北海道開拓に命を捧げた者たちの感動の物語、第二弾

楡の墓浮穴みみ(うきあなみみ)さんの時代小説集、『楡の墓』(双葉社)を入手しました。

本書は、明治初期の函館(箱館)を舞台にした5つの珠玉の短篇を収録した、『鳳凰の船』に続く、北海道開拓に命を捧げた者たちを描いた5編を描いた短篇集です。

明治初期の北海道サッポロ。新時代の波に呑まれ、土地を去る者。骨を埋めると決意する者。北辺に身を置く人々が選びとった道を研ぎ澄まされた筆致で照らすだす五編。
(カバー帯の内容紹介より)

表題作「楡の墓」。
幸吉は、母を亡くして父や兄たちから疎まれ折檻が激しくなった十四の春に、開墾地にあった家を出て、石狩港に向かいました。
港町では、漁場を取り仕切る商人のもとで人足仕事をやりましたが、年若なことから馬鹿にされたり、軽んじられたりすることが日常茶飯事でした。幸吉は早く一人前の男になろうと精一杯虚勢を張り、酒や女の味を覚え、博打にのめり込むという、自堕落な暮らしを送るようになりました。

「開墾場に行きゃ、いくらでも仕事があるさぁ」
 人足仲間は、まるで自身がその普請を手掛けてでもいるかのように誇らしげに語った。
「御上はよぉ、だだっ広い野っ原に、村ひとつ、一から作ろうっての。したら、家や畑ばかりではねぇ、橋やら道路やら、作らねばなねべさ。一万両の御普請さ。あそこだら、働いたら働いたぶん、余計に手当てばつくんだとよ。その上、酒代までよこすとさ」

(『楡の墓』P.13より)

魚の臭いに飽き飽きとしていた幸吉は、思い切って港町を出て、開墾場があるという、内陸の「さとほろ」を目指して、原野に足を踏み入れました。

「あんた、どこの者だね?」
 きつい眼差しだった。年増だが、きれいな女だった。蝦夷地の原野には似つかわしくないくらい、どこか粋であかぬけていた。
「イシカリから、御普請場に、仕事探しに来ただ」
「誰か知り合いはあるのかい?」
「いんや」
「まんだ、わらしこでねえの……あんた、本当に一人なの?」
 女が憐れむようにつぶやいた。

(『楡の墓』P.16より)

突然に降り出したにわか雨に駆け込んだ楡の木の下で、開墾場で働いている年上の女・美禰と出会いました。
美禰は、亭主を亡くしたばかりで、女一人で開墾もままならず、他に行き場もなくて、亭主の墓の前で思案していたところでした。

幸吉は、そのまま美禰の家で暮らすことになります。

物語には、農業用に用水路を掘って土地を開拓し、後に札幌の「開拓の祖」といわれる、二宮尊徳の弟子で、幕府の蝦夷地開拓取扱掛・大友亀太郎が幸吉に大きな影響を与える人物として登場します。

幸吉は、やがて亀太郎のもとで開拓の仕事をし、測量や算術など学問の面白さも知ります。一方で美禰への秘めた愛情を膨らませていきます。

北の大地の開拓に情熱を注ぐ者たちの思いと生き様を描く一方で、幸吉の成長と恋を描く青春時代小説となっています。

最初の一編「楡の墓」を一気読みしましたが、甘酸っぱい爽快感が残りました。そして、物語の舞台となった、北海道の歴史をもっと深掘りしたくなりました。

装画:日笠隼人
装丁:芦田慎太郎

●目次
楡の墓
雪女郎
貸し女房始末
湯壺にて
七月のトリリウム

■Amazon.co.jp
『楡の墓』(浮穴みみ・双葉社)
『鳳凰の船』(浮穴みみ・双葉文庫)

浮穴みみ|時代小説リスト
浮穴みみ|うきあなみみ|時代小説・作家 1968年、北海道生まれ。千葉大学仏文科卒業。 2008年、「寿限無 幼童手跡指南・吉井数馬」で第30回小説推理新人賞受賞、2009年、受賞作を収録した『吉井堂謎解き暦 姫の竹、月の草』でデビュ...