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伊達のサムライが17世紀スペインで躍動する、痛快冒険活劇

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エスパーニャのサムライ 天の女王鳴神響一さんの長編時代小説、『エスパーニャのサムライ 天の女王』(双葉文庫)を献本いただきました。

本書は、慶長遣欧使節の一員として派遣されながら、帰国せずにスペイン(エスパーニャ)に残った侍のその後の活躍を描いた痛快歴史小説です。

慶長遣欧使節とは、慶長十八年(1613年)に仙台藩藩主伊達政宗が、フランシスコ会宣教師ルイス・ソテロに藩士の支倉常長らを使節としてつけて、スペイン国王フェリペ3世、およびローマ教皇パウロ5世のもとへ派遣した使節団のこと。

17世紀、無敵の帝国エスパーニャ(スペイン)に渡った慶長遣欧使節のなかに、彼の地にとどまった二人のサムライがいた――!! 武士の誇りを捨てず、鮮やかな剣を遣う小寺外記と瀧野嘉兵衛は「男の中の男」と称えられ宮廷で人望を得る。だが、フランス、バチカンらエスパーニャを狙う権力闘争は激化し、二人は美しき王妃の秘密にまつわる巨大な陰謀に巻き込まれていく。現代セビーリャと往時の絢爛たるマドリードを舞台に描く歴史冒険活劇。
(カバー裏の内容紹介より)

マドリードの大学で文学を教える島本俊介は、ファンで贔屓にしている若きバイラオーラ(フラメンコの女性踊り子)のリディアからある相談を受けました。

留守中に何者かにアパートの部屋を荒らされたが盗まれたものは特になく、貴重品といえば女人像を刻んだ銀製の古いコルガンテ(ペンダント)ぐらいだと。

亡くなった母方の祖母から受け継いだという実物を見せられて、島本は、頭上に光輪を輝かせ中空を見つめる無垢な少女像は、無原罪聖母像と思われ、精緻な彫刻で素晴らしい造形で、いっぺんに魅了されました。

コルガンテは、ロケット・ペンダントになっていました。
蓋を開けると、銀製の板がはめ込まれていて、「まったく、天上の特等席からこんな素敵なお祭り見物ができる切符なんぞ、そうざらに手にはいるものじゃあない」という長い文句が刻まれていました。

コルガンテを裏返すと、日本の家紋を思わせるような、真円を描いたなかに二本の横線を引いた意匠が刻まれていました。

島本は、コルガンテを借りて詳しく調べてみることにしました。
自宅に戻り、東京に住んでいる大学時代の友人で歴史小説作家の楠田良一に電話をかけて、日本の家紋について教えてもらいました。

「来た来た。足利将軍家の紋とは少し違う。これは『丸に二つ引』だね」
「どの家の家紋なんだい?」
「うーん、この家紋を使う足利系の氏族はたくさんあるんだよ。桶狭間の合戦で信長に討たれた足利名門の今川義元、ガラシャの夫として有名な細川忠興、山形の大名だった最上義光、忠臣蔵の悪役吉良上野介、そうそう、遠山の金さんもそうだ」

(『エスパーニャのサムライ 天の女王』P.20より)

引両紋について楠田に調べてもらうように依頼し、島本は、コルガンテに刻まれている文章が、十七世紀スペインの劇作家で詩人カルデロンの戯曲の一節であることを突き止めました。

「じゃあ、君と僕の祖先は血が繋がっているかもしれない」
「そうかもしれない。わたしたちコリアのハポン姓の人間って、祖先が日本から渡ってきたサムライなんですってね」
「そう言われているね。十七世紀の初め頃、日本の陸奥地方の領主だった伊達政宗という王が、マドリードとローマを目指した使節団を三十名ほど派遣したんだ。そのうちの数名が帰国せずにコリアやセビージャに留まり、家庭を持った。彼らの子孫が君たちハポン姓の人々だと言われている」
「たしかにそんな話は亡くなった父から聞いたわ」

(『エスパーニャのサムライ 天の女王』P.30より)

島本は、日本を意味するスペイン語のハポン(JAPON)姓だというリディアと、彼女の祖先を巡る謎を解く鍵を求めて、カルデロンの戯曲に描かれたエストレマドゥーラ州にある、マンティブレ橋(アルコネタル橋)を目指して旅に出ます。

そしてそれは、二人を1623年のマドリードへと誘う、興奮とミステリーに満ちた歴史と冒険の旅の始まりでした。

単行本の刊行時以来、久々にこの作品を読み始めてから、ワクワクが止まりません。歴史とミステリーと冒険の3大要素がてんこ盛りです。

エスパーニャのサムライ 天の女王

著者:鳴神響一
双葉文庫
2020年4月19日第一刷発行
2017年4月、エイチアンドアイより刊行された『天の女王』を改題し、加筆修正のうえ文庫化したもの。

カバーデザイン:長田年伸
カバーイラストレーション:山本祥子
解説:細谷正充

●目次
序章 わたしとリディアの小さな冒険
第一章 マドリードの九月は忙しい
第二章 神の愛の灯が消える
第三章 いざ、ローマへ
第四章 ベラスケスは聖母マリアに悩まされる
第五章 バチカンは闇の夜
第六章 聖母マリアは魔女なのか
第七章 一路、マドリードへ
第八章 異端判決宣告式には『天の女王』が響く
第九章 エスパーニャに栄光あれ!
終章 新たな旅立ち
解説 細谷正充

本文508ページ

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『エスパーニャのサムライ 天の女王』(鳴神響一・双葉文庫)

鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■時代小説SHO...