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恩人・西郷隆盛を護れ! 元新徴組の剣豪沖田芳次郎の運命は

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『遺訓』|佐藤賢一|新潮文庫

遺訓佐藤賢一さんの長編歴史時代小説、『遺訓』(新潮文庫)を入手しました。

著者には、新選組の沖田総司の義兄で、新徴組創設に加わった、天然理心流の剣客沖田林太郎を主人公に描いた長篇小説、『新徴組』があります。
戊辰戦争で、庄内藩のもと、官軍と戦った熱き漢の物語です。

本書『遺訓』では、林太郎の息子であり、総司の甥にあたる、沖田芳次郎(よしじろう)を主人公にしています。

沖田総司の甥にして、天然理心流の遣い手たる沖田芳次郎は、旧庄内藩重臣から西郷隆盛の警護を依頼された。青年剣士はやがて西南戦争という激流に巻き込まれてゆく。西郷、大久保という二つの巨星。悲恋、戦塵をくぐり抜けながらの成長。戊辰戦争ののち西郷と庄内侍の間には熱い絆が結ばれた。『南洲翁遺訓』を後世に伝えた鶴岡に生を受けた著者が、熱き感慨をこめて描く、本格時代長篇。

(カバー裏面の説明文より)

物語は、明治六年の師走に始まります。
鶴岡で松ケ岡開墾場の社員になっていた、新徴組隊士の沖田芳次郎は、酒田県参事、松平権十郎親懐の屋敷を探っていた肥前者の密偵を尾行して捕らえました。
ところが、密偵はもう一人いて、示現流のかなりの遣い手で、逃げられてしまいました。
征韓論を巡って対立し、政府高官を辞して下野し、鹿児島に戻って静かに暮らしていた西郷隆盛のもとを、旧庄内藩の重臣酒井玄蕃が訪れました。

「本日は酒田県の両参事、すなわち松平親懐参事、菅実秀権参事の名代として参りました。託られましたところ、我ら庄内士族で一大隊を仕立てる用事がございますと」
「なんと」
「釜山の倭館を守衛いたします。さらに南洲先生の号令あらば、征韓の先鋒を務めることもやぶさかでなく、ご迷惑でなければ、この酒井玄蕃も隊長として」
 
(『遺訓』P.34より)

酒井玄蕃は、戊辰戦争では庄内藩二番大隊を率いて、秋田の戦場で官軍と伍して戦い、「鬼玄蕃」の異名で恐れられた名将。

玄蕃は西郷との面会の後、沖田芳次郎を最後の警護として鹿児島に置いていきました。

奥羽越列藩同盟が崩壊し、会津藩が惨敗し、無敗の庄内藩も降伏しました。
受けて官軍を鶴岡城下に進駐させたとき、西郷は周囲の反対を抑えて庄内藩に対して寛大な戦後の処分を行いました。

「武士がいったん兜を脱いで降伏したうえは、後の事はみらんもんでごわす。もしまた叛逆したらば、また来て討伐すればよか。なんも心配するに及ばん」と。

以降、庄内士族は西郷に恩人と慕い、明治四年に西郷が上京すると、庄内藩士の多くも政府に奉職しました。

官軍の西郷と敵味方として戦った庄内の武士たちが、西郷の高潔な人格に尊敬の念を抱き、西郷の教えを『南洲翁遺訓』という書物に編纂して、世に広めました。
その裏側で起こったドラマを通して築かれていった、人と人との絆に着目して読みたいと思います。

遺訓

佐藤賢一
新潮社 新潮文庫
2021年1月1日発行

カバー装画:ヤマモトマサアキ
デザイン:新潮社装幀室

●目次
第一部 明治政府
第二部 西郷暗殺
第三部 西南の役

主要参考文献
解説 大矢博子

本文641ページ

単行本『遺訓』(新潮社、2017年12月刊)を文庫化したもの。

■Amazon.co.jp
『遺訓』(佐藤賢一・新潮文庫)
『新徴組』Kindle版(佐藤賢一・新潮文庫)
『新版 南洲翁遺訓 ビギナーズ 日本の思想』(西郷隆盛著・猪飼隆明訳/解説・角川ソフィア文庫)

佐藤賢一|時代小説ガイド
佐藤賢一|さとうけんいち|時代小説・作家 1968年山形県鶴岡市生まれ。山形大学教育学部卒業後、東北大学大学院文学研究科西洋史学専攻修士課程修了。同フランス文学専攻博士課程単位取得満期退学。 1993年、『ジャガーになった男』で第6回小説す...