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お宝を巡る大捕物!「拙妹」ファミリーは、箱根温泉旅行へ

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『拙者、妹がおりまして(7)』|馳月基矢|双葉文庫

拙者、妹がおりまして(7)馳月基矢(はせつきもとや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『拙者、妹がおりまして(7)』(双葉文庫)を紹介します。

本所相生町に住む御家人白瀧勇実と、妹千紘、白瀧家の屋敷の隣にある剣術道場の師範代で跡取り息子の矢島龍治。三人の若者の日常の出来事を描く青春時代小説の第7弾です。

矢島与一郎の昔馴染みである佐伯欣十郎の剣術道場を訪問するため、矢島道場・師範代の龍治や門下生、さらに勇実や千紘、菊香らが加わって、相模国・箱根に行くことに。交流試合だけでなく、参詣や温泉も楽しむ物見遊山の旅だ。
しかし、いま箱根には“関八州を荒らし回る盗賊がお宝を狙って潜んでいる”という噂が聞こえてきた。なんでも怪盗・鼠小僧も流れてきているらしい。次々と不穏な出来事が起こり、ついには皆を巻き込んでの大捕物に発展!、力を結集させて美事果たした勧善懲悪、痛快極まる第七弾。

(『拙者、妹がおりまして(7)』カバー裏の内容紹介より)

文政六年(1823)の四月の終わり。
白瀧家の屋敷に、勘定所に勤めている勇実の友人、尾花琢馬が一枚の読売を持ってやってきました。
読売には、某藩の上屋敷に盗人が忍び込み、小粒銀をごっそりと持ち去った上に、盗んだ証として、下屋敷で賭場が開かれている旨を告発する文が残されていたと。

 亀岡菊香が千紘と共に、茶と蒸したての饅頭を盆に載せて、座敷にやって来た。小首をかしげて勇実に言う。
「鼠小僧、と聞こえた気がしましたが」
 勇実は読売を畳の上に置いた。
「そうなんですよ。琢馬さんが持ってきた読売に、鼠小僧のことが書かれていて」
「えっ、読売に? 江戸の?」
「どういうことですか?」

(『拙者、妹がおりまして(7)』P.13より)

千紘と菊香はおやつの支度もそこそこに、読売をのぞき込み、読売の文言を拾い読みしました。
盗みのついでに、藩が隠してきた悪行を暴き立てた手口は、箱根であったことと同じようだと、勇実と千紘と菊香は読売を読んで納得しました。

三人は、矢島道場の与一郎先生が、昔馴染みで箱根に剣術道場を開くかたわら用心棒稼業をしている佐伯欣十郎先生に武者修行の誘いを受けて、与一郎のほか、「拙妹」ファミリーの師範代の龍治、勇実、千紘に菊香を加えた総勢十人で箱根行きを決めました。

「初めはただ、向こうの道場の師範代や門下生たちと一緒に汗を流し、手合わせをして、温泉につかったり箱根権現にお参りに行ったりしよう、というだけの話だったんですがね」
 勇実は苦笑した。
 顔を見合わせる千紘と菊香も、困ったような笑みを浮かべている。
 
(『拙者、妹がおりまして(7)』P.18より)

琢馬は、箱根でどんな捕物に出くわしたのか、初めからおしまいまで、じっくりと話を聞きたいと請い、勇実が箱根での武勇伝を語り始めます……。

前作の第6巻で、登場人物たちの恋模様を描き、シリーズに新風を取り入れましたが、今回は一転、痛快な勧善懲悪が楽しめる、文庫書き下ろし時代小説の王道で行きます。

箱根では、地元で悪い噂のある欣十郎に、湯治に来ている根付や煙管を扱う商人卯兵衛、色っぽい温泉宿の女主人おたよ、神出鬼没で身軽なみやげ物売りの次郎吉、ひと癖もふた癖ある者たちが一行を待ち構えていました。
琢馬のかつての恋人で、女形役者を辞めて生家の旅籠を手伝っている燕助も登場します。

箱根のお宝を巡って、上方から関八州に逃れてきた盗人に人さらい、ならず者、そして鼠小僧までもが大集結。

箱根というと、『曽我物語』の重要な舞台で、弟の五郎は一時箱根権現に預けられて仏道修行に励んでいました。また、兄弟の墓があることでも知られていますが、物語の中にも取り入れられて、旅情をかき立ててくれます。

拙者、妹がおりまして(7)

馳月基矢
双葉社 双葉文庫
2022年10月16日第1刷発行

カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:Minoru

●目次
第一話 湯けむりの罠
第二話 憧れの君
第三話 心配
第四話 その夜の決戦と鼠小僧

本文245ページ

文庫書き下ろし

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『拙者、妹がおりまして(1)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(6)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(7)』(馳月基矢・双葉文庫)

馳月基矢|時代小説ガイド
馳月基矢|はせつきもとや|時代小説・作家 1985年、長崎県五島列島生まれ。 京都大学文学部卒、同大学院修士課程修了。 2019年、小学館第1回日本おいしい小説大賞に、「ハツコイ・ウェーブ!」(氷月あや名義)で最終選考に残る。 2020年、...