れ降れ長屋風聞帖(十三) 福来

坂岡真
双葉社 双葉文庫
2021年6月13日第1刷発行

カバーデザイン/イラストレーション:浅妻健司

●目次
鳥落としの娘
紅猪口
福来

本文314ページ

『照れ降れ長屋風聞帖(十三) 福来』(双葉文庫、2009年11月刊)に加筆修正を加えた新装版。

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『照れ降れ長屋風聞帖(十三) 福来』(坂岡真・双葉文庫)

坂岡真|時代小説ガイド
坂岡真|さかおかしん|時代小説・作家 1961年、新潟県生まれ。早稲田大学卒業。 ■時代小説SHOW 投稿記事 江戸に土風が吹き荒れる頃、闇の仕置きが始...