鎌倉幕府を倒し、室町幕府を作った、足利尊氏と直義の愛憎劇

『足利兄弟』

足利兄弟岡田秀文さんの長編歴史時代小説、『足利兄弟』(双葉文庫)を入手しました。

コロナ禍の影響で、NHKテレビで、かつて放映された大河ドラマの名場面集の放送が始まりました。「麒麟がくるまでお待ちください 戦国大河ドラマ名場面スペシャル」ということで、「国盗り物語」「利家とまつ 加賀百万石物語」といった、戦国時代を舞台にした大河ドラマが今後、放送されます。

鎌倉時代末期から南北朝時代を描いた、1991年の大河ドラマ「太平記」の名場面集が見てみたいなあと思いました。
大河ドラマらしい、豪華なキャスティングの中で、真田広之さんと高嶋政伸さんが足利兄弟を演じ、その愛憎劇が今もインパクト強く印象に残っています。

鎌倉末期から南北朝の激動の時代を描く、足利尊氏と直義の物語は、歴史時代小説の題材となることは多くありません。
後醍醐天皇の建武政権に離反して、武家政権である室町幕府を開いたことで、明治維新後に、その功績の評価を貶められたことが一因のように思われます。

室町幕府を興した足利尊氏。類い希なるカリスマ性で歴史を動かした男には絶大な信頼を寄せる弟がいた。兄弟は幼少の頃から宿願である「源氏再興」のため、命を賭けた戦いに挑み、激闘の末、ついに天下を平らげ室町幕府を開いたが……。一心同体とも言える絆深き兄弟はやがて権力という名の悪魔によって争い合う皮肉な運命を辿ることになる。足利尊氏とは一体何者だったのか。英雄の実態と歴史の残酷さに迫る大河小説。

(カバー裏面の説明文より)

本書は、執権北条守時の妹・登子が、兄から清和源氏の足利氏の御曹司・高氏(後の尊氏)と縁談を告げられるシーンから始まります。

その頃、北条一族は得宗(二代執権北条義時の嫡流の家系をいう)を頂点とし、幕府の要職や各国守護などに北条家とその被官があまた名を連ね、諸国に太く広く枝を伸ばし、繁栄を謳歌していました。

登子の赤橋流は、執権を輩出する、北条一門の中でも名流とされていました。
源氏の最も有力な一族と見なされている足利氏との縁組は、北条家との固い紐帯により、全国の所領を維持し、政事を進めていくうえで必要なものでした。

「たしかに北条、足利両家は親しい。しかし、政事とは一筋縄ではいかぬものだ。考えてもみよ。過去には同じ北条家同士、また北条家とその家臣である御内人が熾烈な争いをした歴史もある。いかに親しい仲とはいえ、足利家は清和源氏の末のうち、もっとも隆盛を誇る家。何かの風向きで足利家が、北条家と並び立とう、いや、北条家を打倒し、みずからが天下に覇をとなようなどと考える日が来るかもしれぬ」
「では、もし、兄様」登子はじっと守時の目を見すえて尋ねた。「足利に不穏な動きがあって、それをわらわが兄様にお報せしたらいかがなります」
「報せが早く、ことが未然に防げれば、高氏どのには隠居してもらうことになろう。高氏どのの跡をつぐのは登子、そなたの子じゃ」
 
(『足利兄弟』P.14より)

守時は、足利家に嫁入りする登子の下人として、自身が使っていた美貌の女忍び・さきを付けました。足利家で不穏の兆しをを見たなら、ただちに火急の報せを届ける役割を与えました。

(さすがは父上)
 とあらためて見直したくなる。やはり、貞氏は北条の血を受けながらも、清和源氏の誇りを忘れていなかった。
 北条家の威勢に膝を屈指ながらも、機が熟せば、
(天下のために立たん)
 との炎を心に点しつづけてきたのだ。
 その貞氏が、今みずからの心中を明かし、忍びの者を高国へ引き継いだ。これは――、
(われら兄弟へ)
 力を合わせて北条氏を倒せとの暗示と受け取っていいだろう。

(『足利兄弟』P.60より)

一方、高氏と高国(後の直義)兄弟の父、貞氏は、病の床にありながら、さきが守時が送り込んだ忍びであることをいち早く気づき、高国に、高氏には漏らさずに、さきをうまく使いこなすように、心中を明かしました。

当時、元寇とその後遺症による御家人や豪族の疲弊。病弱の北条高時と内管領の長崎高資による悪政により、北条政権が大きく揺らいでいました。

本書では、足利尊氏の妻・登子と、弟・直義の視点から、源氏の棟梁ともいうべき、足利尊氏(高氏)の実像、足利兄弟の愛憎劇に迫ります。

足利兄弟

岡田秀文
双葉社 双葉文庫
2020年4月19日初版第1刷発行
単行本『足利兄弟』(2016年11月、双葉社刊)を文庫化にあたり加筆・修正したもの

カバーデザイン:坂野公一(welle design)

●目次
第一章 兄弟の夢
第二章 兄弟の絆
第三章 兄弟の決別

本文355ページ

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『足利兄弟』(岡田秀文・双葉文庫)

岡田秀文|時代小説ガイド
岡田秀文|おかだひでふみ|時代小説・作家 1963年、東京生まれ。明治大学卒業。 1999年、『見知らぬ侍』で第21回小説推理新人賞受賞。 2002年、『太閤暗殺』で第5回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞。 ■時代小説SHOW...