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イヴに起こった、観覧車ジャック。仲山は娘を救出できるのか

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『再愛なる聖槍』|由野寿和|幻冬舎

『再愛なる聖槍)』由野寿和(ゆうやとしお)さんの現代ミステリー『再愛なる聖槍(さいあいなるせいそう)』をご恵贈いただきました。

元警察官の主人公仲山秀夫が、娘と遊園地で楽しんでいるときに、観覧車ジャックに巻き込まれます。この事件の捜査の指揮を執るのが、仲山と旧知の仲の警視庁捜査一課の刑事貝崎。前代未聞の事件で、囚われた人質を救出し、犯人を追う警察ミステリーです。

著者は90年福岡県生まれで、高校を卒業後に単身渡米した、ということ以外、プロフィールは明らかにされていません。

妻との離婚以来5年ぶりに会った愛娘とともに、テーマパーク・ドリームランドを訪れた元刑事の仲山。楽しい時間は束の間、2人が観覧車に乗った直後、何者かによって観覧車が乗っ取られ、人質となってしまう。
「小人」を名乗るジャック犯に連絡役として指名された仲山と娘・凛の運命やいかに。
そして、地上で事件解決の指揮を執っている貝崎は、5年前のクリスマスイヴに起こった
未解決事件に関して互いの秘密を握り合う因縁の相手で――。

絡み合う二つの事件とそれぞれの思惑。
ドリームランドを象徴する巨大観覧車に隠された衝撃の真相とは。

(『再愛なる聖槍』カバー帯の紹介文より)

鳴神響一さんの警察小説を除くと、現代ミステリーを読むことが少なくて、作品を純粋に楽しめるか不安を抱きつつ読み始めました。
しかも、初めての作家さんで、どんなストーリー展開になるのか先が全く読めずに、ドキドキのスリリングな体験をしました。

ところが、冒頭の仲山の描写で、そのキャラクターに共感を覚えました。
続く巨大観覧車「ドリームアイ」の停止、そしてゴンドラの落下、観覧車ジャックへと、最初の十数ページで前代未聞の事件に目が釘付けになり、たちまち、物語の世界に取り込まれてしまいました。

クリスマスイヴの一日。久しぶりの愛娘とのデートに心躍る父親。
緻密な計画を立てて、事前に下見をし、30分前には現地に着いている、「30分行動」をする仲山の心配性ぶりに親近感を覚えました。

 凜は両頬に息を溜めてむすっとしながら、風船の紐を引っ張った。つられて黄色い楕円が空中で揺れる。
「どうした、凛?」
 仲山は足を止めてしゃがみ、凛の顔をじっと見た。凛は手を握りしめてから大きな声を発する。
「だって、ずっと、計画、計画ってうるさいんだもん! さっき会ってからその紙と腕の時計ばっかり見てる。凜のこと見てないし、凜の話聞いてない」
 その瞬間、思わず仲山は息を飲んだ。全く同じことをいつも惟子に言われていたのを思い出したからだ。こんな小さな娘にさえそう思わせたのか。それを思うと胸が苦しくなった。
 
(『再愛なる聖槍』P.20より)

計画を書いたメモを手に時計を気にする仲山に対して、久しぶりに会った小学三年生の娘凛から、別れた妻の惟子に言われていた言葉が出てきました。
リアルな家族の描写から、仲山の人間像がにじみ出てきて、惹きつけられました。

そして、「ドリームアイ」を停止させて、乗客たちを人質にした犯人からゴンドラ内にアナウンスがあり、仲山を連絡係に指名して、次々と指示が……。

「小人」を名乗る犯人は、なぜ、観覧車ジャックを行ったのでしょうか。
ハイジャックやバスジャックなど、乗客を人質にとり、乗り物を乗っ取るジャックでは、通常犯人の望む行先を目指します。
ところが、どこにも行くことができない観覧車をジャックするのに、どんな意味があるのでしょうか?

犯人は、日付が変わる深夜12時までに目的を遂げたいようですが、仲山にはその目的と狙いが全くつかめません。

また、観覧車に乗り合わせた乗客たちは、無作為に選ばれたのでしょうか。
それとも、何かしらの意図をもって「小人」に選ばれたのでしょうか。

事件は思いもよらぬ形で、5年前に起きた未解決のある事件にリンクしていました。
それは、仲山が警察を辞め、仲山の夫婦生活を終わらせるきっかけになる衝撃の事件でした。

「小人」の正体は一体誰なのでしょうか?
謎が深まる中、警察学校の同期で、途中から別々の道を歩むこととなった元同僚の貝崎が捜査の指揮を執ることに。
仲山と貝崎の対峙から目が離せません。

キリストがゴルゴダの丘で磔にされた後、死んだか確かめるために持っていた槍でキリストの脇腹を刺したと言います。その鑓は神の血に触れた聖遺物として讃えられ、『聖槍(せいそう)』と呼ばれました。

警察ミステリーの門外漢である私ですが、ジェットコースターに乗ったようなスリリングな展開で、結末まで一気読みしました。

クリスマスイヴの一日を描いた衝撃のミステリーに心が震えながらも、読了後には氷が溶けていくように、心がポカリと温かくなっていきました。
今日もまた、面白い本を読ませていただきました。

『再愛なる聖槍』

由野寿和
発行:幻冬舎メディアコンサルティング
発売:幻冬舎
2022年12月7日 第1刷発行

装丁:田口美希

●目次
プロローグ
一 クリスマスイヴ
二 ドリームアイ乗車
三 ドリームアイ停止
四 警察到着
五 ドリームランド内社員食堂
六 ドリームアイ・ゴンドラ内
七 ニュース放映
八 『小人』の要求
九 同期の正体
十 仲山の提案

以下、省略

本文351ページ

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『再愛なる聖槍』(由野寿和・幻冬舎)

由野寿和|作品ガイド
由野寿和|ゆうやとしお|ミステリー作家 1990年福岡県生まれ。 時代小説SHOW 投稿記事 →由野寿和の本(Amazonより) ⇒時代小説作家リストへ戻る