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時代劇の名脚本家が書いた、面白すぎる時代小説シリーズ

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付添い屋・六平太 龍の巻 留め女
著者の金子成人(かねこなりと)さんは、テレビ時代劇の「鬼平犯科帳」「剣客商売」「御家人斬九郎」などの脚本で知られています。名脚本家が、満を持して時代小説デビューを果たした、「付添い屋・六平太」シリーズの虜になり、『付添い屋・六平太 龍の巻 留め女』(小学館・小学館文庫)をはじめ4作を一気読みしました。

信州十河藩の供番(藩主の駕籠を警護する役目)を務めていた秋月六平太は、藩内の権力抗争に巻き込まれてお役御免となり浪人となった。
それから十年、時代は文政十年ごろ。六平太は、裕福な商家の子女が花見や芝居見物など行楽に出かける際の、案内や警護を担う付添い屋で身を立てている。
血のつながらない妹・佐和は六平太の再仕官を夢見て、浅草元鳥越の自宅で裁縫で家計を支えている。
六平太は、相惚れで廻り髪結いのおりきが住む音羽と元鳥越を行き来して暮らしながら、付添い先で出合う事件に巻き込まれたり、旧藩に関わる因縁に惑わされたりする……。

『付添い屋・六平太 龍の巻 留め女』は、シリーズ第1作目らしく、一話完結の4つの話のストーリー展開に合わせて、六平太の現在の生業となぜ浪人になったのかその経緯を解き明かし、主要な登場人物たちの顔見せ的な役割を果たしています。血のつながらない妹・佐和との微妙な関係が物語に緊張感を与えています。

表題作の「留め女」は、宿場で旅人を引き留めて旅籠に送り込む大女おつぎの悲恋を描いていて印象的です。

 が、六平太は鍔に左手の人差し指を掛け、鞘を捻りつつ胸の方に引き寄せ右手を柄に掛けると、両の手と腹の力で鯉口を切って一挙動に抜刀した。
 立身流兵法の擁刀と呼ばれる抜刀法が相手の素早さより一瞬早かった。

 
立身流は室町時代末期に、伊予国の立身三京によって始まった刀術を中核とした総合武術の兵法。刀術のほかに、やわら、槍術、棒術、捕縄術、長刀と武術全般を網羅していて、六平太にとって、藩主の駕籠の前後を守る供番という役目柄が必須のもので、付添い屋に変わっても、立身流兵法は悪を懲らしめる武器で、見せ場にもなっています。

2作目の『付添い屋・六平太 虎の巻 あやかし娘』では、外出にかこつけて男と密会を繰り返すような、わがまま放題の娘が登場し、翻弄される六平太が描かれています。元許嫁の夫からあらぬ疑いを掛けられたり、妹の佐和にも大きな転機が……。

3作目は『付添い屋・六平太 鷹の巻 安囲いの女』。六平太は藩を追われた後、荒れて無頼の日々を送る中で馴染んだ女との間に一子穏蔵をもうけるが、女の死後育てられずに、借金をして作った三十両を添えて、八王子の農家に養子に出すという過去を持っています。六平太は、穏蔵を思い出させるような子供たちに対して親身で優しく、その視線はいつも温かいです。はたして穏蔵と親子の名乗りをあげられる日はくるのでしょうか。

『付添い屋・六平太 鷺の巻 箱入り娘』は4作目。表題作では、播磨石郷藩藩主の側妾お佐江の方の娘、結衣の輿入れが決まり、お佐江の方は、西国へ嫁ぐ結衣に、最初で最後の江戸見物をさせたいと、六平太に付添いを依頼します。結衣の凛とした可憐さが強い印象を残す佳品です。

各巻とも、一話完結の話を四話で構成されています。ちょうど1時間の放送で完結する、テレビ時代劇シリーズのように楽しめます。また、一話完結の連作形式を取りながらも、サイドストーリーとして、六平太をめぐる人たちの身に起こる様々な事件も綴られていきます。各話のバリエーションの豊富さは、名脚本家ならではの腕の確かさを堪能できます。今、もっとも次回作が早く読みたいシリーズの一つです。

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『付添い屋・六平太 龍の巻 留め女』
『付添い屋・六平太 虎の巻 あやかし娘』
『付添い屋・六平太 鷹の巻 安囲いの女』
『付添い屋・六平太 鷺の巻 箱入り娘』