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八丁堀同心、戦国時代へタイムスリップして、殺人事件の探索

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『鷹の城 定廻り同心新九郎、時を超える』|山本巧次|光文社文庫

鷹の城 定廻り同心新九郎、時を超える山本巧次(やまもとこうじ)さんの代表作の「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」(宝島社文庫)は、2024年5月時点で、10タイトルを数える人気シリーズとなっています。
現代のOLがタイムスリップして、江戸での生活を楽しみながら謎解きをするという、ユニークな設定と物語の中で描かれる江戸情緒や、現代と江戸とのギャップが多くの読者に愛されています。

『鷹の城 定廻り同心新九郎、時を超える』(光文社文庫)は、2021年に単行本の形で発行され、2023年に文庫化されました。
現代人ではなく江戸の同心が過去の戦国時代に行って、殺人事件に遭遇して解決するという設定で、タイムスリップが楽しめる戦国ミステリー小説です。

SFのジャンルであるタイムトラベラーものでありながら、時代小説の範疇に納まってしまうという、ありそうでなかったパターンが新しく、魅力となっています。

激動の戦国を経て安土桃山時代の天正六年。羽柴秀吉は東播磨の城を囲んでいた。一方、江戸南町奉行所の同心・瀬波新九郎は下手人を追うなか、崖から転落し、天正時代にタイムスリップした。新九郎の眼前には甲冑姿の戦国武士たち。そして殺人が起きる。そこから始まる壮大な物語とは――。「八丁堀のおゆう」で人気の著者、渾身の傑作がついにシリーズ化して文庫で登場!

(『鷹の城 定廻り同心新九郎、時を超える』カバー裏の紹介文より)

南町奉行所定廻り同心、瀬波新九郎は下手人を文字通り追っかけている途中に、寛永寺の裏手の崖から落ちたことで、タイムスリップしてしまいました。

新九郎が時を超えた先は、江戸上野ではなく、天正六年(1578)二月の東播磨でした。
前年師走に、上月城を落とした織田信長配下の武将羽柴秀吉が、その勢いのまま、鶴岡景安が領する青野城を大軍で包囲しているところです。
近くの三木城では城主の別所長治が信長に離反するという噂が流れていました。

新九郎は、ひどく汚れた着物を着た一人の男と出会いました。男は、せき込むと口からどっと血が溢れ、かなりの深手を追っていました。

「あんたは誰だ」
 そう聞いてみたが、答えはなかった。代わりに、男の方が確かめるように聞いてきた。
「織田方の者では、なさそうだな」
 オダガタ、が何を意味するのかすぐには分からなかったので、「ああ、違う」
とだけはっきりと言った。男は、その答えに満足したようだ。震える手を懐に入れると、何かの包みを引っ張り出した。それだけのことに、渾身の力がひつようだったらしい。包みを新九郎に渡すと、腕が落ちた。

(『鷹の城 定廻り同心新九郎、時を超える』 P.31より)

男は毛利方の使者で、包みには折りたたんだ書状が入っていました。その書状を青野城に届けるように、新九郎に頼んだところで、男の息が絶えました。

新九郎は、間道を通って何とか青野城にたどり着きましたが、黒の紋付羽織に着流しという江戸の同心の仕事着姿で甚だしく場違いな恰好で、具足姿の城兵たちに不審がられましたが、毛利の使者と勘違いされて、首尾よく重臣の杉浦兵庫に書状を渡すことができました。

その後新九郎は、城主の鶴岡にも面会して、しばらく城に留まることになりました。
城内で、十六、七歳の姫に出会います。目を見張るような美女というわけではありませんが、品のある顔立ちをし、目の光は強く、立ち居振る舞いは勝気そうですが、不思議に引きこまれるような魅力を感じました。

「ふうん。何とも奇妙な出で立ちじゃな」
 姫は、一通り新九郎を値踏みし終えたようで、ふっと笑った。笑うと勝気さが消え、ぐっと愛らしくなる。新九郎は、少しどぎまぎした。
「失礼ながら、鶴岡さまの姫君でございましょうか」
 姫が頷いて答えた。
「奈津じゃ」
 奈津姫か。新九郎は改めて頭を下げた。
 
(『鷹の城 定廻り同心新九郎、時を超える』 P.54より)

江戸から戦国にタイムスリップしたがばかりの新九郎の描写が面白くて、未来の人間であることがバレないか、ハラハラドキドキが楽しめます。
ボーイ・ミーツ・ガールの要素もあって、新九郎と奈津姫の関係からも目が離せません。
本書の読みどころの一つは、城内で起こった殺人事件に、江戸の捜査のプロである新九郎が謎解きをする羽目になり、探偵役として不可思議な事件の謎に挑んでいくところ。
いくさでは当たり前のように人が死んでいく戦国時代、いくさ以外での殺人について、その探索はおざなりで、捜査術も未成熟だったと推察されます。
そんな時代に新九郎が果たした役割とは?

新九郎は事件を解決して、江戸に戻ることができるのでしょうか?
また、戻れるとしたら、どうやって戻ったのでしょうか?

戦国と江戸の違いと謎解きが楽しめて、知的好奇心がくすぐられる作品です。
続編の『岩鼠の城 定廻り同心新九郎、時を超える』も発行されていて、シリーズとしての魅力も加わりました。

ところで、著者は関西の私鉄に長らく勤務され、東京赴任時に「八丁堀のおゆう」を執筆されたとのこと。
本書の登場人物の名前は、鶴岡、香川、杉浦、山内、畠山、湯上谷、そして門田と、南海ホークス(昔のプロ野球チーム)の有名選手の名前が付けられていて、オールドファンとして郷愁を覚えました。
(タイトルは「ホークスの城」ってこと?)

鷹の城 定廻り同心新九郎、時を超える

山本巧次
光文社 光文社文庫
2023年9月20日初版1刷発行

カバーデザイン:Fieldwork(田中和枝)
カバーイラスト:スカイエマ

●目次

狐たちの城

解説 細谷正充

本文308ページ

『鷹の城 定廻り同心新九郎、時を超える』(2021年4月、光文社刊)を文庫化したもの

■今回紹介した本



山本巧次|時代小説ガイド
山本巧次|やまもとこうじ|時代小説・作家 1960年、和歌山県生まれ。中央大学法学部卒業。 鉄道会社勤務の会社員。 2015年、第13回「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉となった『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』でデビュー。 2018...