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「国滅ぼし」で国を医した、斎藤道三の三代の国盗り物語

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『まむし三代記』|木下昌輝|朝日新聞出版

まむし三代記木下昌輝さんの長編歴史時代小説、『まむし三代記』(朝日新聞出版)を紹介します。

2020年、著者は本書で第二十六回中山義秀文学賞を受賞しました。
斎藤道三の一族による美濃を統一を描いた戦国時代小説です。

道三といえば、2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」でも主要人物として描かれ、司馬遼太郎さんの『国盗り物語』の主人公としても知られています。

『国盗り物語』などで描かれてきた道三一代での美濃国統一は、新史料に基づく近年の研究では、父長井新左衛門と子長井新九郎(道三)の二代によって成し遂げられたという説が有力なようです。

そして、国滅ぼしである。
国を毒するとも、国を医す薬になるともいわれている。
たしかなのは、たやすく国を滅ぼす力をもっていることだ。
その国滅ぼしを、道三父子はいかに駆使したのか。
まむしと呼ばれた道三の一族三代の死によりそった男がいる。
その男の視点を借りて、語るのがいいだろう。
源太という名の童だ。
文亀二年(一五〇二)、
応仁の乱が終結して二十四年後の京の外れで、
数えで十二歳の源太は法蓮房という若き僧侶と出会う。

(カバー袖の説明文より)

応仁の乱以降、守護大名は力を失い、家臣たちが台頭して次々と下剋上が起き、将軍も同様で、この国は乱れに乱れた末法の世を迎えていました。

京の外れの荒れ寺の境内には、山城国西岡の武士の出である若き僧・法蓮房、源太のほかに、足軽くずれ・石弥、僧兵くずれの宝念、百姓くずれ・牛次、馬借くずれ・馬の助という荒くれ者たちが集まっていた。

六人は、幕府の実力者・細川“京兆”政元を待ち伏せで殺す依頼を受けていました。
夜の仕事に備えて仮眠をとる中で、源太は異質の法蓮房に興味を持ち話しかけました。

「坊さんは、どうしてこんな危険な仕事に応じたんだ。なあ、教えてくれよ。そしたらおいらは寝るからさぁ」
 法蓮房はため息を静かに吐き出す。
「国手だ」
「な、なんだ、そりゃ」初めて聞く言葉だ。
「上医は国を医(いや)し、中医は人を医し、下医は病を医す」
 唄うように法蓮房はいう。源太の脳裏によぎったのは、「この国は病んでいる」という法蓮房の言葉だ。
「国を医す上医を、国手という」
 
(『まむし三代記』P.20より)

細川政元暗殺に失敗した荒くれ者たち五人は、美濃の国で国手を目指すという法蓮房に付いて行くことになりました。

「細川京兆家の影響力がうすく、かつ京から遠すぎない土地を選び、まずはその国を医します。それには西岡は近すぎ、関東は遠すぎます。美濃の国へいきます。伝手もあります。そこで仕官し功をあげ、国を司る地位まで出世します」
 そうすれば美濃の国を医すことはたやすい、と法蓮房はいう。
「それは蛇の道だぞ。美濃の内乱は、特に激しいときいた。彼の国で成りあがるには、きれいごとではすまぬぞ」
 
(『まむし三代記』P.39より)

美濃での国盗りを始めた法蓮房は、五人に、仲間の証として、細工つきの永楽銭を一枚ずつ渡しました。その中には国滅ぼしの秘密が隠してあるので、失くしたり、持ち逃げしたり、銭を壊して勝手に秘密をのぞいたら殺すと殺気を込めて言いました。

法蓮房が美濃を掠め取るための武器、国滅ぼしとは何か。

本書では、法蓮房、名をあらためて長井新左衛門と、その息子新九郎(後の道三)による国盗りが、近年の研究結果を史実として織り込みながらも、物語性豊かに描かれています。

美濃国は、道三の子、豊太丸(後の斎藤義龍)へと引き継がれて、まむし三代記は完結しました。

ところで、本書では、国滅ぼしの秘密を解く手がかりとして、法蓮房の父で、西岡の庄の地侍の子松波高丸の応仁の乱でのエピソードが挿入されています。

本書は、子の義龍を入れた三代記と読むほかに、道三の祖父にあたる、高丸を含めての三代記として読み解くことができそうです。

まむし三代記

木下昌輝
朝日新聞出版
2020年2月28日第一刷発行

装画:影山徹
装幀:柳沼博雅
地図作画:谷口正孝

●目次
蛇ノ章
蝮ノ章
龍ノ章

本文448ページ

書き下ろし。
あとがきによると、「小説トリッパー」誌上に連載した『蝮三代記』を、元原稿の素材を一切使わずに、大改稿をした完全書き下ろし作品とのこと。

著者のこの作品に懸けた情熱と労力に頭が下がる思いがします。

■Amazon.co.jp
『まむし三代記』(木下昌輝・朝日新聞出版)
『国盗り物語(一)』(司馬遼太郎・新潮文庫)

木下昌輝|時代小説ガイド
木下昌輝|きのしたまさき|時代小説・作家 1974年、奈良県生まれ。近畿大学理工学部建築学科卒。 ハウスメーカー勤務後、フリーライターを経て、2012年、「宇喜多の捨て嫁」でオール讀物新人賞受賞。 2014年、同作品で152回直木賞候補、2...