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脱藩した弟のため、閻羅遮と呼ばれる用心棒の兄が闇を斬る

『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』|筑前助広|アルファポリス文庫

谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末筑前助広(ちくぜんすけひろ)さんの時代小説、『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』をご恵贈いただきました。

著者は、本作で第6回アルファポリス歴史・時代小説大賞特別賞を受賞し、2022年2月に出版デビューを果たしました。

福岡県福岡市在住で、藤沢周平さんや池波正太郎さんに憧れ、葉室麟さんを師と慕い、愛する時代小説に情熱を注がれているとのことで、期待の新人です。

江戸は谷中で用心棒稼業を営み、「閻羅遮(えんらしゃ)」と畏れられる男、萩尾大楽(はぎおだいがく)。
家督を譲った男が脱藩したことを報された彼は、裏の事情を探り始める。
そこで見えてきたのは、御禁制品である阿芙蓉(アヘン)の密輸を巡り、江戸と九州の故郷に黒い繋がりがあること。大楽は弟を守るべく、強大な敵に立ち向かっていく――。
閻魔の行く手すら遮る男が、権謀術数渦巻く闇を往く!

(本書カバー裏の内容紹介より)

時代は田沼意次が幕政の中心にいた頃(十年前に目黒行人坂の大火があったと文中に記されていましたので、天明二年(1882)か)。

萩尾大楽は、江戸の三富に数えられ富くじの日に賑わう谷中感応寺の裏に裏手で、萩尾道場という町道場を構えています。ただの町道場ではなく、腕の確かな門人を用心棒として派遣することを稼業としていました。

感応寺(後に天王寺)の門前町である、谷中界隈の店の用心棒をつとめ、谷中で非違を犯せば、たとえ相手が閻魔であっても逆らって行く手を遮るという意味で、閻羅遮と恐れられ、かつ町の平安を守る者として慕われてもいました。

ある日、大楽は、羽州久保田藩から仕事の名目で浅草今戸町の料理茶屋に呼び出されました。
ところが、料理茶屋の奥の離れで待ち構えていたのは、斯摩(しま)藩江戸家老の権藤と名乗る男で、斯摩藩は、十三年前に棄てた故郷の藩でした。

「国元で無茶をしたそうでして、脱藩したのですよ。なんでも藩内の膿を出そうと動かれたようですが、それが何とも性急なものでして」
「昔から生真面目で融通の利かない男だった」
 
(『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』P.19より)

権藤は、大楽の実弟萩尾主計が何かを持ち出して脱藩し江戸に向かっていると伝え、主計が助けを求めてきても断り、何かを渡したらそれを自分に届けてくれと、見返りと脅しを交えて依頼しました。

十三年前に大楽は、愛する許婚縫子を捨て、家督を弟主計に譲り、一人の男を斬って藩を出奔しました。その後縫子は主計と結ばれました。

斯摩藩では、大楽が出奔する前も今も、首席家老の宍戸川多聞が強大な権力をもち藩政を牛耳っていいました。宍戸川の派閥と思われる権藤の依頼から、主計の苦境を知り、大きな陰謀と闘争の渦に巻き込まれていきます……。

一方で、江戸に阿芙蓉が出回り、谷中のやくざの親分の息子吉蔵も手を出していました。大楽は、阿芙蓉が谷中へ流入することは何とか阻止したいと考えて、流入路を探り始めました……。

権藤に呼びだされた日以来、大楽の身の回りが妙に騒がしくなってきて、江戸の裏を仕切る首領の手先と思われる破落戸や斯摩藩の徒目付など、謎の男たちも絡んできました。

故郷の斯摩藩では今何が起こっているのか?
弟は何を持ち出して脱藩したのか、そして、その行方は?
大楽は、脱藩し追手に追われる弟と再会できるのか?
江戸で広まっている阿芙蓉は、誰が持ち込んでいるのか?

訳あって脱藩し、江戸で浪人として活躍するというのは、時代小説の黄金パターンの一つですが、主人公の大楽の萩尾家は、藩主家の一門筆頭で、藩内で八千石を領し、その血脈には小笠原忠真を通じて神君家康の血が入っているという設定がユニークです。

貴種でありながら、正義感が強くて心優しい大楽は、弟と再会し、窮地を救えるのか、物語の前半の「江戸編」では、「閻羅遮」ぶりを余すところなく発揮します。

「博多か」
「へぇ、斯摩のお隣ですねぇ」
 かつて博多は黒田家が治めていたが、二代藩主・黒田忠之の頃、重臣の一人が、主君が謀叛を画策していると幕府に上訴。それにより改易され、今は博多を中心にした福岡の一帯は、幕府直轄地となっていた。

(『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』P.67より)

本書の魅力の一つは、斯摩藩という架空の藩がネーミングも含めて実によく考えられて設定されている点にもあります。
黒田騒動によって黒田家が改易された(もちろん実際には改易されていないが)という設定で、斯摩藩は、博多の西隣、早良郡の室見川以西と志摩郡、そして怡土郡の一部を領し、表高十万石、天領となった博多の面倒を、博多御番と称して肩代わりしていると、文中で紹介されていました。

リアリティと想像力を掻き立てられながら物語に没入しました。著者が福岡在住ということもあって、とくに後半の「玄界灘編」は現地感があり、臨場感あふれる海洋シーンにも目を奪われました。

個性的で魅力あふれる主人公萩尾大楽が江戸と筑前国斯摩で縦横無尽に活躍し、二冊分の時代小説の面白さが一冊に詰まっていて大いに楽しみました。

谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末

筑前助広
アルファポリス アルファポリス文庫
2022年2月5日初版発行

装丁イラスト:松山ゆう
装丁デザイン:AFTERGLOW

目次
序章 その男、萩尾大楽
江戸編
 第一章 敵は十万石
 第二章 裏の首領
 第三章 同盟者
 第四章 兄弟
玄界灘編
 第五章 帰郷の秋
 第六章 君に恋ひぬ日はなし
 第七章 欲望の海
終章 友よ、さらば

本文452ページ

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『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』(筑前助広・アルファポリス文庫)

筑前助広|時代小説ガイド
筑前助広|ちくぜんすけひろ|時代小説・作家 福岡県福岡市在住。 2020年、「それは、欲望という名の海」で第6回アルファポリス歴史・時代小説大賞特別賞を受賞し、2022年『谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末』で出版デビュー。 ...