『かなりあ堂迷鳥草子3 夏塒』|和久井清水|講談社文庫
和久井清水(わくいきよみ)さんの文庫書き下ろし時代小説シリーズの第3弾、『かなりあ堂迷鳥草子3 夏塒(なつねぐら)』(講談社文庫)を紹介します。
本書は、江戸は平川町で小鳥専門のペットショップ、飼鳥屋「かなりあ堂」を兄と二人で営むお遥(はる)を主人公にした、鳥にまつわる謎を描く、連作形式の時代ミステリーです。
その年生まれた若い雀が一本の木を塒に定めて集まることがある。それが夏塒。日が落ち寝入るまで雀たちが激しく鳴き合うさまは雀合戦。他にも秧鶏叩くくいなたたく)、百舌の速贄(もずのはやにえ)、鴨の浮寝…鳥たちをめぐる様々な言葉の裏にある謎を、江戸の飼鳥屋の看板娘お遥が解き明かしてゆく。心温まる、時代ミステリー。
(『かなりあ堂迷鳥草子3 夏塒』カバー裏の紹介文より)
その日、飼鳥屋のかなりあ堂を早く閉めて、近所にある平川天満宮に、若い雀の夏塒と雀合戦を見に出かけたお遥と徳造は、坊主頭の男の子が年増の女が持っていた巾着をひったくるところを見かけました。徳造が倒れた女を助けている間に、お遥は逃げた子供を追っ追いかけて麹町三丁目の横丁通りの横道へ行きましたが、その細い通りにある長屋のあたりで見失いました。
長屋の家の前には、女の子がしゃがんで棒きれで地面になにかを書いているだけで、男の子が来なかったのか聞いても首を振るだけでした。
神隠しにあったかのように消えた子供に首をひねりながら、家に帰ると、徳造はまだ戻っていません。
外がすっかり暗くなってから、徳造がようやく帰ってきました。女の人は巾着を引ったくられた拍子に転んで、足をひねったとのことで、家まで送っていたと。女はお早代と名で、お城勤めの祖父と二人暮らしだといいました。
さて、男の子はいったいどこに消えたのでしょうか?
お遥は、花鳥庭園をつくるのが夢です。肥前の小藩の側室であるお方様のために、孔雀が空を飛び、そのほかにも鳥や珍しい生き物や花を置いた庭園です。自分が生んだ跡継ぎを正室に奪われて以来、気鬱の病に罹っていたお方様は、花鳥庭園が完成したあとの想像をするだけで、心躍らせ元気になっていきました……。
本書では親子の情が重要なテーマになっています。
家族の数だけ、親子の情の表現はあるようで、他人にはその間に立ち入ることができない、心のつながりが巧みに描かれています。
第二話の「秧鶏叩く」では、お遥は鳥見役の旗本八田伊織に、「クイナの声を聞きに行かないか」と、浅草橋場町の高級料理屋に誘われました。
近頃は料理に舌鼓をうちながらクイナの声を聞くのが人気で、橋場や佃島の料理屋が大はやりだとか。
「おしなべてたたく秧鶏におどろかば うはの空なる月こそ入れ、か」
伊織が刃物のような細い三日月を見上げて言った。
源氏物語の澪標の巻で、光源氏が歌った歌だ。花散里があまり訪ねてこない光源氏を恨んで、「秧鶏でも戸を叩いて知らせてくれなかったら、どのようにして月の光のあなたを迎え入れることができたでしょう」という恨み言に返した歌だ。(後略)
(『かなりあ堂迷鳥草子3 夏塒』 P.58より)
恋に奥手なお遥と伊織の関係にも、クイナの力が必要なようです。
二人の恋の行方も読みどころの一つとなっています。
今回もお遥の鳥にまつわる謎解きの結末ともに、人と人とのもつれて絡み合った糸を解きほぐすことができるのかも気になり、ページを繰る手が止まりません。
かなりあ堂迷鳥草子3 夏塒
和久井清水
講談社・講談社文庫
2024年3月15日第1刷発行
カバー装画:中島陽子
カバーデザイン:赤波江春奈
●目次
第一話 夏塒(なつねぐら)
第二話 秧鶏叩く(くいなたたく)
第三話 百舌の速贄(もずのはやにえ)
第四話 鴨の浮寝(かものうきね)
第五話 小鳥合わせ
本文257ページ
文庫書き下ろし。
■今回取り上げた本
![](https://www.jidai-show.net/wp/wp-content/uploads/2023/04/4065293553-160x90.jpg)