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警察小説と法廷小説の面白さ両取りの新ジャンル、訟務係もの

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『県警の守護神 警務部監察課訟務係』|水村舟|小学館

県警の守護神 警務部監察課訟務係本書、『県警の守護神 警務部監察課訟務係』(小学館)は、2023年、「県警訟務係の新人」で、第2回警察小説新人賞を受賞した、水村舟(みずむらしゅう)さんの受賞作を改題、改編して単行本にまとめたものです。

訟務係とは、警察組織の中で、民事訴訟を扱う部署のこと。

バイクの自損事故現場で轢き逃げに遭った新人警察官の桐嶋千隼。病院で目を覚ますと、バイクの少年は死亡していた上、桐嶋はその責任を巡る訴訟を起こされてしまった。途方に暮れる桐嶋を訪れたのは、「県警の守護神」と呼ばれる弁護士資格を持つ異例の警察官・荒城。真実よりも勝利を求める強引なやり方に反発しつつも、訴訟に巻き込まれていく桐嶋だが、調査を進めるうち、訴訟は同日に起きた女性警察官発砲事案にも繋がっていき――。

(『県警の守護神 警務部監察課訟務係』(小学館)カバー帯の紹介文より)

新人警察官の桐嶋千隼(きりしまちはや)は、二十六歳だが、研修を終えて数か月の新人。R県警のH署地域課に配属され、今は乙戸交番に勤務しています。

千隼は、両親がともに警察官で子供の頃から警察官になるのが夢で、高3のときに警察官採用試験を受けましたが、学科で不合格となり、一度は諦めました。自転車競技で国体優勝するほどの実力者だったので、19歳で競輪選手となると年間賞金女王を獲得し、オリンピックのケイリン競技では銅メダルを獲るほど活躍していました。
猛勉強して警察官採用試験に合格すると、プロの競輪選手を電撃引退して、警察官になった異色の経歴をもっていました。

その夜、隣接する交番がバイク数台で暴走行為を繰り返す不良を取り締まる中で、女性の悲鳴が聞こえたとの通報が入り、出動指令がありました。千隼は定年間際の牧島巡査部長とペアを組んでパトカーで現場に向かいました。

パトカーの行く手を遮るように蛇行運転を始めたオートバイの少年が、牧島の運転するパトカーにあおられて自損事故を起こしてしまいます。
路上にオートバイが転がっていて、二車線道路の右側、パトカーの数メートル先に、人影がうずくまっていました。

 千隼は、パトカーを降りようとしてシートベルトを外した。
 しかし、ドアハンドに手をかけたところで、牧島に腕を掴まれた。
「待て」
「早くあの人を救護しないと」
「相手は族車だろう。乗っていたのも不良っぽいガキだ」
「それがどうしたというのんですか」
 
(『県警の守護神 警務部監察課訟務係』 P.30より)

交通事故扱いになることを恐れて、車内に引き戻そうとする牧島を振り切って、少年の救護をする千隼。
ところが、何かが高速で接近してくる気配があり、ヘッドライトで目が眩むと……。

重傷を負い病院で意識を戻した千隼。ネットでニュース記事を検索して、少年が死亡したことを知りました。
そして、予想外のニュースも。

『十二月二十五日午前三時頃、万波町のマンションで、男が元交際相手の女性を刃物で切り付けようとしたところ、駆けつけた警察官が拳銃一発を発砲し、右手に全治二週間の怪我を負わせた。
 男はその場で殺人未遂の疑いで現行犯逮捕された。
 H署の野上副署長は、拳銃の使用は適正だったとの見解を示している』
 
(『県警の守護神 警務部監察課訟務係』 P.37より)

あのとき向かっていた現場には、同僚の国田リオが駆けつけて、拳銃を発砲したようで、その動画まで残っていて、ネットに拡散されていました。
千隼は、自分のせいだと激しい自責の念に駆られます。

ところが、その千隼は、死亡した少年の遺族側の弁護士・丸山京子によって民事訴訟を起こされてしまいます。
「現場にいた警官が適切に行動していれば、少年が落命することはなかった。すなわち、事故の原因には、逃走した後続車のみならず、警官の過失も影響している」と。

本書の魅力の一つは、体育会系熱血女子の千隼のキャラクター造形にあります。警察官としては落ちこぼれで、考える前に行動するというタイプ。単純な正義感から導かれた言動にハラハラドキドキさせられます。理論重視の法廷で、ミスマッチとも思えるその存在は、時には訴訟に大きな不利をもたらし、時には思いがけない真実を引き出すところがあります。

もう一人の主要人物は、元裁判官で、今は県警の訟務担当警察官で、外部の弁護士を使わずに、担当する訴訟で無敗を誇ることから、『県警の守護神』と呼ばれている荒城です。勝つためには手段を選ばす、うそやでっち上げも厭わない、荒城は、「警察は訴訟で負けてはならない。ひとりの警察官を護るのと同時に、警察組織を、ひいては国民を護っている」という強い信念を持っていました。

何もかも対照的で相容れるところがない二人が、バディを組んで民事訴訟に臨みます。
本書は、警察小説の中に、民事訴訟による法廷劇を入れた面白さがあります。
荒城と千隼vs.丸山京子の法廷でのバトルと、徐々に明らかになっていく意外な真実と事件の裏側が面白く、リーダビリティがあるストーリーに引きこまれます。
続編が読みたい、警察小説が誕生しました。

県警の守護神 警務部監察課訟務係

水村舟
小学館
2024年1月27日初版第1刷発行

装丁:大原由衣
写真:Westend61 pixbook/E+ getty images

目次
プロローグ
第一部 H署地域課
第二部 本部監察課訟務係
エピローグ

第二回 警察小説新人賞選評
今野敏 相場英雄 月村了衛 長岡弘樹 東山彰良

本文350ページ

第2回警察小説新人賞受賞作「県警訟務係の新人」を改題、改編した作品。

■今回取り上げた本


水村舟|作品ガイド
水村舟|みずむらしゅう|ミステリー作家 2023年、「県警訟務係の新人」で第2回警察小説新人賞受賞し、改題した『県警の守護神 警務部監察課訟務係』でデビュー。 時代小説SHOW 投稿記事 →水村舟の本(Amazonより) ⇒時代小説作家リス...