2023年時代小説SHOWベスト10、発表!

弟子の仇を討つため、五霊鬼の呪詛者を探す旅に出る武蔵

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『孤剣の涯て』|木下昌輝|文藝春秋

孤剣の涯て木下昌輝(きのしたまさき)さんの長編歴史時代小説、『孤剣の涯て』(文藝春秋)紹介します。

剣豪・宮本武蔵を主人公に描く、伝奇色の強い歴史時代長篇。
著者は、本書で、2022年「第12回本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞しました。
文芸評論家の縄田一男さん、末國善己さん、大矢博子さんのベスト10から5作品を選び、さらに時代小説の目利きである書店員5名が選び抜いた1冊です。

今、もっとも面白く、書店が売りたい、お客様に読んでほしい作品です。

戦の時代がもうすぐ終わる。
かつて戦場を駆けた武蔵は、自らの役割がおわったことを認めざるを得なかった。弟子たちは逐電し、道場の存続が危ぶまれるほど借金もかさんでいる。そのような境遇の中、さる大名に形ばかりの免許皆伝の免状を出し、その見返りとして借金の肩代わりをしてもらう話がまとまりかけたが――

そのとき武蔵の元に「五霊鬼の呪い」の探索の依頼が舞い込む。この呪いをかけられた者は二年以内に死ぬと言われているが、大御所・徳川家康が「呪い」の標的になったというのだ。家康に呪いをかけた者を生け捕りにするのが武蔵の役割だという。

世を捨てると決めていた武蔵は、依頼を固辞する。しかし、武蔵の唯一のそして最大の理解者である弟子・佐野久遠が呪詛者に殺されたかもしれないとわかり、事態は一変。

呪詛者を探しだすことは、弟子の仇を討つことにつながる。武蔵は自身の中に再び生への衝動が湧き上がるのを感じ、呪詛者探索へと旅立つ。

(『孤剣の涯て』カバー裏の紹介文より)

慶長十九年(1614)。
戦国の世から徳川幕府による安定の時代に移ろうとしたころ。
家康は、豊臣秀頼の再建した方広寺大仏殿の鍾銘に難癖をつけ、豊臣家を潰そうと布石を打っていました。

そんなある日、街道で家康を呪詛する首が見つかりました。
それは、呪われた者は二年以内に亡くなるという「五霊鬼の呪い」でした。

家康の従弟で三河国刈谷三万石の大名水野勝成の家老、中川志摩之助から、大御所家康を呪詛する者を捕まえるように依頼を受けるところから、物語は動きます。

最愛の弟子佐野久遠が何者かと決闘の末、首を斬られて死んだという報せを受けた武蔵。久遠にかけていた夢を断たれて世を捨てる決意をしていたは、志摩之助の依頼を断ります。

「おい、勝手にさわるな」
 志摩之助の罵声は無視し、武蔵は刀に手をのばした。掴もうとしたが、指が震えてうまくいかない。
「それは呪い首の近くに落ちていた刀だ。呪詛者の佩刀やもしれんのだぞ」
 刀を目の前にかざす、なまこ透かしの鍔が目に飛び込んでくる。
 
(『孤剣の涯て』 P.34より)

その鍔は武蔵が造った鍔で、修行の旅に出る、円明流を継がせると決めた男、佐野久遠の佩刀にはめられていたものでした。
武蔵は、呪詛者が久遠の仇と認め、前言を翻して志摩之助の依頼を受けることにし、呪詛者を見つけ出し、妖かし刀を取り返すべく、豊臣方の大坂城に入ることに……。

探索の旅に出る武蔵に従うのが、志摩之助の三男で、水野家の小姓三木之助。
彼は上品な顔立ちで少年のような体つきながら、所作は大人びています。
剛の武蔵に対して、柔の三木之助という対照的な二人の相棒が大坂の陣で戦います。
そして、二人の前に現れるのが、鬼左京と恐れられる豪傑・坂崎出羽守直盛でした。

五霊鬼の呪いの謎を明らかにしていく伝奇ミステリーであるともに、大坂の陣の戦いを描く戦国小説としても秀逸です。

水野勝成、本多佐渡守正信、真田左衛門信繁、佐千姫、柳生宗矩、林羅山ら著名の人物から、女歌舞伎の出来島隼人、竹内流の総師範竹内藤一郎まで、魅力的な人物が次々に登場し、伝奇色豊かな物語に彩りを添えて、興趣が尽きません。

そして、なぜ己の剣が世に認められないのか苦悩しながらも振るう武蔵の剣の凄みが堪能できる剣豪小説でもあります。

歴史小説のコアなファンばかりか、ミステリーや伝奇小説に関心がある読者も楽しめる一冊で、第12回本屋が選ぶ時代小説大賞にふさわしい、読者を広げる作品です。

著者には、武蔵と戦って敗れていった男たちを通して、武蔵の剣と生き様を描いた連作集『敵の名は、宮本武蔵』もあります。
武蔵に興味を持ったら、押さえておきたい時代小説です。

孤剣の涯て

木下昌輝
文藝春秋
2022年5月10日第一刷発行

装画:蔭山徹
装丁:城井文平

●目次
序章 久遠の剣
一章 五霊鬼
二章 太刀筋
三章 兵法歌
四章 妖刀村正
五章 崩壊
六章 呪縛
七章 大坂炎上
終章 寂滅の刻

本文326ページ

「別冊文藝春秋」2021年5月号~2021年11月号まで連載したものに加筆した作品。

■Amazon.co.jp
『孤剣の涯て』(木下昌輝・文藝春秋)
『敵の名は、宮本武蔵』(木下昌輝・角川文庫)

木下昌輝|時代小説ガイド
木下昌輝|きのしたまさき|時代小説・作家 1974年、奈良県生まれ。近畿大学理工学部建築学科卒。 ハウスメーカー勤務後、フリーライターを経て、2012年、「宇喜多の捨て嫁」でオール讀物新人賞受賞。 2014年、同作品で152回直木賞候補、2...