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不景気を吹き飛ばせ! 長屋の店子で老中の隠密が大仕掛け

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『大江戸秘密指令2 景気回復大作戦』|伊丹完|二見時代小説文庫

大江戸秘密指令2 景気回復大作戦伊丹完(いたみかん)さんの文庫書き下ろし時代小説、『大江戸秘密指令2 景気回復大作戦』(二見時代小説文庫)を紹介します。

老中の元家臣たちが長屋の大家と店子に身分を変えて隠密となって、江戸の悪を痛快に懲らしめる「大江戸秘密指令」シリーズの第2作です。

日本橋田所町の裏長屋は、世間の長屋とは反対に、毎月晦日になると大家が店子に手当を支払う。実は大家をはじめ店子全員、老中松平若狭介の元家臣で、悪を懲らしめる隠密だった。不景気風が吹き荒れる江戸で、親切な質屋として町中の皆に頼られる津ノ国屋。一方でクジが当たると大金が入る「講」もやっていたのだが、これがいかがわしく、隠密たちの出番となって……。

(『大江戸秘密指令2 景気回復大作戦』カバー裏の説明文より)

今年二十歳になる久助は、神田の生まれで大工のせがれでしたが、小柄であまり丈夫なほうでなかったので、小さいうちから手習いに通わせてもらい、十三のときに師匠の紹介で通旅籠町の地本問屋の井筒屋の小僧になりました。

二年前に母を病気て亡くし、それからひと月もしないうちに父は普請の最中、高所から足を滑らせて落下し打ちどころが悪くて死んでしまいました。
ほかに兄弟や身内もなく、そのときから天涯孤独の身になりました。

そんな久助は、七月の下旬、井筒屋の主人の作左衛門に呼び出されて、田所町の小さな絵草子屋の番頭をしてほしいと命じられました。
亀屋は、井筒屋が建てた十軒長屋の脇にあり、商売経験のない主人は長屋の大家もつとていましたが、そのときはまだ主人になる人物を選考中でした。
久助は店を切り盛りするかたわら、その主人の面倒をみるのが仕事だとも。

「間もなく長屋に移られる店子の方々、みな羽州小栗藩松平若狭介様のご家中だ」
 話が奇妙な方向に向かう。
「え、いったい、それはどういう」
「店子九人のうち、五人の方々は職人や小商人で町人、その他、ひとりは浪人、もうひとりは武士とも町人ともつかぬ易者、女の方おふたりで産婆と女髪結、だが、みなみな元はお屋敷勤めのお武家のご身分だ」

(『大江戸秘密指令2 景気回復大作戦』P.15より)

ややこしい話ながら、田所町の長屋に店子として入る九人は、皆、老中松平若狭介の家臣。隠密として働くために、名前や商売を変えて、半年かけて町人になる修練をしたと聞きます。
八月に入るとすぐに九人の店子が長屋に入居し、久助は長屋の世話に明け暮れました。

八月中旬、隠密の頭目で、長屋の店子を差配する大家をつとめ、脇の絵草子屋の主人になる権田又十郎が通旅籠町の井筒屋にやってきました。
権田又十郎は、元江戸詰めの勘定方をつとめ隠居を許された後、箱根に当時に出向く途中、山中で不慮の死を遂げたことにされ、殿から頂戴した勘兵衛の名で生まれ変わり、長屋の大家で亀屋の主人をつとめることに。

 平安に見えて、今の世はたしかに乱れているようだ。町の治安を守るべき町奉行所はさほど力を発揮せず、江戸の民は困窮している。
 だが、山城屋の一件以来、この半月、隠密を動かすことはなかった。日々の案件にはこれといった事件性はなく、世間を騒がせる盗賊一味の悪事や凶悪殺人のような大事件もない。
 春斎が上目遣いで言う。
「わたくしごときが申し上げるのも畏れ多いことでござりまするが、巷の景気の悪さ、お上の力でなんとかなりませんかなあ」

(『大江戸秘密指令2 景気回復大作戦』P.45より)

松平若狭守は、隠密たちの働きで、大奥御用達の仏具商山城屋の事件(第1巻で描かれる)を解決しましたが、それからしばらく大きな悪事がなかなかなく、江戸城で茶坊主で情報通の春斎に話を聞きました。

不正をただし、悪人を懲らしめれば、真面目に働く民の暮らしが良くなると思い、隠密長屋に手練れの配下を潜ませている若狭介ですが、江戸の不景気は何者かの悪事のせいというよりも、政がしっかりしていなからではないかと思い始めていました……。

今回は、若狭介からの指令ではなく、暇で手持無沙汰の隠密たちが市井で拾ってきた悪事の種を追及します。
勘兵衛の指示で、賭場を開く傍ら、お上の御用もつとめている花川戸の富蔵親分の羽振りがいい話と、不景気の中で、神田鍋町の老舗で繁盛していた下り酒問屋の相模屋が突然潰れた話を、それぞれ調べることになりました……。

映画やサスペンス小説などでおなじみのコンゲーム(コンフィデンスゲーム。標的とする人物を信用させて働く詐欺のこと。 詐欺や騙し合いをテーマにした痛快な犯罪ミステリー)が描かれています。
不景気を痛快なコンゲームで吹っ飛ばしてくれる時代小説です。

大江戸秘密指令2 景気回復大作戦

伊丹完
二見書房 二見時代小説文庫
2023年7月25日初版発行

カバーイラスト:安里英晴
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)

●目次
第一章 江戸の不景気
第二章 招福講
第三章 質屋の正体
第四章 景気回復

本文293ページ

書き下ろし。

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『大江戸秘密指令2 景気回復大作戦』(伊丹完・二見時代小説文庫)

伊丹完|時代小説ガイド
伊丹完|いたみかん|時代小説・作家映画マニアとして知られ、落語やミステリにも造詣が深い。執筆の合間に、試写室めぐり、映画祭審査委員、江戸講座講師、寄席での対談をこなす。時代小説SHOW 投稿記事→伊丹完の本(Amazonより)⇒時代小説作家...