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繰綿相場に公金をつぎ込んだ家臣の失態に、正紀は?

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おれは一万石(11)-繰綿の幻千野隆司(ちのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『おれは一万石(11)-繰綿の幻』(双葉文庫)を入手しました。

一俵でも禄高が減れば旗本に格下げになる、ギリギリ一万石の大名、下総高岡藩井上家に世子として婿入りした正紀が、藩政改革に取り組んで奔走する様子を描いた、人気シリーズの第11弾です。

著者は、本シリーズと「長谷川平蔵人足寄場」シリーズで、2018年、7回歴史時代作家クラブ賞「シリーズ賞」を受賞しています。

高岡藩では、河岸のさらなる発展のため納屋の普請を検討したが、先立つものがない。消極的な姿勢を叱られた勘定頭の井尻は納屋の普請の費用を稼ぐため、縁のできた商人を通じ、繰綿相場に藩の公金を無断で注ぎ込んでしまった。ところが、相場は井尻の思惑とは逆に働き、このままでは大損必死だ。それを知った正紀は……。待望のシリーズ第十一弾!
(本書カバー裏の紹介文より)

今回のタイトルに入っている繰綿(くりわた)とは、綿花から種子を取り除いたもののこと。これから糸を紡ぎます。綿花は寒冷地では栽培が難しく、西国から仕入れる必要があります。

「繰綿の値は、仕入れのいかんで大きく動くようだが」
「はい。値動きを見計らって、相場にいたす者がございます」
 総弾は渋い顔をした。できるだけ安く仕入れて、益を増やしたい気持ちがあるからだろう。飢饉によって窮乏した財政は、年貢米だけでは補填しきれない。木綿の生産が欠かせない。
「値が上下をする中で、その売買だけで利を貪るのは卑しきことである。己は額に汗することもない。何物をも拵えていない。品に触れることもなく、右から左へ売りさばくだけで、利を得るのであるからな」
 信明が言うと、定信も頷いていた。
 
(『おれは一万石(11)-繰綿の幻』P.15より)

尾張徳川家当主徳川宗睦(むねちか)が主催する茶会に、老中松平定信や松平信明(のぶあきら)をはじめ、大名旗本が姿を現しました。

宗睦の甥でもある井上正紀は控えの間で接待役を務めていました。控えの間にいた定信と信明に、伊勢亀山藩当主石川総博と常州下館藩の石川総弾(ふさただ)らがあいさつにやってきて交わされたやり取りのシーン。

本シリーズでは、江戸の商取引が物語展開の重要な要素の一つとなっています。

民の頂点に立つ武家が相場などに関わるべきではないという方針の定信や信明と違い、かつて大麦や銭の相場で金子を稼ぎ、藩財政の急場を凌いだことがある正紀は、商人がいるから商品は必要な場所へ運ばれ、価格の変動で利する者があったとしても、不正な手立てを講じたのでなければ、相場は商いの活性化を促すと考えていました。

正紀は、藩財政を立て直すために高岡河岸に藩自前の納屋を建てることを考えていましたが先立つ資金がありませんでした。
そんな状況下で、藩の勘定頭の井尻又十郎は、訪ねてきた繰綿問屋より繰綿相場の話を聞き、心を動かし、藩の公金をつぎ込んでしまいます……。

家臣の失態による藩のピンチに対して、正紀はいかなる形で決着をつけるのか、物語の展開が気になります。

目次
前章 茶会の客
第一章 繰綿の値
第二章 届かぬ荷
第三章 折れた櫛
第四章 読売合戦
第五章 高輪中町

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『おれは一万石(11)-繰綿の幻』(千野隆司・双葉文庫)
『おれは一万石(1)』(千野隆司・双葉文庫)
『長谷川平蔵人足寄場 平之助事件帖1 憧憬』(千野隆司・小学館文庫)

千野隆司|時代小説ガイド
千野隆司|ちのたかし|時代小説・作家 1951年、東京生まれ。國學院大學文学部文学科卒、出版社勤務を経て作家デビュー。 1990年、「夜の道行」で第12回小説推理新人賞受賞。 2018年、「おれは一万石」シリーズと「長谷川平蔵人足寄場」シリ...