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ラクダにワニにオランウータン、江戸は異国の動物で大騒ぎ

『大江戸あにまる』|山本幸久|集英社文庫

大江戸あにまる山本幸久さんの長編時代小説、『大江戸あにまる』(集英社文庫)を紹介します。

著者は、2003年に『笑う招き猫』で第16回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。2018年に『店長がいっぱい』で第11回エキナカ書店大賞を受賞しています。

同賞は、エキナカ(駅中)にある、JR系の書店BOOK EXPRESS、ブックスキヨスクなどが主催し、参加書店員によって推薦されたおすすめの本の中から大賞を選ぶといった賞のようです。山本さんが受賞された第11回は「仕事」がテーマでした。

本書は、「小説すばる」に2009年12月号から2011年11月号に、断続的に連載された、著者初の時代小説です。単行本化されておらず、集英社文庫オリジナルとなります。
連載から10年以上経過しての文庫化は、読者としてもうれしいことです。

石樽藩の江戸留守居役の下で働く幸之進は、お人好しで失敗ばかり。おまけに剣術も苦手だ。ある日、草花や獣に目がない乾福助という変わり者が国許からやってくる。同じ頃、異国の動物達――ラクダにワニにオランウータン(!?)が江戸を賑わす事件が勃発、侍らしからぬ二人が巻き込まれてしまう。男勝りの藩主の妻・小桜まで登場し、ますます大騒ぎに! 笑いと涙と動物がいっぱいの傑作時代小説。

(カバー帯の説明文より)

文政七年(1824)の夏。
江戸の両国広小路で駱駝(らくだ)の興行がはじまり、連日大盛況で江戸中駱駝の話題で持ちきりの中、石樽藩当主綾部智成の次男で十二歳の喜平丸とお伽役の木暮幸之進も駱駝見物にやってきました。

それから九年が過ぎました。
喜平丸は、兄が早世し父も急逝したことから十六歳にして家督を継ぎ、名を智親と改めていました。
幸之進は二十五歳になり、江戸留守居役手添仮取次御徒士頭見習という木暮家代々の役職についていました。

江戸留守居役が国許から上申書を江戸城へ持っていく際、過去に似た案件がないかを上屋敷の書庫で捜しだすのが主な仕事で、家禄は十五人扶持という下級藩士です。

ひと月前に、国許から十五歳の乾福助が本草学を学ぶために江戸へ出てきて、幸之進は、富山藩の先々代当主の次男、前田利保が主宰する物産会合に参加する福助の面倒をみることになりました。

物産会合では、珍しい獣や鳥に草花、虫などを持ちより、身分を越えて、質疑を交わしたり、本物そっくりに写生をしたり、膝を突き合わせて延々と話し合う場です。

「そう言えば今年の春にも、両国に駱駝がきておりましたな」旗本のひとりが言った。「聞くところによれば、牝が尾張で亡くなり、牡の一頭だけだったそうだが」
 そうなのだ。駱駝が江戸に戻ってきたのである。じつに九年振りだ。幸之進は見にいこうかと心動かされたが、気づけば興行はおわっていた。一頭だけだからか、昔ほど当たらなかったのだ。

(『大江戸あにまる』P.22より)

物産会合の帰り、幸之進と福助は、怪我をしたクニサダ村のチュウジロウと名乗る若い男を助けて、江戸の外れ、渋谷にある石樽藩の下屋敷に連れて帰りました……。

「ここは世界に向けて日本という国を知らしめる、最初の台場なんだ。おめえたちは、この日の本が世界に門戸を開くための砲台を造っているんだ。誇りに思え。おめえたちが、力を尽くしている仕事は、これからの日の本のためになるんだ。未来を拓くのさ。そういう仕事をしているんだよ」
 日の本のための仕事。おれは――。誇っていいのか。胸を張っていいのか。

(『大江戸あにまる』P.41より)

本書では、駱駝に始まり、日不見(ひみず。モグラ科の哺乳類)、豆鹿(まめじか)、伽藍鳥(がらんちょう。ペリカンのこと)、羊、狼、豚、山鮫(やまざめ。ワニのこと)、猩々(オランウータン)など、江戸では珍しい生き物が続々と登場します。

 まあいつもの悪い癖がでてきたな。
 困っている者がいると、手助けをしてやりたくなる。それ自体、悪くはない。むしろ長所だ。ところが手助けするにしても、幸之進自身の力不足でしくじることが多い。

(『大江戸あにまる』P.45より)

幸之進は、草双紙や読み本の主人公のように、摩訶不思議な妖術など使えるはずもなく、剣術はからきし駄目と来ています。泳げないのに、溺れた犬を救おうと川に飛びこんで自分が溺れかけたり、酔っ払い同士の喧嘩の仲裁に入れが、どちらからも殴られたりしました。反省はしますが、なのに毎回、今度はできるはずだと思ってしまいます。

侍らしかぬ侍コンビ幸之進、福助、そして、藩主の智親の奥方様の小桜が、動物に絡んだ騒動に遭遇し、じたばたしながらも動物たちを助けます。
愛らしい動物たちに向ける、眼差しが優しくて心がほっこりさせられます。

若き日の国定忠治や、鳥居忠輝(耀蔵)、勝麟太郎(勝海舟)、島津又三郎(後の島津斉彬)ら幕末のヒーローたちが動物たちを巡る騒動に関わっていく物語も、ユーモアたっぷりで感動があって大いに楽しめます。

最近、犬や猫、小鳥など可愛い生き物が登場する動物時代小説が刊行されて、人気を集めています。本書はそんな中でおすすめしたい一冊です。

大江戸あにまる

山本幸久
集英社・集英社文庫
2022年9月25日第1刷

カバーデザイン:高橋健二(テラエンジン)
イラストレーション:ももろ

●目次
其之壱 駱駝
其之弐 豆鹿
其之参 羊
其之肆 山鮫
其之伍 猩々
其之陸 駱駝ふたたび
解説 北大路公子

本文316ページ

「小説すばる」2009年12月号、2010年3、6、9、12月号、2011年3、6、11月号に連載されたものを大幅に改稿したオリジナル文庫。

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『大江戸あにまる』(山本幸久・集英社文庫)

山本幸久|時代小説ガイド
山本幸久|やまもとゆきひさ|小説家 1966年、東京都生まれ。 2003年、『笑う招き猫』で第16回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。 2018年、『店長がいっぱい』で第11回エキナカ書店大賞を受賞。 時代小説SHOW 投稿記...