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叛逆のカリスマと神謀の軍師。血沸き肉躍る琉球建国の物語

『琉球建国記』|矢野隆|集英社文庫

琉球建国記矢野隆(やのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『琉球建国記』(集英社文庫)を紹介します。

1972年5月15日、沖縄の施政権は、アメリカ合衆国から日本に変換されました。2022年は、沖縄の本土復帰50周年の節目の年です。
沖縄の歴史に注目が集まる中、15世紀の琉球王国(沖縄)の建国の物語を描いた作品が本書です。

15世紀、琉球王国。勝連半島の無頼漢の赤や氷角たちと役人の加那は、立場を超えて仲間となり、民衆に悪政を強いる勝連城主を倒した。新たな按司となった阿麻和利(加那)は、活発な交易で繁栄をもたらす。一方、王位を巡る内乱を経て国王となった尚泰久と側近の金丸は、彼らの活躍に脅威を感じ、失脚させるための計略をめぐらす。琉球王朝の興亡を再構築し、それぞれの熱い生きざまを描く長編。
(本書カバーの紹介文より)

勝連を治める按司の茂知附の使いで役人の加那は、屋慶名を基盤に勝連半島中に顔が利く赤を訪れた。挑発の言葉を吐いた赤の仲間たちの一人を斬り、喧嘩で武闘派揃いの赤や氷角らに認められました。

「俺は按司の使いとしてここにいる。お前を勝連城へ連れてゆくのが俺の務めだ。それを果たさねば、俺は城に戻れぬ。それだけのことだ」
「それがお前の覚悟か」
 加那は力強くうなずく。
 氷角は胸の鼓動が激しくなっているのを感じていた。
 いった何者なのだこの男は・
 目頭に熱を感じながら、己が心に問うた。もちろん答えは返ってこない。もし答えがあるのなら、それは目の前の加那のこれからの行動にある。

(『琉球建国記』 P.15より)

赤の使いとして氷角が加那とともに勝連城に赴き、茂知附に面会しましたが、赤は勝連城への出仕を拒み、代わりに加那と仲間になりました。

同じころ、琉球を統一した中山王・尚巴志の五男、尚泰久は越来城の城主でしたが、首里の王は彼の兄で尚巴志王の次男尚金福でした。
金福王は重病で、金福の息子の志魯と兄で尚巴志の四男の布里が跡目を争っていました。長男は金福の前の王で、すでに他界していました。

「奴らがおる限り、儂に運が巡ってくることなどありはせぬ」強欲な泰久は王に成り立っていました。
欲望をあらわにする泰久を、側近の金丸は操っていきます。

やがて、尚金福死すの報せがもたらされ、志魯と布里が争いが起こり、布里に追い詰められた志魯は自害し、布里も金丸が派遣した刺客の鬼大城によって殺されました。
漁夫の利で、尚泰久は王となりました。

一方、勝連城では、茂知附が漁師の女房を横恋慕した末に夫婦ともども斬殺し、悪政の限りを尽くしていました。

 内間の老漁師はうつむいて涙をふいた。加那が腹から声を吐く。
「こんな世は変えねばならぬ」
「あの男が按司でいることがこの勝連にどれだけの不幸を生んでいるか。手下たちに半島中を回られせて、これはという者に声をかけて、お前の力になってくれるように頼んだことで、俺は奴の悪行を嫌というほど思い知らされた。勝連の民は、救いを待っている」
 二人の間に割って入るようにして口を開いた赤の瞳に、光る物が滲んでいる。

(『琉球建国記』 P.133より)

赤と仲間たちばかりか、内間の漁師たちからも推された加那は、茂知附を殺して、代わりに新しい按司となりました。

阿麻和利と呼ばれる加那のもとで交易が盛んになり、繁栄をもたらされた勝連に、琉球王国統一を目指す尚泰久王の側近・金丸の魔の手が伸びます。

創成期の琉球王国を舞台に繰り広げられる、熱い男たちのバトルに、魂が震える歴史活劇エンターテインメントです。
チンピラのような無頼の若者が、やがてひとかどの武将に成長していくのが爽快です。

尚泰久はもちろん、金丸も阿麻和利(加那)も、実在の人物で、史実を背景にしながらも、想像力豊かに、男たちのロマンを綴り、歴史をつくる女の働きが描かれてゆきます。
これまで、まったく知らなかった琉球(沖縄)の建国の歴史に感動を覚えました。

本書が単行本ではなく、より入手しやすい文庫書き下ろしで刊行されたことは画期的なことで、かつ時宜を得たことと思われます。

琉球建国記

矢野隆
集英社・集英社文庫
2022年4月30日第1刷

カバーデザイン:目崎羽衣(テラエンジン)
イラストレーション:ケッソクヒデキ

●目次
第一章 石塊
第二章 按司
第三章 動乱
解説 澤田瞳子

本文419ページ

文庫書き下ろし。

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『琉球建国記』(矢野隆・集英社文庫)

矢野隆|時代小説ガイド
矢野隆|やのたかし|時代小説・作家 1976年、福岡県生まれ。 2008年、『蛇衆』で第21回小説すばる新人賞を受賞。 ■時代小説SHOW 投稿記事 鬼神の如く戦う、平将門を描く歴史...