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「妻恋坂」から始まる江戸の女性たちの人生模様

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北原亞以子さんの『妻恋坂(つまこいざか)』を読んだ。表題作をはじめとする8編の短編で構成される時代小説短編集。西国の武家の男女の恋の行方を描き、大坂に舞台を置いた「仇討心中」を除くと、いずれも江戸で自立する女性を描いている。

妻恋坂 (文春文庫)

妻恋坂 (文春文庫)

「妻恋坂」母と一緒に暮らすお町は、番附売りの周二とずるずると付き合っていたが、周二は別れたはずの妻子とよりを戻して暮らしていた…。

 どのあたりか、もうはっきりとわからなくなっているけれど、湯島天神下に宝性院という寺があり、門前町もあったという。妻恋神社のあったところで、今も元妻恋の名が残っている。

 溜息をつきながら妻恋坂を降りてきたお町は、宝性院門前にまつわる言い伝えを思い出して足を止めた。

(「妻恋坂」P.9より)

タイトルになった坂は、会社から徒歩圏内にある。前に神田明神に行くつもりで、道を間違えて妻恋神社の横に出たことを覚えている。

妻恋坂が舞台になった時代小説では、浅黄斑さんの『』もおすすめ。

「商売大繁昌」おさよは、不忍池の中島の出合茶屋に八十吉と一緒にいるところを、旦那の五兵衛に踏み込まれて、殴る蹴るの末に捨てられた。しかし、それには裏があった…。

「道連れ」地獄と呼ばれる売笑婦のおしんの家の前で、初老の女・おすえが客引きをしていた…。北原さんの「慶次郎縁側日記」に収録された「三姉妹」を思い出した。

「金魚」別の妾が産んだ子を育てることを頼まれた妾・おなみの見せた意地とは…。

「返討」裁縫の仕事で自立した生活を送る娘・おさとには、疫病神のように、いつも金を借りに来る従姉のおひさがいた。おひさが来た後は、必ず金策に駆け回り、その末に借金を背負うことになるのだ。そして、お金への恨みから守銭奴となった男・阿弥六が見せる、一世一代の仇討ち劇。

「忍ぶ恋」二十四で後家となったおはまは、亡き夫のいとこ和兵衛と男女の仲になったが…。

「薄明り」居酒屋の女将おつやと貸本屋を商う年下の男・甚三郎と恋に落ちる。甚三郎は、潰れた文字屋芳樹堂という地本問屋(戯作類や錦絵を出版して売る店)の生まれだった…。

いずれの作品も余韻をもった結末で、しみじみと江戸の情趣に触れることができる。