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年季明け目前の遊女が巻き込まれた泥棒騒ぎ、注目の奉行所小説

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『北の御番所 反骨日録【九】 廓証文』|芝村凉也|双葉文庫

北の御番所 反骨日録【九】 廓証文
芝村凉也(しばむらりょうや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『北の御番所 反骨日録【九】 廓証文(くるわしょうもん)』(双葉文庫)は、北町奉行所の用部屋手附同心の裄沢広二郎(ゆきざわこうじろう)を主人公に据えたシリーズ第9弾です。

捕物小説は時代小説を代表するジャンルの一つで、これまで多くの作家により、いろいろなパターンの小説が描き尽くされた感がありました。

ところが、第1巻『春の雪』から始まるこのシリーズは、現代ミステリーで警察官を主人公に警察署を主要な仕事場とした「警察小説」が一大ジャンルになったように、捕物劇を描くにあたって、奉行所内外の出来事や人間関係をリアルに描くことから始まり、その組織の中で捜査官たる同心たちがどのように動くかに注目した「奉行所小説」となっています。そこには、読み度に発見があり、読まずにはいられない面白さがあります。

裄沢は、内勤の用部屋手附同心ながら、論理的な思考から導かれる推理で、事件の真相に迫り、いくつかの事件を解決してきました。自白による吟味が中心で、閉鎖的な奉行所では、悪目立ちする存在であり、時には上司である与力や同僚の同心たちから忌み嫌われたりもします。

これまでもはぐれ者、一匹狼の時代ヒーローはいましたが、目の前で起こった不条理が見逃せず、自分のスタイルを貫くことで周囲からはやさぐれと思われる、裄沢のような主人公には出会ったことがなく、新鮮なキャラクターに心惹かれます。

捕り違えに端を発し欠員が生じた廻り方の穴を埋めるため、隠密廻りを拝命した裄沢広二郎は、吉原面番所で立ち番に就く日々を送っていた。ひょんなことから年季明けを目前に控えた遊女・狭衣と言葉を交わすようになった裄沢h、吉原を出たら幼馴染みと所帯を持つと語る狭衣の明るい気性を好もしく思っていた。そんな折、半籬の遊女屋で土牢茫騒ぎが出来する。泥棒はすぐに捕まったものの、被害に遭った遊女屋が狭衣のいる梶木屋だと知り、裄沢は妙な胸騒ぎを覚える――。書き下ろし痛快時代小説、人気シリーズ第九弾。

(『北の御番所 反骨日録【九】 廓証文』カバー裏の紹介文より)

つい先日まで用部屋手附同心だった裄沢は、前作で描かれた捕り違え(誤認逮捕)で奉行所を追われた同心の欠員を埋めるため、隠密廻り同心を拝命しました。
隠密廻りは、いざ内密の探索の下命があったとき、正体がバレないように変装して探索を行う捜査官ですが、下命がなく、北町奉行所が月番のときには、吉原の面番所に詰めることがの主な役目でした。

裄沢は先達の隠密廻り・鳴海文平から隠密廻りの心得や吉原の決まり事をいろいろ教わります。

「判ったって言いながら、どうもあんまり得心してねえ様子だねえ」
「そういうわけでもないのですが……俺が何らまともな仕事もせずにブラブラしてる間、定町廻りや臨時廻りの皆さんは、汗水垂らして懸命に市中見回りをしているのかと思うと」
「何となく、後ろめてえ気持ちになるってかい」
 
(『北の御番所 反骨日録【九】 廓証文』 P.25より)

鳴海は、「そんな気持ちはバッサリ捨てちまいな」とはっきり断言します。何の準備も予備知識もないままこのお役に就かされた裄沢に対して、一から仕事を教え込もうとしていました。

裄沢は非番の日に、浪人者を装って吉原の中を歩いている時、たまたま、妓楼梶木屋の二分女郎(揚代が二分の高級女郎)の狭衣(さごろも)と知り合いになりました。
狭衣は来年二十八になり、年季明けが間近だと言います。うれし気に年季が明けたら、幼馴染みと一緒になるとも話してくれました。

長月なると、裄沢は、吉原の妓楼で枕探し(宿で相部屋になった客が深夜熟睡している隙を狙って金品を盗み取る泥棒のこと)が出たという話を聞きました。

賊が出たのが狭衣のいる梶木屋で、枕探しがあったのは「見世持ち」と呼ばれる花魁の下の階層の遊女が使う廻し部屋だと聞き、二分女郎である狭衣と直接のかかわりがあるとは考えづらいのですが、何か嫌な予感がしました……。

本書には、表題作の「廓証文」のほか、市中を彷徨い歩いていた裄沢が、不忍池の周辺にある出会い茶屋から出てきた若い男女とその後を尾ける御用聞きかその子分ふうの中年男を見かけたことから始まる「隠密探索ことはじめ」の話、さらに火付盗賊改め方から北町奉行所に入れられた抗議をめぐる顛末話の三話が収録されています。

やさぐれの隠密廻り同心が吉原にもたらしたものとは?
「廓証文」では、読んでいて感動し、不覚にもウルッと来てしまいました。

本シリーズが痛快でありながらジーンと胸に迫るのは、群を抜く洞察力と切れ味鋭い推理ばかりでなく、人に優しくて情に厚く、信念をもって正義を貫くために反骨も厭わない、裄沢の厄介な性格に依っているように思います。
奉行所内にもそんな裄沢を認める人の輪が少しずつ広がり、内勤から外回りに役目が代わり、役目上捕物を扱うことも増え、ますます活躍が楽しみなり、第10弾の発売が待ち遠しくてなりません。

北の御番所 反骨日録【九】 廓証文

芝村凉也
双葉社・双葉文庫
2023年12月16日第1刷発行

カバーデザイン・イラスト:遠藤拓人

●目次
第一話 隠密探索ことはじめ
第二話 廓証文
第三話 御馬先召捕り一件

本文320ページ

文庫書き下ろし。

■今回取り上げた本



芝村凉也|時代小説ガイド
芝村凉也|しばむらりょうや|時代小説・作家 1961年宮城県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。 2011年、「返り忠兵衛 江戸見聞」シリーズにてデビュー。 時代小説SHOW 投稿記事 『迷い熊帰る 長屋道場騒動記(一)』|心優しき巨躯の剣...