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龍馬の理想を胸に、欧米列強と闘った外交官・陸奥宗光を描く

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『暁天の星』|葉室麟|PHP文芸文庫

暁天の星葉室麟の歴史小説、『暁天の星』(PHP文芸文庫)を紹介します。

葉室麟さんは、2017年12月に逝去するまでの13年間に、多くの著作物とともに、歴史時代小説にとても大きな足跡を残されました。

本書は、幕末に坂本龍馬の作った海援隊に所属して龍馬の薫陶を受け、明治には外務大臣として不平等条約の改正に尽力した、陸奥宗光を主人公にした明治歴史小説です。
最晩年の作品で、残念ながら未完のまま筆をおいています。

坂本龍馬が認めた男・陸奥宗光は、明治維新後、外務大臣として欧米列強と対峙し、不平等条約の改正に尽力する。そして、日本の尊厳をかけて強国に挑まんとする陸奥を支え続けたのは、妻の亮子だった。本書は、著者が最期に「これだけは書いておきたい」と願い、病と闘いながら綴った物語。未完ではあるが、著者の歴史作家としての信念を感じ取れる貴重な作品である。坂本龍馬の姉を描いた短篇「乙女がゆく」を特別収録。

(『暁天の星』カバー裏の紹介より)

明治十八年(1885)夏、陸奥宗光はオーストリアのウィーンで、法学者シュタインの個人教授を受けていました。

シュタインは、行政の役割を重視し、一人の人間のように行動し、原則として、君主(天皇)は君権を行使せず、実権は内閣と国会が担い、中でも内閣の主導による国家を運営するという学説を唱えていました。

翌明治十九年二月、陸奥は1年9カ月に及ぶヨーロッパ遊学を終えて帰国しました。、

「政府に入って何をなさるのですか」
「まだ、考えておりませんが、伊藤公が憲法を制定しようとされているのでそれを手伝うかもしれません」
 陸奥は淡々と答えた。サトウはうなずいて、
「憲法制定は大事業です。たしかに多くのひとの力が要るでしょう。しかし、拳法を制定した後、真っ先にしなければならないことがあります。陸奥さんはそれをしようとしているのではありませんか」
 
(『暁天の星』P.35より)

妻の亮子と足尾を訪れた陸奥は、そこで、人力車に乗った外国人旅行者らしい男、アーネスト・サトウから声をかけられました。
サトウは幕末にイギリス外務省の通訳として来日し、日本語を自在に駆使する練達の外交官として知られる人物で、その後、シャム(タイ)の総領事をつとめ、このころ、ひさしぶりに日本に来て日光から足尾まで旅を楽しんでいました。

サトウは、不平等条約の改正こそ、陸奥が真っ先に取り組むべきことと答えました。

幕末、開国を求める欧米諸国と幕府は様々な条約を結びましたが、そのほとんどが日本に不利な不平等条約でした。
新政府は、明治四年(1871)の岩倉遣外使節をはじめ、寺島宗則外務卿、井上馨外務卿らの改正交渉、条約改正会議の開催など、不平等条約の改正に取り組んできましたが、なかなか話が進みませんでした。

急速な西欧化の象徴である、鹿鳴館での舞踏会もその一環。
若くてたいへんな美人で評判の亮子は、やがて、伯爵戸田氏共夫人の極子や、陸軍卿の大山巌夫人の山川捨松らとともに鹿鳴館の華と呼ばれるようになりました。

本書には、亮子らの鹿鳴館での武勇伝も綴られていました。

ぱーん、ぱーんと立て続けに鹿鳴館の庭園から打ち上げ花火があがりました。

 陸奥が夜空に輝く花火を見て思ったのは、坂本龍馬のことだった。
(思えば夜空に咲く花火のようなひとだった)
 明るく、はなやかで、ひとの心を沸き立たせる。しかし、はかなく消え去り、この世から去った後々までもひとに何事かを思い出させる。
「わたしは坂本さんのようになりたいと思って生きてきた」
 陸奥はぽつりと言った。

(『暁天の星』P.78より)

「日本を洗濯したく候」と唱えた坂本龍馬の理想を実現すべく、かつて、日本人とは何かから考え、その義務と権利を主張して闘ってきた陸奥と、陸奥に従い、懸命に支える妻亮子。二人の夫婦のあり方と愛が美しく描かれていきます。

女性へのリスペクトに立って描かれている本書で、亮子が血の通ったリアリティを持つ人物として表出されているのも見逃せません。

『暁天の星』が完結し、その後明治をテーマにした小説を書き続けていたら、葉室さんの作品群は、司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』に通じる、日本人とは何かを追求し、明治の歴史を通して現代に課題を投影するテキストとなったように思えてなりません。

本書に特別収録されている「乙女がゆく」は竜馬の姉乙女を主人公に、『竜馬がゆく』のオマージュとなる短編小説といえます。

暁天の星

葉室麟
PHP研究所 PHP文芸文庫
2022年7月20日第1版第1刷

装丁:芦澤泰偉
装画:加藤佳代子

●目次
暁天の星
特別収録 乙女がゆく
解説 葉室麟が陸奥宗光を通して伝えたかったこと 細谷正充
単行本、刊行に寄せて 葉室涼子

本文281ページ

本書は2019年6月にPHP研究所から刊行されたものを文庫化。

初出
「乙女がゆく」は『小説現代』2010年10月号(講談社刊)に掲載。

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『暁天の星』(葉室麟・PHP文芸文庫)

葉室麟|時代小説ガイド
葉室麟|はむろりん|時代小説・作家 1951年1月25日 - 2017年12月23日。 福岡県北九州市小倉生まれ。西南学院大学文学部外国語学科フランス語専攻卒業。 2005年、「乾山晩愁」で第29回歴史文学賞受賞。 2007年、「銀漢の賦」...