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恋した人は、父を斬った男。新感覚の江戸恋愛ファンタジー

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『鶴を斬った男』|鴉澄ねね|つむぎ書房

鶴を斬った男鴉澄ねね(あすみねね)さんの時代小説、『鶴を斬った男』(つむぎ書房)を紹介します。

プロフィールによると、著者は2021年に小説家の若桜木虔(わかさきけん)氏の小説講座で学び、時代小説の執筆を勧められ、本書がその第1作です。

鶴の血肉、腐らない北斎の遺体、死体を好む絵師。
三題噺のようなキャッチフレーズにそそられる、江戸×恋愛×ホラーの新感覚時代小説です。

天保十年。糸という少女は母と二人で雪山の麓で暮らしていた。
ある日の夜、糸は大蛇に左手の薬指を噛み千切られて目を覚ます。母は糸をかばって大蛇に怪我を負わされた。
命からがら母は江戸に向かうとある屋敷の前に糸を置いていく。
糸は屋敷の主人であった浮世絵師の葛飾北斎に拾われ、娘として育てられた。
十年後。糸は美しい女となり、北斎と二人で平和に暮らしていた。
しかし再び、母の敵である黒い着物の男に化けた大蛇が家に現れる。
大蛇は北斎を殺害すると糸の前から消えた。
糸は絶望し、江戸を徘徊する。
神社で惨めな姿を子供たちに虐められていた糸は、宮木という武士の男に助けてもらう。
宮木に不思議な想いを抱きながら、糸は茶店に辿り着く。
そこで渓斎残菊と名乗る絵師と出会った。大蛇の相談をすると残菊の友人の上田宮木という男を紹介される。
宮木は江戸で〝鶴斬りの宮木〟と呼ばれている男だった──。
糸と宮木は一緒に暮らしているうちに互いに好意を抱き始める。
だが、再び糸の前に大蛇の男が現れる。大蛇は自身を黒鉄(くろがね)と名乗ると糸に告げた。
〝糸は宮木が斬った鶴の──〟であると。

(『鶴を斬った男』Amazonの内容紹介より)

天保十年(1838)、糸は、生まれた時から父がおらず、母と二人で雪山の麓で暮らしていました。
ある夜、糸は蛇に左手の薬指を噛まれて目を覚まします。子供の糸の体を覆い尽くすほどの大きな黒い蛇は、糸の指を食いちぎっただけではなく、糸を守ろうとした母の背中に食らいつきました。

絵師の葛飾北斎の屋敷の前に、糸を連れて行くと母は姿を消してしまいました。
屋敷には北斎の娘、栄と何人もの男の絵師が住んでいて、皆絵を描いていました。
指が欠けたばかりの糸は、絵の手伝いなどできるわけがありません。

「どうした、お糸、またお栄に怒られたのか」
「おじいさま……もういやだ、こんな生活。お母さまに会いたい、会いたいよ」
「ううん、困った、お前の母さんはな……」
 北斎は糸の頭を撫でる。糸は北斎のカサカサしている指先が好きだった。
「これを見ぃ」
 と北斎は一枚の紙を差し出した。糸が受け取って、ゆっくりと広げてみると紙には絵が描かれていた。白い山に五羽の鳥がいる。空には二羽、羽搏いている。
 
(『鶴を斬った男』P.11より)

葛飾北斎 「富嶽三十六景 相州梅沢庄」北斎は、『相州梅沢庄』と書かれた絵を見せて、「お前の母さんだ」とにこりと笑いました。
翌日、北斎と糸は揃って栄に呼び出されて、屋敷を追い出されてしまいました。

十年後、糸は美しい女になっていました。
白粉を塗ったかのような肌の白さと、一度見たら忘れられない線の整った切れ長の眼は、すれ違った男たちを振り返らせます。元結と簪で留めた玉結びで長い黒髪を流し、まるで遊女のよう。

買い物から家に帰ってきた糸は、眠っている北斎に違和を感じた瞬間、口を塞がれました。

(前略)何かがちらりと光ったように見えた。男の瞳だった。夜の海のような真っ黒な目に糸は見覚えがあった。
 糸が一歩、二歩と後ずさりすると首を思いっきり掴まれた。
「うーっ、うー、うー」
「声を出すなよ、その細い首、折ってやるのは簡単だ」
 地の底から出たような声に糸の幼き頃がいやでも思い出される。
 この声は――母の敵の大蛇だ。
 
(『鶴を斬った男』P.14より)

母だけでなく、育ての親、北斎まで大蛇の男に殺されてしました。
絶望して町を彷徨う糸。
無人の神社にたどり着くと、町の子供たちに、”雪女”だ、”妖怪”だとはやし立てられて石を投げられ虐められます。
そこに“鶴斬りの宮木”と呼ばれる若い武士上田宮木が助けに入りました。

宮木と別れた糸は茶店で、死体を描きたいという絵師渓斎残菊に出会い、大蛇のことを相談すると、宮木の家へと誘われます……。

物語は、運命に操られ、弄ばれるように惹かれ合う糸と宮木を中心に展開し、残菊と大蛇の男(黒鉄)が絡んでいき、謎が深まっていきます。

死んだはずなのに腐らない北斎の死体、鶴の血肉を食べると不死身になるという伝説、ホラーのようなオドロオドロシイ筋立てながら、綿密に張られた伏線が回収されていくのが気持ちよく、読後感もすっきりの時代ファンタジーです。
才能ある書き手と出会うことはうれしいこと。二作目も楽しみにしています。

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サイン本の特典の書下ろし短編で、ほっこりしました。

鶴を斬った男

鴉澄ねね
つむぎ書房
2023年4月2日第1刷発行

装画:Dimoon

●目次
第一章 黒の蛇と北斎の娘
第二章 北斎の死
第三章 鶴斬りの宮木
第四章 罪
第五章 氷の炎
第六章 迫りくる闇
第七章 鶴の娘
第八章 絵師の運命
第九章 復讐の獣
最終章 鶴の帰る場所

本文183ページ

■Amazon.co.jp
『鶴を斬った男』(鴉澄ねね・つむぎ書房)

鴉澄ねね|時代小説ガイド
鴉澄ねね|あすみねね|時代小説・作家 1993年生まれ。神奈川県出身。 2023年、『鶴を斬った男』で時代小説デビュー。 時代小説SHOW 投稿記事 →鴉澄ねねの本(Amazonより) ⇒時代小説作家リストへ戻る