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ねこざむらいの恋と愛猫との終活を描く、猫時代小説第3弾

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『福猫屋 お佐和のねこわずらい』|三國青葉|講談社文庫

福猫屋 お佐和のねこわずらい三國青葉(みくにあおば)さんの文庫書き下ろし時代小説、『福猫屋 お佐和のねこわずらい』(講談社文庫)をご紹介します。

夫を亡くした寡婦のお佐和が始めた福猫屋(猫専門のペットショップ)、生き物の猫に関わる商いだけに、日々苦労が絶えませんが、一方でその成長を一緒に見守っていく楽しみも。笑いあり涙ありの人情シリーズ第3弾です。

福猫屋で言い争うのは常連客の武家・権兵衛と、花津という女子、猫好きが高じたらしい。二人をいい雰囲気にしてお佐和が仲裁するも、花津が店を去ってから、権兵衛が彼女の素性を訊いていないことがわかる。再会するには福猫屋で待つしかない。だが、花津はなかなか現れず……。大人気書下ろし時代小説!

(『福猫屋 お佐和のねこわずらい』カバー裏の説明文より)

お佐和は、猫の里親を訪ねた帰路、草むらで灰色のかたまりを見つけました。近づいてみると、一尺ほどの長さの獣の毛皮の切れ端のようで、泥にまみれ、木の葉や草がいっぱいにつっつきぼろぼろな生き物でした。噛まれたら大変と走って逃げようとした瞬間、〈にゃーん〉と泣き声がしました。

「えっ、猫なの?」
 お佐和はしゃがみ込んだ。毛皮がお佐和のひざ頭突きをする。ごろごろとのどを鳴らす音が聞こえた。
 やっぱり猫だ。お佐和は猫を抱き上げようとした。
<にゃーう!〉
 毛におおわれて表情が見えないが、さわられるのが嫌いなのだろうか。お佐和は右手の人差し指を猫の鼻先にもっていってみた。

(『福猫屋 お佐和のねこわずらい』P.8より)

お佐和が拾ってきた猫が巻き起こす騒動を描いた「第一話 ねこちがい」の巻。

表題作になっている「第二話 ねこわずらい」では、福猫屋の常連、武家の権兵衛の初恋を描いています。

「この香箱座りの三毛猫は、首のかしげ具合が絶妙なのです」
「はい、おっしゃる通りです。それに、この背の丸みがなんとも言えません」
「そうなのです! そして、このちょこんとのぞいた尻尾の愛らしいことと言ったら……」
「胸がきゅんといたします。ですから、私はぜひこれを贖いたいと思うて」
「それは俺も同じにて。それに、猫をつかんだのは俺のほうが先でした」
「何をおっしゃるのです。私のほうが先です」

(『福猫屋 お佐和のねこわずらい』P.73より)

権兵衛は、二十歳過ぎの美人の武家の女子と、つるし飾り用の縮緬細工の三毛猫をつかんでいいあらそっていました。どうやら二人ともその三毛猫を買いたいらしいのでした。

権兵衛は、福猫屋で知り合ったその武家の女子、花津と猫好き同士の話を楽しみましたが、素性も聞かず、次に会う約束もしていません。再会するには福猫屋で待つしかありません。待ち続けるうちに、花津への思いが募る権兵衛。二人の恋の行方は、猫が握っていました。

本書では、権兵衛だけでなく、お佐和の甥で、錺職見習いの亮太の恋も描かれていて、こちらも胸キュンさせられます。

「第三話 ねこしまい」
冬に逆戻りしたかのような冷え込みのきつい朝、福猫屋を小柄でやせた老人が訪れました。首に細い縄をつけた大きな茶トラの猫・三吉を抱いて。
老人は米沢町に住む庄造で、魚の棒手振をしていたが、年老いて体がきつくなって辞めたと言います。

「ここに一分あります。これで、この三吉を引き取ってもらいてえんです」 お佐和は驚いて言葉に詰まった。
「子猫は一匹五十文で引き取ってもらえると聞きました。三吉はこのとおりおとなでず体もでかい。だから一分出します。どうか引き取ってやってください。お願いいたします」

(『福猫屋 お佐和のねこわずらい』P.160より)

大人の猫は引き取ったことがなく、戸惑うお佐和は、庄造に詳しい事情を尋ねました。

体が衰えてしまい、いつぽっくり逝くかわからない、自分が死んでしまうと三吉はひとりぼっちになってしまい、三吉の行く末を考えると心配で夜も眠れないと。

老後のペットの終活問題を描いています。
今も頭を悩ます難しい問題ですが、どのように解決していくのでしょうか。

本書では、かわいい猫たちといっしょに、猫を愛する人々の不安や喜びが描かれています。猫好きならずとも、読むと、心がじんわりと温かくなります。

福猫屋 お佐和のねこわずらい

三國青葉
講談社 講談社文庫
2023年4月15日第1刷発行

カバー装画:東久世
カバーデザイン:鈴木久美

●目次
第一話 ねこちがい
第二話 ねこわずらい
第三話 ねこしまつ

本文219ページ

書き下ろし。

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『福猫屋 お佐和のねこだすけ』(三國青葉・講談社文庫)(第1弾)
『福猫屋 お佐和のねこかし』(三國青葉・講談社文庫)(第2弾)
『福猫屋 お佐和のねこわずらい』(三國青葉・講談社文庫)(第3弾)

三國青葉|時代小説ガイド
三國青葉|みくにあおば|時代小説・作家 神戸市出身。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。 2012年、「朝の容花(かおばな)」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題しデビュー。 ■時代小説SH...