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どっこい、生きていた茂兵衛。家康の側近・馬廻役に抜擢!?

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『三河雑兵心得(十) 馬廻役仁義』|井原忠政|双葉文庫

三河雑兵心得(十) 馬廻役仁義井原忠政(いはらただまさ)さんの文庫書き下ろし戦国小説、『三河雑兵心得(十) 馬廻役仁義』(双葉文庫)を紹介します。

東三河の百姓出身の若者茂兵衛が徳川の足軽となって、戦を通じて出世を重ねていく「三河雑兵心得」シリーズは、遂に10巻目に到達しました。

大敗した真田との戦で殿軍を務め、単騎で敵に突っ込み、戦場に消えた茂兵衛。「茂兵衛、討死」の報せは徳川に衝撃を与え、朋輩たちは涙に暮れる。だが、ところがどっこい、茂兵衛は生きていた! 戸石城の土牢に囚われながら、じっと救出の時を待つ。一方、家康と秀吉の駆け引きは変わらず続いていた。しきりに秋波を送る秀吉を家康はのらりくらりと躱すばかり。そんな中、徳川の屋台骨を揺るがす大事件が出来する。戦国足軽出世物語、堅忍不抜の第10弾!

(『三河雑兵心得(十) 馬廻役仁義』カバー裏の内容紹介より)

天正十三年(1585)閏八月二日。
真田昌幸との第一次上田合戦で、鉄砲隊の大将の植田茂兵衛は、部下の花井庄右衛門を助けるために、単騎で敵の大軍に突っ込んでいき、戦場に消えました。「茂兵衛、討死」の報せは、その三日後には、徳川の隠密・乙部八兵衛の耳にも届きました。

朋輩であり、茂兵衛の想い人綾女のこともよく知る乙部は、茂兵衛の妹婿・木戸辰蔵に最期の様子を聞くことに。

「おまん、茂兵衛の最期を見たのか?」
「はい。果敢に敵の大将に迫りましたが、最後は馬も槍もなくし、素手で……素手で掴みかかって……」
 声を詰まらせ、百戦錬磨の鉄砲隊寄騎が鼻と口を手で覆った。
「首級を獲られるのを見たか?」
「……首級って」
 辰蔵は、しばらく乙部の顔を涙目で睨んでいたが、やがて口を開いた。
「首級を獲られるところまでは見ておりません。しかし、百人の敵に囲まれ、最後に打ち倒されたのは事実でございます」

(『三河雑兵心得(十) 馬廻役仁義』P.14より)

茂兵衛の討死で、上役の大久保忠世は、早速、大久保家の郎党を鉄砲大将の後釜に据えました。
茂兵衛の死からひと月近くが経ち、茂兵衛の留守屋敷を訪れた乙部が見たものは、未だに夫の死を受け入れられず号泣するばかりの妻寿美と幼い娘綾乃の母娘。
植田家の跡継ぎ問題も出来しました。

「殿……殿ッ」
「あ? え?」
 富士之介の声で、我に返った。郎党が促す先を見れば、来客のようだ。格子柵の向こうに、懐かしい顔があった。
「茂兵衛殿、お加減は如何ですか?」
 真田安房守昌幸の嫡男、真田源三郎信之である。

(『三河雑兵心得(十) 馬廻役仁義』P.25より)

茂兵衛は、源三郎の計らいで、源三郎が城番をつとめる戸石城の土牢に囚われていました。脇腹に銃弾を受けた鉄砲隊寄騎の花井、最後まで主人に付き従った三人の従者、清水富士之介、依田伍助、仁吉の計五人で、十畳間ほどの牢内に閉じ込められていました。

源三郎は、茂兵衛に天が与えてくれた休息と思い、骨休みなさいと声を掛けられます。

真田相手に手酷くやられた徳川軍。一方で、家康と秀吉の駆け引きは変わらず続く中で、徳川家を揺るがす大事件が起きます……。

本書のタイトルについている「馬廻役」とは、騎馬の武士で、大将の馬の廻りに付き添って護衛や伝令として用いられたお役目の一つ。平時には大名の護衛や事務の取次ぎなど側近として吏僚的な職務を果たすこともありました。武芸に秀でたエリート集団で、親衛隊的な存在でもありました。

百姓出身で足軽から異例の出世をした茂兵衛には、縁遠いお役目です。

華々しくて臨場感あふれる合戦シーンばかりでなく、兵たちの平時の姿もユーモアを交えて活き活きと描かれています。
その一方で、老獪な秀吉と渡り合う家康や個性豊かな徳川家臣団も描かれていて、戦国の世が目の前に広がっていく感じがします。

第10巻を読み終えて、このシリーズがますます好きになりました。

三河雑兵心得(十) 馬廻役仁義

井原忠政
双葉社 双葉文庫
2022年11月13日第1刷発行

カバーデザイン:高柳雅人
カバーイラストレーション:井筒啓之

●目次
序章 残された人々
第一章 俘虜記
第二章 茂兵衛の居場所
第三章 黄瀬川の宴
第四章 家康、秀吉に会う
終章 大改革

本文282ページ

文庫書き下ろし

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『三河雑兵心得(一) 足軽仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第1作)
『三河雑兵心得(九) 上田合戦仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第9作)
『三河雑兵心得(十) 馬廻役仁義』(井原忠政・双葉文庫)(第10作)

井原忠政|時代小説ガイド
井原忠政|いはらただまさ(経塚丸雄)|時代小説・作家 神奈川県出身、神奈川県鎌倉市在住。会社勤務を経て文筆業に入る。 2016年、経塚丸雄のペンネームで『旗本金融道(一) 銭が情けの新次郎』で時代小説デビュー。 2017年、同作で、第6回歴...