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織田の逮捕で夏希が奔走していた頃、上杉は北アルプスにいた

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『脳科学捜査官 真田夏希 アナザーサイドストーリー』|鳴神響一|角川文庫

脳科学捜査官 真田夏希 アナザーサイドストーリー鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし警察小説、『脳科学捜査官 真田夏希 アナザーサイドストーリー』(角川文庫)を紹介します。

時代小説の名手でありながら、次々と現代ミステリーである人気警察小説を発表する著者。時代小説と現代ミステリーは親和性があるのか、多くの作家が両ジャンルの小説を手掛けています。

本書は、警察庁サイバー特別捜査隊に所属する脳科学捜査官の真田夏希が、クラッキングなどのサイバーテロ犯罪と戦う、警察小説シリーズの第18作です。

これまで(2巻から17巻まで)色の名前を入れてきましたが、今回は色名が外れて、代わりに「アナザーサイドストーリー」と付けられています。

サイバー特捜隊長の織田の逮捕で真田夏希が奔走していた頃、根岸分室の上杉輝久もまた、1人の女性を救うため、北アルプスを歩き回っていた。上杉がかつて愛した五条香里奈の妹、紗里奈が、県警へ辞表を出して行方をくらました。独自の見解を持ち、優秀な鑑識課員だった紗里奈は、同僚たちから妬まれていたのだ。黒部川源流で彼女を見つけた上杉は、彼女を自分の部下にすることを決意する。新たな展開を迎える書き下ろし警察小説。

(本書カバー裏紹介より)

六月下旬、上杉は北アルプスの最奥部を歩いていました。

 ――北アルプスの奥に行ってこれから先のことを考えてみます。

 五条紗里奈が上杉に残した最後のメッセージだった。
 この言葉だけを頼りに、北アルプスの山をさまよい歩いていた。
 上杉は神奈川県警刑事部の根岸分室長である。
 
(『脳科学捜査官 真田夏希 アナザーサイドストーリー』P.6より)

紗里奈は、上杉がこの世でただ一人愛した女性、五条香里奈の年の離れた妹で、小学生のころからよく知っていました。子どもの頃の紗里奈は上杉を「テル兄」と呼んでよくなついていました。

しかし、香里奈が世を去ってから12年の間、紗里奈とは会うことがなく、次に会ったのは今年の2月で、驚いたことに紗里奈は警察官に任官していて、神奈川県警本部の機動鑑識第一係に所属する巡査となっていました。

警察官としてのキャリアを歩み始めた紗里奈にとって、刑事部内の嫌われ者である自分と親しいことはマイナスの影響を及ぼすと考えて、あまり接触しないように距離を取りつつ、紗里奈を見守っていた上杉でした。

ところが、鑑識課員として1年間勤め続けた紗里奈は先月末に上司に辞表を郵便で送ってきて、そのまま行方がわからなくなったのです。
それと同時に、たった一行だけのメッセージが上杉のスマホに送られてきました。

上杉は黒部川源流地帯で、オコジョに話かけている紗里奈を見つけました。「紗里奈に警察に戻ってほしくてな」と話しかけますが、ほかの者がもっていないユニークなセンスを持っていた紗里奈は、同僚の鑑識課員から意地悪やいじめに遭っていて、自分には合わない職場だから戻りたくないと。

紗里奈は現場で独自の発見をして自説を主張することが多く、彼女の見解と提言で捜査の方向性が変り、犯人逮捕につながった事例も数件ありました。優秀な鑑識課員だと評する者もいる一方で、他の者には耳を貸さずに自説を主張する紗里奈は、同僚たちからは妬まれていたのでした。

大雨が続いたことで、山荘に1週間滞在することになった上杉と紗里奈。
下界に降りた時に、「連絡してほしい」との真田夏希からのショートメールに気づきました。しかし、北アルプスをさまよっていた頃、10日も前のメールでした。

上杉は、紗里奈を根岸分室で引き取って育てることを決意して、紗里奈にアパートが見つかるまで根岸分室に寝泊まりすることを提案し、辞表を撤回して機動鑑識第一係から根岸分室へ異動するように言い切りました。

そして、上杉の根岸分室に新しい仲間が加わりました。

7月の最後の月曜の午前11時前、上杉と紗里奈は横浜市金沢区のシティホテルのエントランスにいました。30分ほど前に、このホテルの一室で男女の遺体が発見されたという事件発生の一報が入り、上杉は紗里奈の初陣のつもりで現場に足を運んだのでした。

女性の遺書が残されていたことから、単純な心中と思われ、捜査本部は立たないと思われた事件。ところが、同じホテルで同じ日に殺人死体が見つかったことから、謎が深まっていきます。

事件現場で、誰も気づかなかった事実に目を向けて、大胆な仮説を展開する紗里奈の挙動に惹き付けられました。犯人との心理的な駆け引きとアクションが楽しめる、真田夏希シリーズに、紗里奈が加わったことで科学的な推理の面白さが楽しめました。今回は、紗里奈を娘のように思い、根岸分室所属となった紗里奈の初めての捜査をサポートする上杉が主人公。まさにアナザーサイドストーリーといった様相の本書で、魅力が一層増したシリーズの今後の展開が楽しみです。

また、紗里奈も無類の動物好きで、警察犬のアリシアともすぐに仲良くなり、夏希にとっても大切な仲間になりました。

脳科学捜査官 真田夏希 アナザーサイドストーリー

鳴神響一
KADOKAWA 角川文庫
2023年8月25日初版発行

カバー写真・デザイン:舘山一大

●目次
第一章 捜索
第二章 実習
第三章 真相
第四章 試練

本文287ページ

文庫書き下ろし

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『脳科学捜査官 真田夏希』(鳴神響一・角川文庫)(第1弾)
『脳科学捜査官 真田夏希 エキセントリック・ヴァーミリオン』(鳴神響一・角川文庫)(第17弾)
『脳科学捜査官 真田夏希 アナザーサイドストーリー』(鳴神響一・角川文庫)(第18弾)

鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■時代小説SHO...