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逐電した木暮信次郎。行方を追う遠野屋清之介と岡っ引伊佐治

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『乱鴉の空』|あさのあつこ|光文社

乱鴉の空あさのあつこさんの時代小説、『乱鴉の空(らんあのそら)』(光文社)紹介します。

ニヒルな同心木暮信次郎とイケメンの大店商人遠野屋清之介が登場する「弥勒」シリーズの第11弾です。
「弥勒」シリーズと言えば、毎回シンプルながらも凝ったタイトルが付けられていて、読書欲がそそられます。
「乱鴉(らんあ)」とは、Web辞書Weblioによれば、カラスが乱れ飛ぶことを表す言葉だそう。

ニヒルな同心木暮信次郎。元刺客の商人遠野屋清之介。
累計100万部を突破した「弥勒」シリーズ最新刊は、捕り方に追われ、ある朝忽然と消えた信次郎の謎を追う。いったいどこへ? いったい何が?
江戸に蔓延る果てない闇を追い、男と男の感情が静かに熱くうねり合う。

(『乱鴉の空』Amazonの紹介より)

ある朝、八丁堀の木暮家の屋敷に捕物出役の形をした同心たちがやってきました。

「おい、木暮信次郎はどこにおる」
 濁った嫌な声だ。耳障りそのものだ。
「……寝所ではありませんか」
「寝所にはおらぬ。どこぞに隠れたのか。それとも、昨夜は帰らなかったのか」
「いえ……お帰りにはなったと……」
 
(『乱鴉の空』 P.7より)

信次郎のほかには、女中のおしばと年老いた小者の喜助しかいない木暮家。
喜助は踏み込んできた男の一人に背中を押されて転んで腰を痛めてしまい、無口なおしばが役人たちの応対をしました。

昨晩遅く家に帰ってきたはずの信次郎はどこに消えたのでしょうか?

一方、本所深川森下町の小間物問屋『遠野屋』の主、清之介は、筆頭番頭の信三と一緒に得意先との大きな商談の帰り、昼飯を食べに『梅屋』に向かいました。
ところが、『梅屋』は暖簾を下ろし店を閉じていました。

不審に思った清之介は信三を『遠野屋』へ先に帰すと、戸を軽く叩いて声を掛けて『梅屋』に入りました。
暗い店内には、女将で伊佐治の女房おふじと嫁で若女将のおけいが寄り添うように立っていました。

「遠野屋さん、どうしてここに……」
 おふじは胸の上で手を重ねた。指先が震えている。
「仕事の帰りです。こちらで昼をいただこうと寄りました」
「では、たまたま、うちにいらしたのですか」
「そうですが。たまたまとは、どういう意味です? わたしが来る前に何かあったのですか」
 
(『乱鴉の空』 P.25より)

二人によると、小料理屋の『梅屋』の主で、“尾上町の親分”と呼ばれる岡っ引、伊佐治は大番屋に連れて行かれたと。
そして伊佐治の息子で板前の太助が八丁堀の信次郎のもとに事の顛末を伝えに行っていると言います。

信次郎のもとで十手を預かり、本所深川の半分を縄張りとする伊佐治は、咎人や咎人掛かり合いの人物を取り調べる大番屋へ、信次郎の逐電に関わって伊佐治は引っぱられたとのこと。

伊佐治は、与力の南雲新左衛門に信次郎の行方について尋問されますが、何も知らず応えることができず、逆に信次郎が逐電したことを初めて教えられました。
伊佐治は、取り調べに同席していた臨時廻り同心の平倉才之助に折檻を受けてしまいました。
平倉は、信次郎を捕まえろという命で取り調べに立ち合い、かつて信次郎の上司だった南雲をも見張っていたのでした。

清之介は、伊佐治を何としても早く取り返す策を考え、ある手を打つことに。

そんな中で、小名木川に男の死体が上がったという知らせが……。
手の甲に火傷の痕がある死体の正体は?
人斬りを平気で行い、水死事件をもみ消そうとする剣呑な平倉を使嗾し、信次郎の行方を追う命を下す上のほうとはだれなのでしょうか?

理詰めで謎を解き、真相に迫っていく信次郎を抜きに、清之介と伊佐治は殺された男の正体を突き止め、なぜ殺されたのかを解き明かすことができるのしょうか?
また、敵よりも早く信次郎を見つけ出し、彼が巻き込まれた事件に迫れるのでしょうか?

そんなとき、『遠野屋』に、清之介の故国嵯波より、まれ吉という手妻が得意な男が会いにやってきました。まれ吉は敵なのでしょうか、それとも味方?

さまざまな謎が幾重にも絡み合う展開のワクワクが止まりません。
人斬りを平気で行う、最凶の追手、平倉の存在が物語のサスペンスを高めていき、ラストシーンまで一気読みしてしまいます。
最近、紹介する機会がめっきり減っていましたが、やっぱり、「弥勒」シリーズは面白いです。

乱鴉の空

あさのあつこ
光文社
2022年8月30日初版1刷発行

装幀:多田和博+岡田ひと實(フィールドワーク)
写真:Getty Images+Aflo+ハラカズエ

●目次

一 鳶
二 雛
三 雀
四 五位鷺
五 地鳴き
六 夜鳥

本文325ページ

初出誌:「小説宝石」2021年10月号~2022年5月号掲載作品を加筆修正

■Amazon.co.jp
『乱鴉の空』(あさのあつこ・光文社)

あさのあつこ|時代小説ガイド
あさのあつこ|時代小説・作家1954年、岡山県生まれ。青山学院大学を卒業後、小学校講師を経て作家デビュー。1997年、『バッテリー』で野間児童文芸賞を受賞。1999年、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞を受賞。2005年、『バッテリー』...