手習所師匠を務める若侍とその妹。日常と成長を描く青春小説

『拙者、妹がおりまして(1)』|馳月基矢|双葉文庫

拙者、妹がおりまして(1)馳月基矢(はせつきもとや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『拙者、妹がおりまして(1)』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。

著者は、2019年、小学館第1回日本おいしい小説大賞に、「ハツコイ・ウェーブ!」で最終選考に残り、2020年、時代小説『姉上は麗しの名医』でデビューしました。

定廻り同心と剣術道場の師範代がバディを組んで謎を解く捕物小説のデビュー作で、第9回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞を受賞。

第2作『帝都の用心棒 血刀数珠丸』は、大正時代を舞台に、用心棒コンビが名刀をめぐる殺人事件に挑むミステリーです。

本所に住まう御家人の白瀧勇実は、無役の小普請ながら学問に優れ、剣術にも長けた二十三歳の若侍。手習所の師匠を務め子供たちにも慕われる好青年だが、出不精でのんびり屋なのが玉にきず。一方、勇実の六つ下の妹千紘は、兄とは対照的に明るく活発で、現状に甘んじている兄が歯がゆくて仕方がない。勇実にやる気を出させるべく、叱咤するのだが――。悩み深き若者たちの日常と成長を爽やかに描く、青春時代小説シリーズ第一弾!

(『拙者、妹がおりまして(1)』カバー裏の内容紹介より)

文政四年(1821)五月の終わり。
「もうっ、兄上さま、聞いてください」と、本所相生町の矢島道場の離れにある白瀧勇実(しらたきいさみ)の手習所に、妹千紘(ちひろ)が駆け込んできました。

白瀧家は、家禄三十俵二人扶持の御家人で、勇実と千紘の父、三年前に病で亡くなった源三郎の代に小普請入りをしていました。

白瀧家の隣で剣術道場を営む矢島家とは家ぐるみの親しい付き合いで、跡取りの龍治は勇実の幼馴染みで剣友、千紘にとってはもう一人の兄のような存在です。

「目明しの親分を呼び出さなければならないほどの大事だというのか」
「そうなのです。つき屋さん、脅かされているのです。わたしがお店に入ろうとしたとき、ちょうど入れ違いになって出ていこうとする人たちがいて、捨て台詞を吐いていったんです。明日の夕方までに必ず十両用意しろって」

(『拙者、妹がおりまして(1)』P.13より)

千紘が日本橋の書物問屋にお使いで行った帰りに、夕食のお菜を買いに薬研堀の煮売屋のつき屋に寄ると、店の親父がごろつきにいちゃもんをつけられて脅されていたと、勇実に訴えました。

千紘ひとりで首を突っ込むのはまずいと言う、勇実は千紘に腕を引っ張られるようにして、龍治と三人でつき屋に行って話を聞くことにしました。

ところが、店の親父は詳しい話をせずに、三人に帰れと……。(第一話「つき屋始末」)

第二話の「恋心、川流れ」
六月半ば、千紘は、勇実を花火見物に連れ出すことに成功しました。乗り気でない勇実は、面倒くさい理屈をこねていました。

「空に咲く花と、ずいぶんと美しそうな言葉で花火を例えるものだが、もとはといえば、あれは火薬だ。木炭と硝石と硫黄を混ぜて火を点けると爆ぜる。戦の道具としえt生まれたんだぞ」
「兄上さま。戦の道具だったものが、こうして人を楽しませるものに生まれ変わったというのは、素晴らしいことではありませんか」
「納涼と言ったって、人混みの中に行くのはかえって暑いだろう。なぜこんなときに出歩くんだ。夏場は日蔭に転がって読書をするのがいちばん涼しい過ごし方だ」

(『拙者、妹がおりまして(1)』P.67より)

そんな出不精な勇実でしたが、近くの船着き場から漕ぎ出した乗り合いの猪牙舟から、川へ落ちた若い娘を助けるため、勇実は大川に飛び込みました。

助けられた娘は、自分の名前以外は一言もしゃべらないため、詳しい事情もわからず、白瀧家に連れ帰ることに……。

史学が得意で儒学にも精通している勇実の高名を聞きつけて、母親に連れられて七つの男の子が勇実の手習所に入門を願ってやってきました。(第三話「神童問答」)

勇実の教育観や手習所での教えぶり、子供たちとの交流が端正に描かれていて、好きな話の一つです。

手習所の師範として、平穏ながらも充実した日々を送る勇実のところに、尾花琢馬という勘定所の役人がやって来て、亡き父の代わりに勘定所に出仕する話をもってきました。(第四話「道を問う者」)

二十三の勇実と十七の千紘の仲の良い兄妹と、兄弟同然に育ち、千紘に密かな思いを寄せる隣家の龍治は二十一。

一作一作、違ったテーマでエンタメ時代小説を紡ぐ著者。
本書では、三人の若者たちが日々の暮らしで遭遇する出来事や騒動を描き、その中で成長していく姿を爽やかに描かれていきます。

Minoruさんの表紙装画のイメージのまま、肩の凝らない三人のやり取りに頬を緩ませ、博覧強記の勇実に知的好奇心をくすぐられ、痛快なアクションも楽しめます、新感覚の青春時代小説の始まりです。

拙者、妹がおりまして(1)

馳月基矢
双葉社 双葉文庫
2021年6月13日第1刷発行

カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:Minoru

●目次
第一話 つき屋始末
第二話 恋心、川流れ
第三話 神童問答
第四話 道を問う者

本文255ページ

文庫書き下ろし

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『拙者、妹がおりまして(1)』(馳月基矢・双葉文庫)
『姉上は麗しの名医』(馳月基矢・小学館文庫)
『帝都の用心棒 血刀数珠丸』(馳月基矢・小学館文庫)

馳月基矢|時代小説ガイド
馳月基矢|はせつきもとや|時代小説・作家 1985年、長崎県五島列島生まれ。 京都大学文学部卒、同大学院修士課程修了。 2019年、小学館第1回日本おいしい小説大賞に、「ハツコイ・ウェーブ!」(氷月あや名義)で最終選考に残る。 2...