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大名の国替え、旗本たちの人事異動――お殿様たちの悲喜劇

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お殿様の人事異動歴史家の安藤優一郎さんの歴史読み物、『お殿様の人事異動』(日本経済新聞出版社)を献本いただきました。

春は、卒業、入学、進級、入社、転勤、異動など、人の移動が多い時期ですね。
江戸時代は、国替えという名の大名の異動(転封)が繰り返されました。大名は幕府(将軍)からの異動命令を拒むことは許されず、当の大名は半年近くをかけて、居城と所領を引き渡すとともに、転封先の大名から城と所領を受け取りました。

お国替えという名の大名の異動が繰り返された江戸時代。御家騒動や世継断絶から、職務怠慢、色恋沙汰や酒席の狼藉まで、その理由は多岐にわたる。大名や家臣たちはその都度、多大な苦労を強いられ、費用負担などもただならぬものがあった。将軍が大名に行使した国替えという人事権、幕府要職者にまつわる人事異動の泣き笑いを通して読み解く歴史ノンフィクション。
(表紙カバー裏の内容紹介より)

本書は、将軍が大名に行使した国替えという人事権、殿様と呼ばれた大名や旗本を対象とする人事異動の泣き笑いを通して、江戸時代の知られざる一面を読み解いていきます。

国替えは改易とともに幕府の大名統制策として威力を発揮し、その権力基盤の強化に大きく貢献する。だが、これ以上に大名の力を弱める必要もなくなるほど幕府の礎が盤石なものとなると、かえって国替えの弊害が目立ってくる。(後略)

(『お殿様の人事異動』P.78より)

江戸初期の頃、徳川幕府の権力基盤を強固なものにするために外様大名の国替えや改易が盛んに行なわれました。

ところが、江戸中期・後期に入ると、転封は将軍の一門である親藩大名や、家来筋である譜代大名に限られ、豊臣秀吉の時代は同僚だった外様大名は事実上、対象外となっていました。

 火盗改は仕事柄、江戸の町ではどうしても目立つ花形の役職である。この役職を見事勤めれば、エリート街道を進むことも十分可能だった。平蔵の父も京都西町奉行に抜擢されており、平蔵が町奉行の座を射止めるのも決して絵空事ではない。江戸の町で沸き起こる町奉行待望論も、そんな空気の表れだ。平蔵もよく分かっていただろう。
 しかし、出る杭は打たれるではないが、目立ち過ぎると、その分反発を買ってしまう役職でもあった。ライバルたちの嫉妬を招くのである。そんな嫉妬や反感が、結局のところ平蔵が火盗改で終わる理由にもなる。

(『お殿様の人事異動』P.184より)

本書では、長谷川平蔵をはじめ、松平定信、水野忠邦、大岡忠相らのエピソードを紹介し、譜代大名や幕臣たちの人事異動の悲喜劇についても触れられています。

第六章では、「国替えを拒否したお殿様」では、天保十一年に川越藩松平家・庄内藩酒井家・長岡藩牧野家に対して発令された、三方領知替の顛末についても解説されています。
この三方領知替について、藤沢周平さんの『義民が駆ける』など時代小説で描かれることがあります。

国替えの命を撤回に追い込まれた幕府は、三十年も経たないうちに大政奉還という形で幕を下ろし、新政府によって徳川宗家(将軍家)は江戸城を取り上げられて、駿河・遠江国へ国替えを命じられて、力を急速に失いました。

本書は、大名・旗本たちの様々なエピソードを通して、権力の盛衰を知ることができる、歴史ノンフィクションです。

カバー写真提供:PPA/アフロ

●目次
プロローグ
第一章 国替えのはじまり~秀吉・家康からの異動命令
第二章 国替え・人事異動の法則~幼君・情実・栄典・懲罰
第三章 国替えの手続き~司令塔となった江戸藩邸
第四章 国替えの悲喜劇~引っ越し費用に苦しむ
第五章 人事異動の悲喜劇~嫉妬と誤算
第六章 国替えを拒否したお殿様~幕府の威信が揺らぐ
エピローグ 国替えを命じられた将軍様
参考文献

■Amazon.co.jp
『お殿様の人事異動』(安藤優一郎・日本経済新聞出版社)
『義民が駆ける』(藤沢周平・中公文庫)

安藤優一郎|著作ガイド
安藤優一郎|あんどうゆういちろう|歴史家 1965年、千葉県生まれ。歴史家。文学博士。 早稲田大学教育学部卒業、同大学院文学研究科博士後期課程満期退学。 主に江戸をテーマとして執筆・講演活動を展開。 ■時代小説SHOW 投稿記事 『30の神...