『誓いの簪』|天羽恵|徳間書店
大藪春彦新人賞受賞者、天羽恵(あまう・めぐみ)さんのデビュー第2作、『誓いの簪(かんざし)』(徳間書店)を紹介します。
作者について
天羽恵さんは、2022年に「日盛りの蝉」で第6回大藪春彦新人賞を受賞し、2023年には『もゆる椿』でデビューされました。『もゆる椿』は、第13回日本歴史時代作家協会賞新人賞の候補作にも選ばれました。 本作『誓いの簪』は、それに続くデビュー第2作です。
なお、「日盛りの蝉」は、現在Kindle版で購入可能です。遊女と仇討ちの侍が仮初めの夫婦となり、敵と対峙する顛末を描いた短編です。

あらすじ
命を狙われ、遠く江戸まで逃れてきたおりんは、錺職人を目指すお園が暮らす長屋で新たな生活を始めます。世話好きで情に厚いお園は、おりんをまるで家族のように大切にしてくれました。束の間の平穏な日々に心を癒されていたおりんですが、ある日、お園が何者かに矢で狙われたことで、その暮らしは一変します。
「もう二度と、自分のせいで人が死ぬところを見たくない」。
そう誓ったおりんは、隣人である浪人・佐伯とともに、お園を守ろうと心に決めます。
しかし、西国からは追っ手がおりんに忍び寄っていることに、まだ誰も気づいていません――。(『誓いの簪』カバー帯の内容紹介より抜粋・編集)
ここに注目!
デビュー作『もゆる椿』の主人公・美津に続き、本作の主人公も少女です。十四歳のおりんは命を狙われ、西国から遠く離れた江戸へと一人逃れてきました。やがて深川佐賀町の長屋で暮らし始めます。
隣室に住む錺職人を目指すお園は、世話好きで情が深く、おりんを実の家族のように迎え入れます。また、逆隣に住む武士・佐伯とも夕食を共にするなど、三人は心温まる共同生活を送っていました。
しかし、ある日の午後、何者かが道で突如お園を矢で狙ったことで、その穏やかな日々は崩れてしまいます。
「あたしはもう二度と、あたしのせいで人が死ぬところを見たくないんです」
過酷な運命を背負いながらも、大切な人を守りたいと願うおりんはある「誓い」を立てます。一方のお園も、危険を恐れて逃げるのではなく、錺職としての仕事に命を懸ける決意を固めます。
お園との出会いによって本当の愛情に触れたおりんは、孤独だった自らの過去と向き合い、心の傷を癒やしていこうとします。なぜおりんは江戸へ逃れてきたのか。彼女が選んだ仕事とは何か。そして、世間知らずな可憐さと芯の強さをあわせ持つおりんの姿が、読者の心を惹きつけます。
切なくも温かい人間模様と、胸に迫るクライマックスまで、物語の世界に引き込まれ、一気に読み終えてしまう――そんな魅力にあふれた一冊です。
書籍情報誓いの簪
天羽恵
徳間書店
2025年7月16日 第1版第1刷
装画:YUE
装幀:大原由衣
目次
なし
本文306ページ
書き下ろし
■今回紹介した本
